魔法少女、勝利を掴む3
それから場面は変わって1週間後。
「せんせー風邪治ってよかったね聞いてプリンセスウィッチに会ったのすごいでしょ!!!!」
「うっ……」
元気に突進で迎え入れてくれたのはみるるちゃんである。重い風邪で休んでいたというのは方便だけれども、それにしてももうちょっと力加減をお願いしたい。
検査やら療養やらで何とか入院を長引かせようとするドクターシノブを振り切っている間に、みるるちゃんほか魔法少女たちは検査入院や様々な事情説明をとっくに済ませて日常生活へと戻っていた。
福黒を始めとして研究所で企まれた計画は、プリンセスキューティとドクターシノブ率いるSジェネラルにより特殊外務省の司令部や政府首脳へと暴露され、彼らを驚愕させた。しかし被害に遭った魔法少女たちの全員が自分たちが研究所に集められていた理由や実験計画を聞いた上で、そのまま任務を続行する意思を見せたらしい。
魔法少女が任務を拒否するとまた一悶着ありそうなので、上は彼女らの強靭さと健気さに随分助けられたことだろう。
もちろんラブキューミラクルことみるるちゃんも、早速出動可能な魔法少女として復帰して街を守っているらしい。
「でね……その……何やかんやあってね! どさくさに紛れてプリンセスウィッチに抱きついちゃったーもー幸せー!! ちょうどこうやってね……」
「うんうん」
ぎゅーっとしがみついたまま、みるるちゃんは高いテンションを維持している。仕方がないので私はその状態のままで宿題の答え合わせをしていた。ケアレスミスはあるものの、引き続き頑張っているようだ。
「こんな感じで……そうちょうどこんな感じでね……ん?」
私にしがみついたまま、みるるちゃんがわさわさと私の背中をまさぐり、それから顔を上げる。
「なんかヒカリちゃんせんせー、プリンセスウィッチと似たような感じする……それにこの気配……まさか!!」
みるるちゃんが私を驚愕の目で見つめる。ふるふると震えながらも、その腕はしっかりと力を込めているのが彼女らしい。
まあ、普通はバレるよね。曲がりなりにも魔法少女として気配を探れるんだし、みるるちゃんはずっとプリンセスウィッチのファンだったわけだし。
しかし一般人であれば厳しい箝口令と監視が付くわけだけれど、相手も魔法少女だった場合はどうなるのだろう。研究所の派遣していたような面倒くさい監視が付かなければいいけど。
「もしかしてヒカリちゃん……プリンセスウィッチ先輩様……」
「うん……」
「と柔軟剤が一緒!!!」
「は?」
「いや、シャンプーも一緒!!! 間違いない!! 銘柄全部教えてお願いー!!!」
思い出すこの香り……と言いながら、みるるちゃんは猛然と私を嗅ぎ出した。
うん、なんだろう。
みるるちゃんの能力は目を見張るものがあるときもあるけど、基本的に色々と抜けている。そこがいいのかもしれないけれど。
興奮した小型犬に纏わり付かれているような状態でどうにか授業を始めようと宥めていると、いきなりみるるちゃんのスマホが鳴り出した。その瞬間、素早くみるるちゃんが離れてそれに飛びつく。
「えッこんなタイミングで……もー!!!」
ベッドのクッションを何度か叩きつけたみるるちゃんが、私の方を向いてぎこちない微笑みを向けた。
「せんせー!! 私あの……学校から呼び出し受けちゃったみたいで……」
「そっか。じゃあ今日はとりあえず課題だけ出しておくね」
「ありがとー助かります!! テキトーにお茶して帰って! おかーさーん!」
嵐のように去っていったみるるちゃんを見送り、お母さんに挨拶をしてからお暇する。少し早い帰り道を歩いていると、後ろから黒い車が接近してきた。
「命が惜しくば乗れ」
「イヤです」
「……今晩の夕食を奢ってほしくば乗れ」
立ち止まり、ドアを開ける。
すると中でドクターシノブがドヤ顔をしていた。




