10 身内からクズとの評価を頂戴しつつクラスメイトから親切なアドバイスをもらう
新エピソード今日から開始です。
予定を変更して本日二話(1/2)投稿です。
楽しんでいただければ嬉しいです。
入学から一週間が経過した。
冬姉との再会に端を発する動揺を引きずりながら迎えた月曜日の早朝。僕は姉様と冴さん、そして片桐のいる千条院家の屋敷の一室で先週の活動報告を行っている。
体験入部を通じて顔を売った、今週も継続予定。学業やクラスメイトとの関係は今のところ問題なし、その間21通のラブレターと13人の告白、不特定多数のナンパのお誘いを右から左へと受け流した。要約するとそういう内容である。
室内は静まり返っている。冴さんと片桐が無表情のまま僕を見ていた。
そして姉様が重たい口を開く。
「……恐ろしいくらいに順調ね。ちなみにラブレターには具体的にどう対処したの?」
「受け取ったものは全てファイリングした上で、差出人が書いていないものは放置。内容が告白の呼び出しだったものについては、応じた上で直接振りました。そうでないものは、ワンチャンあるかもしれないと匂わせる文書を手書きでしたためて相手のロッカーに放り込んでおきました」
「……私が言い出したことだと分かってはいるけれど、アンタに心を奪われた人間を哀れに感じるわね。完全な流れ作業じゃない」
「仕方ありません、私は囮としての役目を果たしたまでです。それにみんなが皆、本気というわけでもないようですから」
三人の視線が、お前は血も涙もないただの改造人間だ、と非難しているような気がするけれど、僕は平然とそう言葉を返した。
一つだけ言えば、僕のささやかな良心は一週間痛みっぱなしである。仮に冬姉から同じ仕打ちを受けたら秒で身投げする自信が僕にはあり、未遂とはいえ実績もあった。
「……にしても、よくよく考えると私を好きだった男たちを根こそぎ奪われたみたいで何だかモヤつくわね。何かしらこの気持ち……」
僕を囮に仕立て上げておきながら勝手なことを言っている姉様の言葉に、僕は何の反応も示さない。
「……まあいいわ、話は分かったから。でも、一つ気を付けておいたほうがいいわね」
「何にですか?」
その時姉様から聞いた答えと同じことを、僕はその日の朝の教室で再び聞かされた。
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「ここだけの話、気を付けてね千条院さん。なんか先輩たちの怒りを買ってるみたいだよ?」
そう言って小声で僕にアドバイスをくれたのは、同じクラスの夏目文さんだった。
夏目さんは年齢以上に大人っぽい雰囲気を漂わせる明るい美人で、噂に聞く限り、彼女は彼女で何度か男子からの告白を受けているはずである。
きっとこれは似た境遇の僕にやさしくしてくれているのだろう、いい人だなあ、と僕は思う。
「……怒り? 何でですか?」
「嫉妬……っていうのが、多分本当のとこだけど。千条院さんに告ったりナンパしたりしてる男子を好きな女子達が、今結構ヤバイらしいって」
「ヤバイ……ですか。それってどの位……」
「……文字通りに、血を見るくらい?」
うわぁ……、と僕は思った。
何でも僕が恨みを買っている女子の中には、この学校でもっとも恐れられる伝説のギャルヤンキー集団が含まれていて、中でもそのリーダーのサッカーボールを蹴り飛ばすような一撃は男子すら一撃でKOするとささやかれているらしい。
「私、サッカーボールにされるんでしょうか……?」
と、わざとらしくひるんで見せた僕がこの時、思ったことは三つだった。
ます、女子に手をあげるという罪悪感にさえ目をつぶれば、怖いギャルが何人いようと近接格闘術を仕込まれた僕の相手ではなく、逆に血祭りにあげることも出来るだろうということ。
次に、そういうのってフィクションとかその辺のガラの悪い高校とかの話だと思っていたのに、まさかこの学校にそんな存在がいるなんて……、ということ。
そして、やばい、面倒くさい、ということ。
どうすればいいんだろう、仮にも千条院の令嬢が複数の女子を単独でフルボッコはやっぱりマズいかなぁ……、なんて考えていると、夏目さんが僕に優しく言った。
「千条院さん、今朝も昇降口でナンパされてたでしょ? なるべく一人ではいないほうがいいよ、私でよければ一緒にいてあげるから」
「それは助かります。ありがとうございます、夏目さん」
僕が小声でお礼を言うと、夏目さんはウインクをして陽キャグループの会話の輪に混じっていく。
僕は少しだけ夏目さんへの認識を改めた。
きっと夏目さんは、すごくいい人だ。
本日 20:00 頃に次話投稿予定です。
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