魔法少女、ピンチになる2
強い衝撃とともに、瓦礫片の重さも感じる。力を強めて防御壁を物質に近いものにしながら、もう少し大きく作ったほうが良かったと後悔した。
炎に包まれていて視界がかなり悪い。
「爆発物か!」
「キューティ先輩は?!」
ドクターシノブとラブキューミラクルの肩を叩いて、口元に人差し指を立てながら頷く。私たちのいる空間は大きくはない。2人とも酸素が限られていると気付いて口を閉じた。
轟音とともに地面が揺れる感覚は、断続的に続いていた。ここから遠い位置でも同じような爆発が起きているようだ。
ゆっくりと呼吸をしながらラブキューミラクルに声を掛ける。
「ミラクル、魔法少女たちが脱出するのを助けに行って」
「でも……プリンセスウィッチ先輩様は」
「研究所の倒壊を防いでみる。急いで脱出して。ミラクルも一緒に。貴方の防御壁は私が付けとくから」
ぐっと抱き寄せて、ラブキューミラクルの魔力の感覚を掴む。彼女の体に集中するようにして、空気を分けるように防御壁を分離させた。不安そうに私を見ていたラブキューミラクルが、ぐっと拳を握ってから頷く。そして炎の中に飛び込んでいった。空気を分けたため、狭くなった空間でドクターシノブに身を寄せる。
スプリンクラーから水が放射され、周囲を包むものが炎から煙に変わった。その中で影が近付いてくる。
プリンセスキューティはこちらの防御壁ギリギリまで近付いて、それから自らを指し、研究室のあった方を指した。頷くと、頷き返したプリンセスキューティも走っていく。
『我々も脱出する』
リストウォッチを使って話しかけてきたドクターシノブに首を振った。
「私はサーバールームの確認と施設の倒壊防止のために残ります。ドクターシノブはこのまま出口まで走れますか?」
「貴様っ、何を馬鹿なッ……」
「この部屋の中には爆発物がありません」
サーバールームを開けた瞬間に、建物全体に設置されていた爆発物を連動して爆発させる仕組みが作られていたらしい。
この研究所は魔法少女の能力暴走も考えて、研究室や実験室は特に頑丈に作られている。それを倒壊させるのは難しいと考えたのか、主に通路を塞ぐように爆発物が仕掛けられているようだ。
この連続した爆発でも恐らく研究室の中にいた人々の多くは生き残っているだろう。しかし、廊下が倒壊し出られなくなれば、酸欠や餓死も含めて遅かれ早かれ死んでしまう。秘密裏に作られた地下施設だけあって、救助作業がどれほど行われるかわからない。
この爆発物を設置した人物は、我々を根絶やしにしてから目当てのものを掘り起こすつもりだったのではないだろうか。
爆発で倒壊しかけた研究所を能力で支えて人々を脱出させ、同時にそうまでして誰かの手に渡ることを防ぎたかったものを確かめる。危険なものであれば破壊する必要がある。
研究所の見取り図と、今までに歩いてきた感覚を照らし合わせて力を伸ばす。通路が広い上に既に爆発が始まっているので酸素までは確保できないけれど、爆発と瓦礫くらいは防げる筈だ。
「やめろ! ここがどれだけ広いと思っている?! 能力の使い過ぎで死ぬぞ!」
「だからドクターシノブは早く出て」
「出れるか!」
これほど大きく、広い範囲で能力を使うことは初めてだ。制御機能があれば一定の能力を使った時点でストッパーがかかるけれど、今はどれだけ使ってもそれがない。体の中からエネルギーが抜けていく感覚はあるものの、いつ限界が来るのか自分でもわからなかった。
くそ、と毒づいたドクターシノブが、私を抱えあげて立ち上がる。
そしてそのままサーバールームへと足を踏み入れた。
「私が確認する。貴様は能力に集中していろ。もしエネルギーが切れそうなら、迷わず力の行使を中止するんだ。いいな」
「ここが崩れてドクターシノブも死ぬかもしれませんよ」
「人の話はちゃんと聞いておけと前々から言っているだろう。私は貴様のためなら死ねる」
ドクターシノブが、静かに私に言い聞かせた。
その瞳をじっと見ていると、ドクターシノブはふっと笑う。
「それに、プリンセスウィッチは人のために動く魔法少女だ。救助すべき人間がいた方が力を出せるだろう」




