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45 部長は僕に話があり、僕の秘密を暴く

楽しんでいただければ嬉しいです。

 アヤとポチは、お大事に、と言って部室を去った。


 いまいち覚束ない手つきで部長は使い捨ての紙コップにコーヒーを淹れて僕の前に差し出す。普通のインスタントコーヒー以上でも以下でもない、普通の味だった。


 「文句は言うなよ、味を保証するとは言ってない」


 傲岸不遜な部長に似合わない、ただの言い訳だった。その姿に内心で苦笑していて、ふと気づく。部長と二人だけで向き合うのは、初めてこの部室に連れ込まれた時以来だ。


 「……千条院なら気づいているだろうが、私は別にお前の体調を気遣ってここに残ってもらった訳ではない。話がある」


 確かに気づいていた。僕の体調を配慮するのであればポチとアヤに保健室へ連れて行かせるほうが自然なのだ。それでもこのまま暫く休憩したい僕は部長と話をすることにした。


 「どんな用件ですか?」


 「用件を話す前に、先に謝っておく。おそらくその方が話が早い」


 そう言って部長は席を立ち、僕のすぐそばまでやってくる。そして僕の手から紙コップを取り上げて長机に置いた後、にやりと笑って言う。


 「歯ぁ食いしばれ」


 理不尽な暴力が僕を襲うのか、と困惑した僕は、言われるままに歯を食いしばり、それでも目を閉じるのをはこらえて僕に向かってくるはずの部長の拳の動きを捉えようとした。


 部長が開いた手を上段から振り下ろす。その手は僕の顔の前を通過し、胸の前を通り抜け、最終的にスカートの布地越しに僕の股間を掴んだ。


 「~~~~~~~~っ!?」


 僕は股間にぶら下がるものを掴まれたこと以上に、自分の隠していた秘密が部長にばれた、あるいは既にばれていたということに対して声にならない叫び声を上げた。


 お、これはなかなか、という部長の言葉の続きを聞きたくなくて、僕は今度こそ声を上げる。


 「いったい何のつもりですか!? 変態ですか!?」


 「……そう怒られてもな。言っただろう、先に謝っておくと。ちなみに歯を食いしばらせたのは声を上げづらくさせるためだ。許せ」


 罪悪感を毛ほども感じさせない口調で部長は言う。僕は何か反論しようとするが、部長のほうが一足早く口を開いた。


 「ま、私の言いたいことはこれで分かっただろう。私がお前の秘密を知っているということだ。しかも中学時代から含めて、全部」


 衝撃の告白だった。千条院の本家に保護されていてなお、僕の秘密が外部に漏れることがあるのだろうか。けれど実際にバレている、何故なのか、やっぱりエスパー……


 素直に部長の言葉を受け入れられない僕を置き去りに、部長は言葉を続ける。


 「タネを明かすなら、お前の姉、千条院結が何を考え、何をして、その後どうしたかを私が全て調べ上げたということだ。彼女が計画し行動し隠蔽する、その一部始終を私が調査した。結果彼女の手に収まった情報が、そっくりそのまま私の手にも収まっている。簡単な話だろう?」


 「……言うのは簡単だと思いますが」


 「その通り、実行するのは簡単ではなかった。だが不可能でもなかった。彼女の情報収集能力はなるほど高水準だ。しかし彼女の強みは対人の情報収集工作であり、情報通信技術の活用や悪意ある行動への対策という面は相対的に弱い。それが理解できるレベルの人間であれば、実現するための策を講じることはできた」


 「つまり部長は、姉様の弱みを理解できるレベルの人間だった、ということですか?」


 「恐れながら。ただ、私はドッキリや自慢話をしたいわけじゃない」


 「本題は何ですか?」


 「文化研究部の行動理念、そして色浦冬子について」


 冬姉の話題はまだ分かる。こちらが秘している情報をすべて知っているのであれば、僕と冬姉の関係も把握しているのだろう。


 ただ、文化研究部の行動理念という、僕自身『そんな単語聞いたことあったかなあ……?』、と思うくらいになじみの薄い言葉について語るという、部長の意図が僕にはまるで想像できない。


 「順を追って話していこう。幸い時間はある。君にとって重要な情報であることは保証するよ。コーヒーを入れるよりは余程自信があるんだ」


 そう言って、部長は長い一人語りを始めた。

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