3. 静かなる人喰いスライム グラゾーラ
「ミナ、コレ、オイシイネ」
「そうね!一回流行ったときに作ろうと思って、そのまま作らずじまいだったけど、こんな事なら作っておけばよかったわ!、まさかラムネ味のモチモチなんて!」
「ミナ、キット、シンゲンモチトハ、チガウヨ?」
私たちの目の前に現れたのは私の2倍はあろう、水信玄餅だった。
ぱっと見いないんじゃ無いかと思うくらい存在感がなくて、最初はちょっとびっくりしたけど、正体がお菓子である事がわかり、お腹が空いていたのもあって、マロンと一緒に食べる事にした。
でも不思議ね、まあ夢だからなんだろうけど、この水信玄餅、ずっとフルフル震えているし、立ち止まっていると、信玄餅の形を変えて、私たちを囲んで閉じ込めようとする。
まあ、食べてみたら美味しいラムネ味の餅だし、気にすることはないよねきっと。
というか夢だし。
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「ふー、美味しかった!、ちょっと残しちゃったけどそのうち消えるでしょ」
「ミナ、ハンブンモタベテナイヨ」
「半分どころか10分の1も食べてないわよ!
いくら夢でもこんなでかい水信玄餅全部食べるなんて無理でしょ」
「マア、ソダケド・・・コレ、オカシ、チガウトオモウ」
「何はともあれ、丁度小腹も空いてた事だし、気が効く夢ね!明晰夢ってやつかしら。現実だと食事も喉を通らなかったけど、夢なら余裕よ!」
ミナは何故か誇らしげに胸を張って、謎の自信感を出していた。
信玄餅?を食べてからその場でマロンと休憩をしばらくしていると、遠くから馬の足音が響いてくる。
「あら、マロン以外で初めての登場人物かしら。夢ならユウタが出てきてくれたら良いのだけれど」
「・・・コレッテ、ユメナノ?」
遠くから見えてくるのは5頭ほどの馬に乗ってきた甲冑の騎士たち。
御伽の国の騎士がやってきた。流石は夢ね、なんて考えていると。その騎士たちはミナとマロンの前に立ち止まり、馬から降りてくる。
「私たちはアールズ王国騎士団だ。そこの女性、この辺りは危険だ。今すぐ街に移動しなさい。女性がこんな危険な場所にいるもんじゃない。1人案内に付けるからさあ早く!」
「なんだかわからないけど、ここは危ないのね!わかったわ、案内していただけるかしら?」
普段のミナはこんな風ではないが、どうも中世風の夢のようで、折角だからと口調を変え、騎士に手を差し出す。
案内の騎士はハッとした表情を浮かべ、先ほどよりも丁寧にミナに接しようと試みる。
「失礼、貴族の方でしたか。お名前をお伺いしても?」
「エッ、そうね・・・」
ここで違う、と言ってしまうのも夢なのに夢のない話だ。どうせ夢だし適当な事を言っても問題ないだろう。
「ゴホン、私。ニホン公国からやって参りました、ヨシハル=カナサキ公爵が長女、ミナ=カナサキですわ!」
よし決まった!これ一回やってみたかったんだよね!
すると最初に声をかけてくれた騎士が兜を外して、恭しく跪く。
「こっ公爵家のご令嬢でしたか!これはとんだご無礼を致しました!私、アールズ王国騎士団第3隊長、ウルカ=リングイネ男爵と申します。以降お見知り置きを!」
「気にすることは無くてよ、ウルカさん。私は他国の公爵令嬢。そこまで畏ることは無くてよ!」
ヤバイ!自分こんなに上手く貴族の物真似できるんだ!楽しい!
「しかしながら、ミナ殿、どうして私供が知らないような国の公爵令嬢と言うほどのお方がこのような危険な地へ、しかも使い魔を連れているとはいえお一人で」
ウルカは少し怪しむようにミナに確認をする。
どうしようどうしよう!でも大丈夫、これは夢!なんとか適当にごまかせれば!
ミナはどうにか取り繕うために頭をフル回転させて声に出す。
「ニホン公国で邪神教による政変がありました。私は婚約者に庇われ命からがら逃げ延びてきたのです。私の婚約者、ニホン公国王太子ユウタ=アイバ様が仰られたのです。アールズ王国に行けば必ず救いの道があると」
ウルカはこんな適当な話を、涙目になりながら聞いてくれた。というかめちゃくちゃ単純だ。
「そんな事が・・・ミナ殿はなんとお辛い思いをされてきたのか。この私めには到底想像もできませぬ」
声を震えわせながらウルカはミナに心底同情していて、ミナは夢とは言え若干の罪悪感を覚える。
なんとかいい方向へ持っていかなければ。。
「確かに、ここまでの道のりは到底今までの人生では考えられないほど、険しく。長い道のりでした。ですがこうしてアールズ王国にたどり着けた今、私は愛する者を失った悲しい気持ちがある一方で、これから起こる未来に心を踊らせています、その為の第一歩をウルカさん、ご案内していただけませんか」
騎士たちの涙腺が一気に崩壊した。
「うおおおおおお!!今すぐにお連れするぞ!」
「なんて健気なんだ!全生命を掛けてご案内しようぞ!」
「この任務、嫌だと思ってたけど、こんな奇跡が!神よ!!感謝します!!」
「ミナたんラブ!ミナたんラブ!」
「ミナ、ナニシテンノ?」
退屈そうなマロンだけが唯一まともだった。
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第3騎士団に案内されて、アールズ王国の王都、セントアールズに向かうことになったミナとマロン
道中ふとミナが気になった事があったので確認をした。
「そう言えばウルカさん、最初に危険だから離れなさいと仰っていたのは、どうしてなのかしら?」
「はい、実はあのクイーナ平原で人喰いスライムグラゾーラが確認されまして、我々はその討伐の任務を王より賜っていたのです。」
「なにそれ、そんなところに私たちはいたのかしら?」
「はい、しかも厄介なのはグラゾーラは透明な上音もなく近づき人を溶かして食うモンスター。探すのも大変で、犠牲無しでの討伐はほぼ不可能とされています」
「・・・そう、貴方たちが助けに来てくれて、本当に助かったわ」
え、あれ水信玄餅じゃないの?私モンスターを食べたって事?夢だけどなんだか吐きたい気分だわ・・・
「ダカライッタジャン」
マロンは馬の頭の上であくびをしながら、静かに呟いたのだった。
基本的に童話の世界と考えてもらって大丈夫です。
いい人はいい人。
悪い人は悪い人なんです。