20 改造の結果、ギャルヤンキーに泣きつかれクラスメイトを引かせる
本日の投稿は一旦これで完了です。
楽しんでいただければ嬉しいです。
僕が改造計画に則って、第一段階で柱井先輩に肩透かしを決め、第二段階では横山先輩とその取り巻きをまとめて恐慌に陥れ、最終的にジャンピング土下座に近いごり押しで願いを聞き届けてもらったあの日から数日が立つ。
最終段階に無事至った……というより強引にこぎつけた後、僕にできることは先輩たちが時間をかけて上手いことよろしくやってくれることを願うだけという状態だった。
端的に言えばオチを放り投げた状態である。
姉様ならもっとうまくやっていたのかもしれない、次に誰かを改造するときはもっと念入りに最後まで計画立てないといけないなぁ、などという今後役に立てる機会もないだろう教訓を、僕は今噛み締めている。
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今日は週明けの月曜日。今は昼休憩である。
僕が教室でクラスメイトと一緒にお弁当を食べようと席を移動していたタイミングで、急に皆が僕と距離を取った。
別に一同示し合わせて僕に嫌がらせを仕掛けたわけではない。
偏に、僕の身に降りかかった異常事態に対する驚愕と敬遠のなせる業だった。
僕は突如現れた横山先輩にしがみつかれ、まるで拝まれるように感謝されていた。
金髪だったショートボブは明るさを抑えたブラウンに染まっていて、校則通りにブラウスのボタンを上まで止め、スカートの丈は膝上5センチに収まっている。
垂れ下がった髪の隙間から覗く耳たぶにはピアスホールが開いているけれど、シークレットピアスもつけていないので、このまま塞がってしまってもいいと考えているのだろう。
バッチリきめていたけどあまり似合っていなかったメイクは、施されているかどうか判然としないレベルにまで薄くなっていた。
下手をすると眉を書いただけなのかもしれないけれど、整った目鼻立ちときれいな肌だけで十分に見栄えしていて、メイク前よりもずっと、あるいは僕が初対面の時に想像したとおりに、魅力的に思えた。一言で言えば健康的な美形だった。
素晴らしい、と僕は内心で喝采をあげる。
冴さん仕込みの僕のメイク心は今、ようやく満たされたのだ。
そんな劇的ビフォーアフターを成し遂げた横山先輩は、暑苦しいほどの感謝の念で折角のきれいな顔をくしゃくしゃにゆがませながら僕を見ている。
なお、これまでのところナチュラルメイクの元・黒ギャル先輩が僕に泣いてしがみついている、という状況しか判っていないので、何故このような状況に至ったのか僕はまるで掴めていない。
「ありがとうございます姉貴っ!」
「……あの、横山先輩? どうかしたんですか? 新手の嫌がらせですか? あと私は姉貴ではありませんよ」
「姉貴のおかげでウチ、話せて、ウチら、やっと……ぐひっ、ぐひっ……」
ウチら、と言った先輩が一瞬教室の外を見て、それにつられて振り向いた僕の目には、校則のドレスコードギリギリを攻める程度の、これまでと比べれば随分と大人しい制服姿で僕のことを警戒する取り巻きの先輩方がいる。
さらにその後方には、何だか申し訳なそうな表情でこちらを見る柱井先輩の姿があった。
ただ、先輩のその表情にはただ爽やかなだけではない、何か大事なものを見守っているような優しさが混ざっている。
……これ、ひょっとして改造計画の最終段階成功してない? もう? いや、半年すれ違ってこじれておいて数日で解決するの? と僕は思う。
「泣かないでください先輩、きっといいことがあったんですね。あと姉貴ではありません」
辟易しながら先輩の涙をハンカチで拭う私の様子を見ていたクラスメイトは、困惑しながらも口々に解釈を加えていく。
「……あの人、先週まで千条院さんに絡んでたギャル先輩でしょ?」
「あのおっかねえ先輩をギャン泣きさせるとか……」
「……千条院さん……何というか、パない」
僕を取り巻く視線に畏怖の念が混じり始めたのを感じる。何でこんなことになったのだろうと内心で独り言ちる僕の前で、横山先輩はうるんだままの深紫の瞳で僕を射抜いたまま、再び目じりに涙をため始める。
「何でそんなに優しくしてくれるんですか、姉貴。ウチ、姉貴に…ぐすっ、ひどいことして、謝らなくちゃって……なのに」
優しくするのは僕が恋のキューピッドに改造されてしまったからですね、と言っても伝わらないので僕は無難な返しを選ぶことにした。
「謝るなんてそんな……先輩方が私のお願いを聞いてくれただけで充分ですから。あと私は姉貴じゃないです」
「ならせめて、恩返しだけでもさせてください! 何かあったら……絶対力になりますから! だから、姉貴ぇ……!」
「だから、私は姉貴では……」
姉貴呼ばわりを訂正するのもキリがないと思い始める僕を、ママと一生に一度の約束を交わそうとする子供のような目で先輩が見上げる。庇護欲とも罪悪感ともつかない、不思議な感情が僕の胸にこみ上げる。
僕は妥協することにした。
「……姉貴でいいです」
「……っ、ありがとうございます! 姉貴ぃ!」
つぼみがほころぶような笑顔がまぶしい、誕生日プレゼントを受け取った子供のような視線がくすぐったい。
「姉貴ー! ウチ、横山友穂は姉貴の舎弟ですからー!」
こうして僕は泣く子も黙る元・黒ギャルヤンキーを更生させて舎弟にしてしまった。
ぶんぶん手を振って教室を後にする横山先輩を見送りつつ、『……僕が求めた改造ってこういうんじゃなかったんだよなぁ』、と落胆と疲労感が交じり合う複雑な気分にさせられた僕に、恐る恐る声がかけられた。
「千条院さん、あの先輩に何したんですか?」
隣の席の男子だった。もみあげに垂れる柔らかそうな髪が垂れた犬耳のようで、しかも存在感が犬っぽいのでポチと呼ばれていると聞いたことがある。僕もそう呼んでいた。
「ポチさん? そうですね……お願い事、でしょうか」
脅迫もした、という事実は伏せて僕はあいまいに微笑んだ。
「それであの態度……? なんか、カッコいい! 千条院さんってすごいんですね!」
僕に向けられる純粋な敬意のこもった眼差しが後ろめたい。千条院の罪深さにどうか気付いてほしい。にしてもこのシンプルで裏表のなさそうな反応は確かに犬っぽい、と僕は思う。
この視線から逃れなければと思考を巡らせる僕に助け舟を出してくれたのは夏目さんだった。
「あの先輩たちをどうにかしちゃうなんて……。力になりたいと思っていたけど、私のアドバイスなんて余計だったかもね」
そう遠慮がちに声をかける彼女に向き直り、私は首を横に振る。
「そんなことありません! 夏目さんにはご心配をおかけしてしまいましたし、むしろ何かお礼したいくらいです」
アドバイスをもらっておきながら一方的に心配を掛けただけだったので、僕は心からの感謝をこめてそう言った。
夏目さんの反応は僕が想像していたよりも大きかった。
特に、お礼、という単語に対して。
「……お礼って言った?」
「言いました、けど?」
「本当に?」
「本当、です。私に出来ることでしたら喜んで」
若干強い圧を僕に向けながら夏目さんは何かを思案していたけれど、やがて意を決したように僕を見つめて口を開く。
「……それなら一つ、相談があるんだけど、いいかな?」
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