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序
遠くに行ってしまう。
手を伸ばさなければ、手を伸ばしても、するりとこの手をすり抜けて手の届かないところに行ってしまう。そんな焦燥感がずっとあった。
優しくて優しくて残酷なほどに優しい人だと知っているから、その背を見送る度にもう帰ってきてくれないのではないかと怖くてたまらなかった。
家族のためなら笑って自分を犠牲にしてしまう人だと知っているから。
だから、強くなろうと思った。守られるのではなく守れるようになろうと思った。
パパの跡を継げば、パパのように小賢しい狸も飢えたハイエナ共も黙らせ、蹴散らすことができるようになれば、きっと、ずっと一緒にいてくれる。
そう思ったから私は――――――……。
「目的のためなら手段は選ばないわ。
全部まとめて私が引き継いであげるからさっさとその椅子寄越しなさいよ!
この意地悪オヤジ!!!」
守られているだけのお姫様になんてなれなくていい。
そんなの欲しくない。
私は、大好きな人を守れるようになるの。