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リヒトに手をひかれて人ごみを抜けて人気のない庭園まで降りる。
会場の光がほんのりと差し込む庭はどこか幻想的でちょっと怖かった。
何となく不安で小さく震えると夜の冷たい風から守るようになにかに包まれる。
ふわりと香るリヒトの香りに目を瞬いてリヒトを見上げた。
柔らかく微笑んだリヒトにぎゅうっと胸が締め付けられる。
自分が一方的に取り決めた期限は過ぎたことを思い出す。
期待よりも不安の方が大きいのは王女との婚約話と会場中からリヒトへと注がれた視線に気づいてしまったからだ。
「兄様」
零れ落ちた声まで不安に濡れていてリヒトが苦笑いを零す。
それさえも、リヒトを困らせてしまっているようでますます不安になる。
「ねぇ、セイラ。聞いて欲しい話があるんだ」
柔らかな声が不安を拭い去ろうとする。
けれど、この一年なにもできなかった事実を思い出して恐怖に似た何かが忍び寄ってきた。
「にいさま」
「そんな顔をさせたい訳じゃないんだけどな」
不安と恐怖に竦んでしまったセイラの頬を両手で包んでリヒトが困ったように笑う。
泣いてしまいそうになった。
潤んだ瞳を宥めるように優しく親指が目尻を擦ってセイラの気持ちを落ち着けようとする。
優しい指が穏やかな瞳が甘い声が不安と恐怖を期待に変えて、自分の心なのにぐちゃぐちゃで訳がわからなくなりそうだった。
「ねぇ、セイラ。欲しいものはある?」
「え?」
「誕生日過ぎちゃっただろう?」
「えっと、」
「なんでもいいよ」
穏やかに凪いだ瞳が甘さを増した気がした。
胸が高鳴る。口の中が乾いて手が震えた。
「なんでも?」
「うん。なんでも。セイラの欲しいものはなに?」
言っても、いいの?
まるで全てを承知した上でその答えを望んでいるような顔をするからセイラはたまらなくなった。
ずるい。
「セイラが欲しいもの、なんでもあげる。」
ずるい。
「にいさま、にいさまが、ほしいの。」
甘い声に、蕩けるような瞳に、愛しさが込められた声に、促されて絞り出した声と一緒に涙が零れた。
「いいよ。セイラに全部あげる。」
だいすきなひとが、やっと、おちてきた。
手の届かないところにいたのに、この手はまだ届かないと思っていたのに。
「セイラが好きだよ」
待たせてごめん、こんな俺を好きでいてくれてありがとう。
優しく抱きしめられて耳元でそんなことを囁かれてしまえばもうどうしようもなかった。
涙は止まらないし、夢なんじゃないかと思ってまたちょっと不安になるし、それなのに、抱きしめてくれる腕の温もりがこれは現実だとしらしめる。
胸を満たす幸福感に浸るよるようにセイラはそっと目を閉じた。
あなたの愛に完全幸福します
(だいすきです。だから、おねがい)
(この熱を嘘にしないで)
(はやく、銀のリングで知らしめて)
長い間お付き合いくださり、ありがとうございます。
これにて本編、完結です。
始めは、誤字脱字を見直す程度で更新しようと思っていたのですが、加筆しはじめたらどんどん膨れ上がりそうになったり、新しいエピソードを追加したい衝動に駆られながら、収集できる自信がないので諦めたり。
改めてこのお話、大好きなキャラクターたちが大好きなんだなぁと思いました。
そのおかげで、大変楽しかったです。
他サイトに既に掲載済みのものではありますが、番外編も更新できればなと思っております。
ここまで目を通してくださった皆様、本当にお疲れ様でした。
拙い文章ではありますが、少しでも楽しんで頂けたならとても嬉しいです。
ありがとうございました。
2020.06.30 のどか




