フォーサイス公爵邸(1)
その後は横にいるギルバート様とか、シンディー先生を眺めていた。そうして馬車に乗っていると、思っていたよりもすぐに公爵邸に到着した。
ギルバート様が先に降りて、シンディー先生、私、とエスコートしてくれた。すごい、本物の紳士だ。
そのまま、私はギルバート様にエスコートされながら屋敷を進んで行く。シンディー様は、相変わらず私たちの前を歩いている。
前世の記憶を思い出してしまったからなのか、今のこの状況、だいぶ恥ずかしい。
だってさ、こんな風にイケメンにエスコートされるとか、無いじゃない??気持ちからすると、すごいアイドルにVIP扱いされてる気分だよ。ちらりと隣を見ると、とても綺麗な顔。ふわぁ、イケメン。すごくイケメン、そして紳士。エスコートとか、紳士すぎる。思わずぽーっとしてしまう。
はっ!!だめだめ、しっかりして私!!ちゃんと歩くのよ!!またここでこけたりしたらダメよ!!私だって、今はものすごい美人だもん!!金髪美女だもんね!!私も芸能人側に入れるよ!!
そうやって思考を捻じ曲げているうちに、応接室に到着した。公爵邸の凄さを見ている余裕とかなかった。残念だ。帰りにしっかり見ておこう。
各々が座り、紅茶の準備などがされる。そして、人払いがされると、ギルバート様が防音の結界を展開した。おお、やっぱりすごいな。そして、シンディー様が口を開く。
「ごめんなさいね、ここまで来てもらって。さて、話をしましょうか。それじゃあ、まずは、あなたが馬車の中で聞こうとしていたことから、でいいかしら??」
「はい。お願いします。」
「ではまず、なんであなたのことを、この子を使って守る、と言ったかについてね。スピネットさん、魔法、解いてくれる??」
「は、はい。」
私は言われた通り、髪の色をもどす。
「ちょっと失礼。」
そう言うと、シンディー先生は立ち上がって、私の前に来た。そのまま流れるように少し屈んで、私の髪を1束持ち上げた。そして、それを口元に持っていき、キスをした。
え??なんでキス??ぎゃあ!!美人!!近い!!距離が近いよ!!惚れちゃう!!女子だけど惚れちゃう!!かっこいいんだけど!!
もちろん、心の中だけで叫びましたとも。ええ。どれだけ混乱していようと、声に出すなんて真似はしていませんよ。ふふん、これでも私、淑女ですから!!
「これは……」
先生は、難しい顔になる。
「??あの、シンディー先生、今ので何か分かったのですか??」
「ふふ、ええ。勝手にキスしちゃってごめんなさいね。」
「いえ、全然大丈夫です!!先生美人さんですから!!こんな美人さんにキスされたら、誰でも惚れちゃいます!!」
あ、やばい、つい本音が。私は慌てて口を押さえたけど、遅かった。言った瞬間、先生の目が見開かれていく。私は、パッと下を向いた。
「……」
無言が怖い……
私が恐る恐る顔を上げると、先生は、口元を押さえて下を向いていた。しかも、肩を震わせているように見えるのだが。
ん??あれ??もしかしなくとも、先生、笑いを堪えていませんか??あれれ??
「っ、ふふ、ふふふふ、あはは、」
とうとう堪え切れなくなったのか、先生は声を上げて笑い出した。
「せ、先生、何もそこまで笑わなくても…」
つい拗ねた感じになってしまう。だって、本当に美女じゃないですか、先生。私は本心を言ったまでですよ。
「っふ、」
あれ??なんか、隣からも笑いを堪えている雰囲気がするんだけど、気のせい??
そろりそろりと隣を見ると、こちらも口元を手で覆っている。
って、うそ!!ギルバート様が笑いを堪えるとか、何事!?この人、ほんとに氷の魔導士さんなの!??嘘でしょ!!もうそうとしか考えられない!!
私は2人のことをねめつけてしまう。
「んんっ。ふふ、ごめんなさいね、スピネットさん。ふふふ、ねえ、あなたのこと、レイラさんって呼んでもいいかしら??」
「全然構いませんけど……」
それは本当に全然良いのだけれど、そんなに面白かったか??そんな笑うことでもなくない??
まあいっか。無礼だ、とか言われなかったし。うん。いや、言われるとは1ミリも思ってなかったけどさ。




