シェアハウスの日常
「新君はカレーライス以外に何を作った方がいいと思う?」
りっちゃんはスマホでどの料理を作るか調べながら、僕に聞いてくる。
残念ながら僕は料理には疎くて、どの料理とどの料理の組み合わせが合うかとか全くわからない。
「りっちゃんは何が食べたいの?」
「んー、さすがにカレーライスがあるから重すぎるのはだめだし、野菜炒めとサラダにする?」
なんか野菜が多い気がするけど、ほかに思いつかないし、これでいいだろう。
「うん! それでいいと思う!」
「オッケー、じゃあ早速作ろうか」
「うん!」
僕たちは野菜炒めとサラダを作る準備を始めた。
僕は野菜を取り出しながら、今日ずっと気になっていたことを聞いた。
「今日、日曜日なのになんで塩川さんと新城さんいないんですか?」
「そういえば、朝から見てないね、どこ行ったんだろ。まぁ、そのうち帰ってくるでしょ」
りっちゃんも彼らがどこに行ったのか分からないようだった。
僕は、キャベツを取り出し、できるだけたくさん切った。そのため、キャベツの量だけが異様に多くなってしまった。僕は、その切り終えたキャベツやほかの野菜をりっちゃんに渡す。りっちゃんは一瞬驚いたような顔をした後、クスッと笑い、僕の方を見る。
「これはさすがに多すぎでしょっ」
「いやあ、切りすぎちゃいました」
「何人前作ろうとしてたの?」
その後も僕らは料理を続け、ちゃんと五人分の夕飯を作り終えた。
僕らが晩御飯を作り終えてから数分後──莉夜がお風呂場から出てきた。
「いいにおいがする~」
「でしょ~、私と新君の最高傑作よ」
いや、僕は野菜を切るくらいしかしてないんだけど……
「あ! それより新! さっき見たことは忘れてよ!」
「さっき……」
さっき玄関で見た光景を思い浮かべ、無意識に顔が赤くなってしまう。
「あー! 今思い出してたでしょ! 忘れてってば!」
「あ、うん、もう忘れるよ~」
「絶対だよ?」
「う、うん」
すると、りっちゃんは時計を確認しだし、
「あの二人まだかな?」
と、莉夜に聞く。
「んー、もうすぐ来るんじゃない? それまでテレビでも見ておこうよ」
「そうだね!」
そして僕たちはリビングの方へ向かい、テレビの向かい側に置かれているソファに座り、テレビを見始める。
僕たちがテレビを見始めてから十五分ほどが経ったころ、
「ただいま~」
新城さんと大家の塩川さんが帰ってきた。
僕は彼らに遅かった理由を聞く。
「二人とも遅かったですね、どこに行ってたんですか?」
「少し、遠くまでテントを買いに行ってたんだよ」
「テントですか?」
「うん、ゴールデンウィークに入ったら、このシェアハウスの住民全員でキャンプに行こうかと思ってね。もちろん新君も行くだろう?」
「はい! もちろんです!」
「よっしゃ、じゃあゴールデンウィークは予定入れるなよ~」
みんなでキャンプか。
ここにきてから楽しいイベントばっかりで、僕は本当に幸せ者だ。
「それより遅くなってしまったお詫びにこれ買ってきたぞー。みんな、晩御飯まだ食べてないだろ?」
塩川さんと新城さんが買ってきたものを見て、僕たちは無意識にため息が出てしまった。
なんと塩川さんと新城さんが買ってきたのは、カレーライスだったのだ。
「どうした? もしかしてもう晩御飯は済ませたのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……キッチンに行けばわかると思います」
僕たち三人は、塩川さんと新城さんをキッチンの方へと連れていき、キッチンに着いたとき、彼らの足が止まった。
「そういうことかぁ……」
「はい、僕とりっちゃんでカレーライス作っちゃったんですよ」
「なるほどなぁ。じゃあ、僕らが買ってきた方のカレーは明日の朝にでも食べよう」
「朝ですか?」
「そうだよ、有名な野球選手も毎朝、カレーライスを食べてるってテレビで言ってたしな」
「毎朝はすごいですね。とりあえず、それは明日食べるということで今日は僕とりっちゃんの作った方のカレーライスを食べましょう!」
「そうだな!」
そう言うと、彼らは手を洗いに行った。
彼らが手を洗いに行っている間に、僕たち三人は今日作った料理を食卓に並べた。
ちょうど全てを並べ終えたとき、彼らは手洗いから戻ってきた。
「それじゃあ、みんなが揃ったところで、食べようか」
「うん!」
「じゃあ、みんな手を合わせてー」
全員、手を合わせりっちゃんの方を向く。
「いただきまーす!」
気のせいかもしれないが、今日の「いただきます」は、みんな、いつもより大きい声で言っているような気がした。そして僕たちは、カレーライスを食べ始める。
「お、おいしいっ!」
僕は思わず、口に出してしまっていた。
すると莉夜はこっちを見て、にっこりと笑顔を見せ、
「本当においしいね! 新が作ったカレーライス美味しいよ」
それを見ていたりっちゃんは、
「りよっち~、今日の晩御飯、私も作ってるんですけど~?」
と、不満そうな顔で言ってきた。
それに対し、莉夜は
「そうだね、新と梨音が作ったから美味しいよ!」
と言って、また天使のような笑顔を見せた。
その笑顔を見たりっちゃんはすっかり機嫌がよくなっていた。
その後も僕らは晩御飯を食べ進め、大量にあったカレーライスや野菜炒めはきれいになくなった。
自分たちの作った料理をほかの人に食べてもらえるだけで、こんなに気分がよくなるとは思いもしなかった。僕は、また作ってみたいなと思った──。
学生組は明日から学校なので、晩御飯を食べ終え、歯を磨いた後、自分たちの部屋に戻って眠りについたのだった──。