勘違いから始まる嫉妬
「ん?」
僕は目を覚ますと、体の上に重さを感じた。僕はすぐに自分の体の上に何かが乗っているなと思い、横になったまま自分のかぶっている布団の上を確認する。だが、そこには何も見当たらない。
ただ少し気になるとすれば、布団が異様に膨らみを帯びているということだろうか。
僕は、恐る恐る布団をめくる。
「ばあ!」
なんとそこには花宮梨音がいたのだ。
「ちょっ! ちょっと! 僕の布団のなかで何してるんですか!?」
「いやぁ、ちょっと新君の様子を見にきただけだよ?」
「だったらなんで僕の布団の中に、それも僕の上に乗ってるんですか!」
「んー、それは……」
花宮梨音が返答しようとしたその時だった。
コンコンッ
「新、起きてる?」
この声は! 莉夜さんだ!
「やばいですよ、梨音さん!」
「ん? 梨音じゃなくてなんて呼ぶんだっけ?」
「いや、今はそんなこと言ってる場合じゃないですって!」
「何て呼ぶの?」
花宮梨音は、僕の慌てようを気にせず問い続ける。
「わ、わかりましたよ! りっちゃん!」
「よし! それでいいんだよ!」
「いや! 全然よくないから!」
この状態で莉夜さんが入ってきたら完全にアウトだ。傍から見れば、僕とりっちゃんの状態は完全に卑猥な行為をしているようにしか見えないだろう。莉夜さんにだけはこの状態を見せるわけにはいかない。だが、その望みはすぐに崩れ去る。
「新? 入るよ?」
「今は、ダ、ダメーーーーーーーーー!」
ガチャッ
ああ。終わった……
莉夜さんは僕とりっちゃんの状況を見るなり、完全に固まってしまい、泣きそうな顔になってしまっている。
「え? 二人はこういう関係だったの?」
「いや! 違うんです! これは誤解なんです!」
「誤解?」
「はい! 誤解なんです!」
僕は慌てて誤解を解こうとするが、そこにりっちゃんが割って入る。
「何言ってるの、新君? 何も誤解なんてないじゃない」
りっちゃんは僕に胸を押し当ててくる。
いやいやいやいや! なんでこの人は余計にややこしくしようとするんだ!
「やっぱりそういう関係なんだね……邪魔してごめんね……」
そう言うと莉夜さんは悲しそうな表情で部屋を出て行った。
「りっちゃん! どういうつもりですか! なんであんな事言ったんですか!」
「いやぁ、ちょっとりよっちをからかおうと思ったんだけど、やりすぎちゃったかな」
「やりすぎちゃったかなじゃないですよ、あとで誤解を解くの手伝ってくださいよ?」
「うん、わかったよ、あれは完全に私のせいだからね、本当にごめんね」
りっちゃんは反省しているようだった。
そして僕らはリビングへと向かった。
リビングに着くと、もう朝食が準備されてあった。
そこには泣きそうな顔の莉夜さんもいた。
ほかの住人はまだ来てないようだった。つまり誤解を解くのは今しかない。そう考え、りっちゃんのほうを向きると、りっちゃんは頷いた。僕とりっちゃんは、莉夜さんの方へと向かう。
「あの、りよっち、ちょっといい?」
「何? さっきのことなら全然気にしてないよ」
だが、莉夜さんの表情は気にしてないようには見えなかった。
「さっきのは、本当に誤解なの。私がからかおうとしただけなの。本当にごめんね。」
すると、莉夜さんは僕の方をみる。
僕は、軽く頷いた。
「じゃあ、本当にさっきのは私の誤解だったんだよね?」
「うん、本当にごめん」
莉夜さんの表情は一気に明るくなった。
「よかったぁ、なんだ、私の勘違いだったのね。梨音さん、もう私をあんな風にからかったりしないでね」
莉夜さんの誤解が解けて間もなくして、ほか住人たちもリビングに集まった。
そして僕らは、席について朝食を食べる。
「いただきまーす!」
今日は、莉夜さんの「いただきます」が一番大きな声だった。
おそらく、誤解が解けたことで上機嫌になっているのだろう。
だが、またしても事件が起こった。
それは、朝食を食べながら、僕とりっちゃんが話している時だった。
「ねぇ、新君って学校では真面目キャラだったりするの?」
「いや、何言ってるんですか、シェアハウスにいるときの僕とそんなに変わらないですよ! 逆に、りっちゃんはどうなんですか?」
その時、僕は右前方から睨みつけるような視線を感じた。
「りっちゃんだって? へぇ、やっぱり二人はなかが良いんだねぇ」
僕とりっちゃんは同時に「しまった!」とでも言いたげな顔になっていた。
ほかの住人も一斉に僕らの方を見るが、何かを察したようで何も言おうとしなかった。
莉夜さんは不機嫌のまま、問い続ける。
「ねぇ? どうなの? ねぇ?」
今まで見たことのない顔をしながら問い続ける莉夜さんに、僕とりっちゃんは怖くて何も言えないのであった。
「そう、答えないならいいよ、そういうことなんでしょ?」
そう言うと、莉夜さんは、食器を洗い、さっさと学校へと行ってしまった。
その日から、僕とりっちゃんは何度もこの誤解を解こうと試みた。
だが、その誤解が解けたのは、その事件(?)が発生してから、一週間後のことだった。さらに、莉夜さんは誤解だったと認める代わりに、自分にもあだ名をつけるか『さん』付けをしないで呼ぶか決めるよう言ってきたのだった。
さすがにあだ名を考えるのは難しかったので『莉夜』と呼び捨てで呼ぶことになった。
彼女はとても喜んでいるようで、一気に上機嫌になった。
でも呼び捨てがそんなに嬉しいものだろうか……