休日、小旅行する5
オレンジ色のふわふわ髪をポニーテールにしている魔法少女。使命と希望に輝いたその目が私をまじまじと見て、それからあんぐりと口を開けた。
「せんっ…………!!」
薄いオレンジ色のグローブをした両手が、慌てて言葉を押さえ込む。
「せん……せん……先手必勝ーっ! えと、その、えと、この電車の平和はあの、私たちるっラブキューが守りますっ!!」
「狼狽した上に噛み倒しとはこの上なく頼もしいな」
私はボソリと呟いたドクターシノブを肘で小突いた。確かに、敵に精神的アドバンテージを取られないための訓練を行っている魔法少女の反応としては不安なものかもしれないけれど、仕事先でうっかり知り合いを見つけた状況であれば慌てるのも無理はない。
ラブキューオレンジ枠ことラブキューミラクルは、私と個人的に面識がある。もちろん、ラブキューミラクルがバイトでやっている家庭教師の教え子みるるちゃんであるということは、表向き私は知らないことになっていた。魔法少女の正体はバレると色々厄介なのである。
「えーと、えーと、お怪我っ! ないですかっ!」
「大丈夫です」
「よかったっ!」
グッと両手を握って本気で喜んでいるあたり、とても健気でかわいい。オタク界隈では根強い人気なだけある。みるるちゃんのまっすぐで全力な性格は、魔法少女として人々を救うのに向いているのだろう。
「あっわたし、ラブキューミラクルっていいますっ! 私たちのチームが対処しますので、せん……みなさんは落ち着いて座っててくださいねっ!」
「わかりました」
「ところでっ! あの、デートですか?!」
グッと近寄ってきて問いただすまっすぐさは、ちょっとは隠してほしいけれど。
「おふたり付き合ってるんですかっ?! 何回目のデートですかっ?!」
敵がすでに制圧済みだったことと、恋バナの予感に仕事を忘れかけている。
「いえ、普通に出かけてるだけです」
「なんだと?! おい三科ヒカリ、これはどう見てもデートだろうがっ!! さては貴様照れて公言を避けているのか?!」
「ひゃー!! 照れてるんですかかわいいっ!!」
ベクトルが違うが騒がしいのが増えてしまった。
「いや別に今日はデートらしいこととかしてないし」
「デートの定義とは何だ言ってみろっ! お互いをよく思っている人間同士が出かければそれは既にデートだろうがっ!!」
「そうですよっ! カップルで出かけたらそこが公園だろうがコンビニだろうがデートですっ!!」
ベクトルが揃ってきた。
面倒なので「そうですね」と頷くと、詰め寄ってきていた2人が笑顔になる。
この隙に私は遠隔操作をして、遠くの方で大きなフラッシュライトを作った。
「はっ?! この気配はプリンセスウィッチ先輩さま!!!」
コンマ2秒で反応したラブキューミラクルは、倒れているテロリストを光の速さで縛り上げ、それから走って行ってしまった。
気配を察知する能力は高いのに、相変わらず気配の出どころが私だと気付いていないらしい。ラブキューミラクルがほぼ奇声のような叫び声を上げて仲間を戸惑わせている音が微かに聞こえてきた。この車両には、催涙ガスのごくわずかな残り香と沈黙だけが残った。
「騒がしかったですね」
座り直してから弁当の残りを食べると、ドクターシノブがじっと私を見つめている。
「…………つまり三科ヒカリ、これはデートということで問題はないな?!」
「ないですけど、お茶のお代わりもらえますか」
よし、と頷いたドクターシノブは、これまでにない笑顔を浮かべながらお茶を注いでくれた。




