休日、小旅行する6
「つきましたね」
「ついたのか」
「はい」
「本当に目的地はここなのか」
「はい」
魔法少女たちの活躍によって無事トレインジャックは阻止され、警察の事情聴取もドクターシノブの権力発動によって免れた。定刻より少し遅れたものの、私たちは無事に目指していた駅へと到着し、そしてそこから徒歩で目的地へと辿り着いた。
「……本当の本当にここか」
「本当の本当にここです。さあ入りましょう」
ドクターシノブとふたり、並んで見上げるのは赤いのれん。
染め抜かれた文字は「らぁめん大食い道場NEO」。そして外まで香ってくる豚骨。
眺めるだけで胸が高鳴る光景だ。
「……いやここがデートの目的地にする場所か?!」
「目的地に関係なくデートはデートって言ってたじゃないですかドクターシノブ」
「それはそうだがそうじゃない!!」
「早く入りましょう。そろそろ行列ができる頃ですから」
のれんをくぐると、らっしゃーせーの合唱が響いた。女性店員がメモを片手に近寄ってくる。
「2名様ですか?」
「12時で予約してた三科です」
「あ、お待ちしておりました少々お待ちください〜」
笑顔で頷いた彼女は、カウンターの向こう側へ「チャレンジャーさんいらっしゃいましたー!」と勢いよく声を掛けた。厨房で忙しく動いている男性が声を合わせて「おまちしてやした!!」と返事をする。
「おい三科ヒカリ」
「なんですか」
「チャレンジャーとはなんだ」
「大食いチャレンジをする人のことです」
「先程の店員、我々を指してチャレンジャーと言っていなかったか」
「言ってましたよ」
「つまり貴様、ここへ来た目的は大食いチャレンジをすることだと……?」
「はい」
片手で顔を覆ったドクターシノブが、天を仰いで何やらブツブツと呟いている。女性店員が席に案内してくれたので、先に座っていることにした。
「ご予約のご注文に変更ありませんかー?」
「私の分はありません。こっちはこれから決めると思います」
「じゃあ先に作り始めるので、お連れ様のご注文は後から伺いますねー!」
「よろしくお願いします」
ピッチャーで置いてあるお冷をコップに注ぐと、ズカズカとドクターシノブがやってきた。コップを差し出すと一気に飲み干し、カツーンとテーブルを叩く。
「三科ヒカリ、貴様、さっきまで駅弁を4つほど食べていただろう」
「はい」
「朝も山ほど食べていたな。その上で、ラーメン大食いチャレンジをするというのは流石に無謀すぎる」
今からでもキャンセルすべきではないかと真面目な顔で忠告してくるドクターシノブは、私がチャレンジに失敗するかもしれないと心配しているらしい。
「大丈夫ですよ」
「どう考えても大丈夫ではないだろう」
「確かにこのラーメン屋の大食いチャレンジは失敗すると、ペナルティとして5000円を払うことになります。ラーメンとしては高額ですが、大食いチャレンジ用のラーメンは総重量7キロ、麺だけで約3キロある巨大ラーメンなんです。普通サイズを7キロ分頼むよりははるかにお得です」
「どこも大丈夫ではないが?」
「それにここのラーメンはシビ辛豚骨という、豚骨の旨味に花椒とハバネロをマリアージュさせた本格派。麺も小麦粉や水からこだわって作られたもので、具なしであっても美味しいと有名なお店なので安心してください」
「いやだからどこにも安心する要素がないのだが?!」
ドクターシノブは自分の注文を決めることも忘れて私を説得したけれど、私を止められるはずもなかった。お昼時で続々と人が席を満たしていく中、男性店員が巨大などんぶりを運んできた。
「やめろ三科ヒカリ……ッ!! これは貴様が勝てる相手ではない!!」
「大丈夫です。信じてください」
「こんなときに魔法少女時代と同じ信念を貫いた顔をするんじゃないっ!!」
紙エプロンを付けて割り箸を持ち両手を合わせる。
店員さんのカウントダウンを待って、私は敵に挑んだのだった。




