ライバル出現?!
僕が新入生歓迎会で使用する道具等をダンボール箱に詰め、持っていこうとした時、少し離れたところで莉夜さんが重そうなものを運ぼうとしているのが見えた。僕は急いでダンボール箱を所定の位置まで持っていき、莉夜さんのところに小走りで向かう。
莉夜さんを視界に捉え、声をかけようとしたその時だった。
僕より先に、あるイケメン男子が颯爽と現れ、莉夜さんの抱えていた荷物を持ち、横に並んで歩いていたのだ。それは、本当なら僕がやるはずだった。
小走りではなく、全力で莉夜さんのもとへ走っていれば……
僕はそんな事を考えながら立ち尽くしていると、莉夜さんは僕に気が付き、僕の方へと歩み寄ってきた。
「どうしたの? 大丈夫?」
莉夜さんは、とても心配そうな顔でこちらを見ていた。
「あ! うん! 大丈夫だよ! ただ少しぼーっとしちゃってただけだから。」
僕はいかにもな慌てようで答えてしまった。
「ならいいけど……。本当に気分が悪かったら言うんだよ?」
「う、うん。本当に大丈夫だから。」
僕らがそんな会話をしていると……
「莉夜ちゃーん、運んどいたよ〜」
そこに現れたのはさっきのイケメンだった。
「莉夜ちゃん、その子は?」
「彼は、私と同じシェアハウスに住んでる神橋新君だよ!」
彼は僕の顔を見ると爽やかな笑顔で握手を求める手を出してきた。
「僕は相川未来、よろしくな!」
「あ、はい、よろしくお願いします。」
僕は彼と握手を交わした。
気のせいかもしれないが、彼の握手は少し力が強かった気がした。
「じゃあ、僕はこれで」
そう言うと、相川未来は作業に戻ろうとしたが、彼は去り際、僕の横を通り過ぎようとした時、彼は僕にしか聞こえないような小さな声で
「君に莉夜ちゃんは渡さない」
彼は確かにそう言ったのだ。僕は、冷や汗が止まらなかった。
「大丈夫? 汗すごいよ? やっぱり気分悪いんじゃない?」
「あっ、いや、大丈夫です、少し疲れただけですから。」
「そう? ならいいんだけど。無理はダメだよ!」
そして僕らは残りの箱を全て運び、今日の作業を終えた。
僕は帰り道、いつも通り莉夜さんと苺と帰路についたのだが、どこか上の空だった。
シェアハウスに着いてからもずっとそんな調子だった。
夕食の時は一言も喋らず、それ以外の時間はずっと部屋にこもりっぱなし。
そして、今も自分の部屋の窓のそばで夜空を見ながら、あのイケメン、相川未来が言った言葉を思い返していた。
「莉夜さんは渡さない……か」
それは僕にとって初めての恋のライバルである。
恋のライバル、最初から強敵過ぎない?
僕が色々考え、悩み込んでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ、入っていいですよ」
すると、入ってきたのは同じシェアハウスの同居人の花宮梨音だった。彼女は僕の隣に座った。
「新君、今日帰ってきてから元気ないよね?」
「いや、別にそんな事はないと思います。」
「自分では気づいてないかもしれないけど、新君、帰ってきてからずっとどこか上の空って感じよ」
「そ、そうでしたか、ご心配をおかけしてすいません。」
「いや、そういう事じゃないの。その理由を聞きたいの。もしかしてだけど、りよっちと関係ある?」
僕は花宮梨音が一発で僕のへこんでる理由を、大まかにだが、当ててきたので、無意識に身を大きく見開いていた。
「ぷっ、はははははっ、そのリアクション、大体は合ってるみたいね」
僕は恥ずかしくなり少しばかり赤面した。
「は、はい。大体は合ってます。」
「やっぱりね。じゃあ、細かい内容教えて貰える?」
僕は少し考えた。
細かい内容を教えるという事は、僕が莉夜さんの事を好きだということを同時に伝えてしまうようなものだ。花宮梨音の方をみると、さっきまで大爆笑していたはずだが、今は真剣な眼差しでこちらを見ていた。彼女は、本気で僕の事を心配してくれているんだと分かり僕は全て彼女に話した。
「なるほどねぇ。そんなことがあったのね! もうっ! 恋のライバル出現じゃない!」
「そうなんですよ。でも、彼には全く勝てる気がしなくて。」
「何言ってるの新君! これだけの事で諦めてちゃダメだよ!」
「そうは言われても……」
「新君は気づいてないかもしれないけど、りよっちは新君に他の誰よりも心を開いてるわ! だから、新君はそんなただのイケメンごときには負けないわ!」
その時、僕は花宮梨音さんの方がよっぽどイケメンに感じた。
もし僕らの性別が逆だったらか確実に惚れていたに違いない。
「そ、そうですよね! 花宮さん、ありがとうございます! 」
「梨音でいいわ、いや、りっちゃんって呼んで!」
「え!? あだ名でですか?!」
「そうよ、呼ばないとどうなるか分かるわよね?」
彼女は不敵な笑みをうかべながら、威圧してきた。
「あ、はい、ありがとうございます、り、りっちゃん」
「うん! どういたしまして!」
僕はこれからは彼女のことはどこで会っても『りっちゃん』と呼ぶ事となったのだった。
あだ名の話はともかく、悩み事を相談できたのは良かった。気がかなり楽になり、僕はその日、ぐっすり眠ることが出来た。