魔法少女、勝利を掴む1
真っ暗な世界の中で、手足の感覚もない。
少し冷たいような気もするけれど、それすら曖昧だった。
眠気よりももっと強い、何かに引っ張られているような感覚がする。落ちているような、上がっているような。
もしかして、これが死なのだろうか。
だとしたら想像していたよりも心地良い。魔法少女の頃は、任務中に怪我をして痛みの中で死ぬことを予想していたし、引退してからはそれなりに歳をとってそれなりに病気で死ぬのだと思っていた。
ふわふわと浮いているようで、苦痛も恐怖もない。もしくは、これが死の直前に出るという脳内麻薬の効果なのだろうか。
もう判断する方法も残っていないけれど。
肉体的には限界とはいえなかったから、おそらくはエネルギー切れなのだろう。
教えられていたような感覚は全くなかった。こうやって知らない間に致死量の能力行使をしないために、研究所は制御機能をつけさせていたのかもしれない。
同じようにうっかり死ぬような魔法少女が出ないよう、私の死体が役立つといいけれど。
そこまで考えて、ふと思い出した。
私は既に死んだのだろうか。
だとしたら、能力も完全に消えてしまったはずだ。
ドクターシノブも、私と一緒に下敷きになって死んでしまったのだろうか。
私の力を信じたせいで、脱出する機会を失って。瓦礫の下で。
イメージが浮かんだ。私を庇って抱きしめながら、大きなコンクリートに潰されるドクターシノブの姿である。
かなり、後味が悪くないだろうか。いや悪い。とても。
ドクターシノブはある意味カリスマ性のある人間なので、彼が死んだらSジェネラルで働く人々はかなり苦労するだろう。あらゆる分野を地味に支配している企業としてもそうだし、慕っている部下はかなり悲しむだろう。そして口々に悼む。
彼はプリンセスウィッチを信じて死んだ。最期まで一緒で悔いがなかったかもしれない。
いやいや。
逆に私が悔いるわそんなもの。魔法少女の名折れでは。
一応現役時代は任務死者数ゼロを地味にキープしていたというのに。
何かがツッコんだ。もしくは渦巻いた。
もしかしたら、ただ光っただけかもしれない。
真っ暗な中でうごめいたそれに意識を向けると、暖かい光の欠片のように感じた。
かすかに小さいものが、明滅を続けながら少しずつ近付いてきた。
違う。近付いているのではなく、大きくなっている。
大きくなって、とても眩しくなった光の奔流に包まれる。
私の体を包み込んだと思ったら、それは反転して私の内側から流れ出していた。
これは私の力だ。
私の中の光。どんなときにも失うことのない希望。
魔法少女が魔法少女として生きている証拠。
なるほど、私はまだ死ぬ気ではなかったらしい。
そう思うと、色々納得がいった。
確かに、色々と後悔することがある。死ぬ前に食べたかったことややりたかったこと、貯めたかった貯蓄額にも到達していない。
家族とももう少し近付いてみたかったし、みるるちゃんの受験も心配だ。プリンセスキューティが寿司を食べに行くと言っていた気がする。札束のレパートリーもまだまだ制覇していない。
それに、ドクターシノブとも話さなくては。
私の中を流れる光が全てを真っ白く染めるほど強くなった。
全身を強烈な痛みが包み込む。
「……いってぇ……」
「三科ヒカリッ!!」
意識が戻ったことを若干後悔したくなるような痛みに呻くと、ドクターシノブの声が聞こえた。
どうやら、私たちはまだ瓦礫の下敷きにはなっていなかったようだ。よかった。
「よかった」
私の心の声とドクターシノブの声がハモった。
見上げると、ドクターシノブが私を見下ろしながら泣いている。私の頬に雫をこぼしながら、彼はゆっくりと近付いてきた。息が唇に触れる。
「どーんっ!!! ヒカリンの友達、かわいい正義っ!! プリンセスキューティ、助けに来てあげたよー!!」
ドクターシノブの顔越しに、派手に壁を破壊しながらプリンセスキューティが突入してきたのが見えた。
その時のドクターシノブの顔は、多分一生忘れないと思う。




