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それからの2人2

 温室の中は、様々なエリアで分かれていた。高低差や人工滝などを利用して壁を作り、気温を調節しているようである。あちこち探検するように歩き回っている小学生が微笑ましい。飛び回る蝶や蜜蜂、ハチドリもいる。

 幹に樹液の塊のような、どす黒く丸いものがみっしり生えている気持ち悪い木を眺めていると、ドクターシノブが隣に立った。私たちの後ろを小学生が歩いていく。


「ジャボチカバだ。その黒いものは果実で食べられるぞ」

「なんで幹からいきなり生えてるだけで気持ち悪く感じるんでしょう」

「さあな」


 ドクターシノブが採ってもいいと言ったので、ひとつ採って食べてみる。大きめのビー玉くらいの黒っぽい果実は、意外と爽やかな甘味がして口当たりも良かった。


「美味しいですね。ホイップカステラと一緒に食べてもいいんじゃないですか」

「ジャムを試作中だ。生は日持ちがしないからな」


 完璧主義のドクターシノブは、この植物園に植えてある全ての植物、温室で飼っている鳥や昆虫についても記憶しているらしい。あちこちで植物の世話をしている職員の人とも挨拶を交わしているので、何度かここへ来たこともあるようだ。ほぼ毎日顔を合わせているのに知らなかった。


「ここはハーブ園だ。一般人の立ち入りは禁止している」


 大きな温室を抜け、職員用の出入り口からその隣りにある小さな温室へと入る。ドクターシノブの言った通り、ここには水やりや何かを記録している研究員らしき人物の他には誰もいなかった。

 ここで育てられているハーブは研究用で、薬効を調べたり品種改良をするためのものらしい。温室には小窓があって、そこから風が吹き抜けていた。


「魔法少女の疲労回復に効果的なハーブがあるようだ。個人差があるのでまだ実用段階ではないが、いずれ個別に調合した補助薬を作り、エネルギー切れを防ごうと試みている。といっても、劇的な効果があるわけではないが」

「それはいいですね」


 様々な種類が植えられているためか、色々な香りが漂っている。漢方として使われているものもあるようで、菊や芍薬など見知った種類もあった。花を咲かせているものも多く、見ているだけでも楽しい。


「み、三科ヒカリ!!」


 ローズマリーが大きく育った一角で香りを楽しんでいると、ドクターシノブが私を呼んだ。足は肩幅に広げ、まっすぐ立ってこちらを挑むように見下ろしている。

 そこそこのスペースがあるとはいえ、いきなり手合わせを申し込むわけではないだろう。私は立ち上がってドクターシノブへと近付いた。


「なんですか」

「……私はこの3年間、技能育成開発研究所の発展に力を注いできた。魔法少女たちの健康管理や権利の保護、そして安全性もかなり向上したといえるであろう。同時に、後ろめたい事業からは手を引いた」

「そうなんですか」


 魔法少女について表立って関わるようになったこと、そして資金稼ぎに作ったダミー企業が前にも増して利益を生み出しているせいで、コソコソと裏工作する必要がなくなった。洗脳装置も「実行しなければ被使用者の命を脅かす状況でない限り」使用していないらしい。

 良いことである。


「貴様もそろそろ進路について具体的に考え出していることだろう。だからこそ、今日貴様に伝えたいことがある」

「はい」


 ドクターシノブはそこで一旦言葉を区切り、それから態とらしい咳払いをした。やや顔が赤い。

 2、3回の深呼吸を経て、それからドクターシノブが叫ぶ。


「三科ヒカリ、私と結婚してくれ!!」

「は?」

「結婚をしてくれ!!」

「いや、それは聞こえたんですけど……」


 何か言われるだろうと思ってはいたけれど、直球、かつ、唐突過ぎやしないだろうか。


「そもそも私たち、付き合ってすらいないのでは」

「貴様は付き合ってもいない男を家に連れ込み、あまつさえ寝顔を見せるというのか?!」

「それはドクターシノブが勝手に入り込んでソファとか置いてるからであって」

「いいから私と結婚しろ!! はいとだけ言え! あとはどうにでもなる!!」

「必死じゃん」


 恥ずかしさからかヤケになったように詰め寄ってきたドクターシノブを落ち着かせようと後退っていると、不意にドクターシノブが私の後ろへと視線をやった。


「危ない!!」


 その言葉とともにローズマリーの茂みへと突き飛ばされる。

 銃声が鳴るのと、ドクターシノブのスーツに穴が空くのが同時だった。






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