17 クラスメイトの心配もむなしく桜花門高校の無法地帯へと連れ去られる
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傍から僕を見ていた人間が仮にいたとして、その人間が想像するよりも十倍は緊迫していた自信がある昼休みを終え、改造計画の合間の休憩時間として午後の授業を過ごした結果、僕は放課後を迎えた。
僕は片桐が僕の教室に現れるのを待っていた。
遅くとも帰りのホームルームが終わった後、五分もせずにやってくるはずだった。
「おーい初様、今日は用があった……あ、違う、何だっけ。そうだ、あるから、俺先に帰るわー。お前も気を付けてもどっ、てか、帰れよー」
予定通りに現れた片桐は、おままごとからやり直さなければいけないレベルで演技が下手である。
あらかじめ決めていた通りの台詞をたどたどしく述べ伝える片桐に僕は笑顔でうなずき、控えめに手を上げ、その後冷たい視線とともに顎を小さく振り、『ぼろを出す前にさっさと消えろ』、とばかりに無言で合図する。
ちなみに片桐はこの後本当にどこかへ行くわけではなく、隠れて僕の周辺警戒に回る予定だ。
さて、作戦開始だ、と気を引き締めようとした僕に夏目さんが近づいてきて僕に確認する。
「千条院さん、本当に一人で大丈夫? あの先輩、千条院さんとよく一緒にいる人だよね……?」
僕が一人で下校する事実とその結果見舞われるだろう危険に目ざとく気づいた夏目さんが、僕を心配してくれる。
もともと作戦実行は一人で行う予定だし、いざとなったら片桐と僕の二人がかりで全員病院送りにするから大丈夫ですよ、と言えない僕は、せめて夏目さんを安心させようといつも通りの柔和な笑みを返す。
「ありがとうございます、夏目さん。でも迎えの車が来てますから問題ありませんよ。それでは、また明日」
そう言って、僕は今夜の晩御飯のメニューを気にしているような呑気さを装って一人、教室を出ていく。
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改造計画の第二段階の作戦内容は、横山先輩と話をつけ、最終段階への布石を置くこと。
字面だけ切り取れば、第一段階のそれと大差はない。
けれど、さわやかイケメンの柱井先輩とド迫力の黒ギャルヤンキー軍団、という違いがこれから僕が取る行動を大きく変化させる。
例えば、僕は敢えて単独で教室を後にして、昇降口で靴を履き替え、校門を出るまでの間、周辺を油断なく観察しなければならない。
危険を避けるためではない。危険を確実に呼び込むためである。すべて計算づくの作業ではあるけれど、それなりに精神をすり減らす作業だ。
少しうんざりした心持ちで廊下を歩くと、1年A組の生徒がいつも校舎の上下移動で利用する最寄りの階段のそばで、横山先輩と取り巻きの先輩方が僕を待ち受けていた。
やった、もうこの作業終わったぁ、と少しだけ明るい心持ちになる僕は、先輩方に軽く会釈をしたうえで近づいていく。
皆一様に剣呑な視線を投げかけてくるけれど、恐怖のレポートを丹念に読み込んでしまった罪悪感を抱える僕は、内心で彼女たちへの敬称を省けなくなっていた。
僕はその場で即流血沙汰にならないよう、慎重に自分の態度と言動が先輩方に与える影響を考慮して、声をかける。
「……お待たせいたしました」
「覚悟はできてるってか、上等じゃねーか……付いて来い」
僕は横山先輩の迫力を前に、そう言えば遺言書いてなかった、と考えながら大人しく付いていく。
おそらく行先は特別教室が集中する五階から通常出入りを禁止されている屋上へと続く階段の踊り場だ。校内を巡回する教師や警備員の気まぐれがなければ滅多に人に発見されることのない、桜花門高校の無法地帯である。
仮に、『はい、それではここでコイツを解体しまーす』、と先輩方に宣言されたとしても、助けはすぐにはやって来ない。そういう場所だ。
……もっとも、僕は横山先輩が本格的な暴力を僕に振るうことはない、というよりは誤って振るってしまわないように努めるだろうと踏んでいるんだけれど。
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