はじまり(1)
初投稿。
登場人物の名前が登場するごとに、後書きにネタバレにならない範囲でプロフィール的なものを書こうと思います。
学園に入学してから1ヶ月ほどがすぎ、友人もでき、今の生活に慣れてきた頃。
「相変わらず美味しいわぁ〜。」
「この食堂のご飯は最高よね。」
私の友達2人はとても優雅に昼食を食べているが、私はそれどころではない。
「レイラ、そんなに急いで食べてどうしたの??」
「むぐむぐ……サラ、私資料室に行かないといけないのよ。」
「ああ、そういえば先生に言いつけられてたわね。」
「そういえばそうだったわね。休み時間はまだあるから、そんなに急がなくても大丈夫だと思うけど…」
「だめよケイト、レイラは壊滅的に食べるのが遅いじゃない。」
「そうね…」
「むぐむぐ…」
今日は日誌の係だったのだ。先生から雑用を任されるのも仕方がない。
そんなわけで、私はサラとケイトが話しているのを聞きながら、ひたすら口を動かしていたのだった。
「ふぅ、食べ終わった〜。おいしかった〜。」
「じゃあレイラ、私たちは先に教室に戻ってるわね。」
「うん、あとでね、サラ、ケイト!」
壁に貼ってある地図を確認する。資料室は一階の端っこにあるようだ。ふむ、食堂からなら庭園を抜けると早いらしい。行ってみよう。
そう思って庭園に来たとこまでは良かったのだが、なぜか庭園から出られなくなってしまった。この薔薇の生垣、まるで迷路ではないか。綺麗だけど。うーん、困った。
人を探しながら、綺麗な庭園をしばらく徘徊していると、人を見つけた。王太子様の婚約者、ノルベルト公爵家の娘であるアリス様だった。
やった!人だ!と思い、近づいていくと、アリス様は噴水の前で立ち止まった。そこにはなぜか、ミナージュ男爵家のエミリア様が一緒にいる。王太子様に引っ付こうとしているとかなんとかでとても有名な人で、記憶力の悪い私でも知っている、とてもホットな人物だ。
両者、噴水の前で睨み合っている。まさかキャットファイトが始まるのか??まさかのテンプレみたいに噴水に突き落とすの??とか思っていると、お話し合いが始まった。テンプレ噴水突き落としはしないようだ。良かった。……あれ?テンプレ、って、なん、だろう??
「っ!?」
……あ、れ??私、何を、不思議に、思ってた、の??……まあいっか。
会話が終わるのを待って、2人の後ろをついて行こう。そうすれば、この庭園から出られるだろう。盗み聞きするようで申し訳ないけれど、仕方がない。さらに迷子になりたくないんだ。会話の内容が気になるっていうことだけが理由じゃないから、ね。
とりあえず私は薔薇の陰に身を潜め、オーディエンスになることにした。
「今日、私があなたをここへ連れてきた理由はわかるかしら??」
「えっと、その、ですねぇ…」
エミリア様は上目遣いにアリス様を伺っている。そこにアリス様のジト目が刺さる。
そんな状態だが、改めて2人のことを見ると、両者ともに綺麗な人だということがよくわかる。アリス様はサラサラの銀髪に空色の綺麗な瞳をしていて、月の女神のようだ。エミリア様はゆるく波打つ明るい茶髪に珍しい金茶の瞳をしている。こちらはどことなく小動物感があってかわいい。
「ほとんどわかってないです!!その、何か悪いことをしたのはわかってるんですけど…」
おお、エミリア様めちゃくちゃ素直な人なんだな。そしてやっぱりわかってなかったのか。アリス様、ちょっとキョトンとしてる。こんな素直に言われると思ってなかったんだろう。
「はあ、何がよくないことだったのか、わかっていないのね??」
「すみません、ノルベルト様。私、まだ貴族のことに詳しくなくて、何がよくて何がダメなのかわからないんです…」
うーん、やっぱりあの噂は本当なのかな??エミリア様は孤児院育ちっていう……
「それでは、この私がきちんと教えて差し上げるから、次からお気をつけになって??」
「はいっ!!わかりましたぁ!!」
ちょっと返事の元気がよろしすぎる気が……
「はあ……まず第一に、殿下に近づきすぎです。殿下にはお立場というものがあるのです。それなのにあなたが周りでキャンキャンしていたら迷惑なのです。……私だって殿下とお話ししたいのに……」
んん??これはかわいいぞ??なんかシュンってしたよ??いや、かわいすぎる。
「んんっ、お分かり??」
ごまかし方もかわいいですね。はい。
「ノルベルト様、私、キャンキャンはしてないんですけど…」
あ、エミリア様のあれ、無意識なんだ……
「あなたがそう思っていなくても、周りからはそう見えていてよ。王太子に媚を売ってる娘、ってね。」
なんかアリス様の顔が悪役令嬢っぽいです!美しい笑顔です!!ほんと女神!!…ん??あ、れ、、悪役令嬢って、な、に??
「いっ……」
……また、頭痛が……あれ??私、今、なにを、なんだろう、って、思った、の??
「えっ!!ほんとですかぁ!!それは困っちゃいますぅ……」
「困るのなら、きちんと礼儀作法を学ぶことね。あなたは貴族になったのよ。その意識を持ちなさい。そうでないと、あなたの首を自分で絞めることになるわよ。」
「うっ。礼儀作法、苦手なんですよねぇ、ははは。」
エミリア様、ほんとに嫌なんだな…目が遠くなったよ……
「だいたい、廊下を走り回るなんて淑女がすることじゃないんですのよ。礼儀作法を学ぶことは必要事項です。お分かりになって??」
廊下走るのはほんと、普通に危ないのでやめてほしい。うん。ほんと、ぶつかって吹っ飛ぶの痛いから。あ、れ、?何言ってる、の??わた、し、吹っ飛んだこと、ない、よ、ね?
「うっ……」
なん、か、おか、しい……
「えぇ〜、嫌ですノルベルトさまぁ。助けてくださいぃ〜」
「こら、語尾を伸ばさない!!しがみつかない!!」
「はいぃ!」
「仕方がないから、私があなたを見てあげても、よろしくってよ。それから私のこと、名前で呼んでくれてもよくってよ。」
素晴らしきツンとでれだぁ!!副音声に(ツンッ)と(テレッ)が見える。私には見えるぞ。アリス様、かわいい。うん。これぞツンデレ。ツンデ、レ??あ、れ??ツンデレ、って??……なに、が、おかしい、の??……
「っ、……」
頭が、ぐるぐる、す、る……
私の背後から、足音がする。だれ、だろう??振り返ると、王太子様とその側近の方々がこちらに向かって歩いて来ていた。
「うっ……」
ああ、頭が、ぐるぐる、ぐるぐるする。
ああ、これ、は……そう、だったの、か。悪役令嬢も、ツンデレも、この世界には、無い、言葉。
ヒロイン、悪役令嬢、ツンデレ、ゲーム、テンプレ、前世、異世界、転生、日本……
そんな言葉がポツポツと浮かんできたかと思うと、濁流のような記憶に私は飲み込まれた。
アリス・ノルベルト(14歳)
ノルベルト公爵家の娘。綺麗な銀髪に空色の瞳。
エミリア・ミナージュ(14歳)
明るい茶髪に珍しい金茶の瞳。