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魔法少女、覚醒する2

「なっ、何だ?! 何が起こった!」

「あの、それ(リモコン)もう効きませんよ」

「なんだとっ……」


 ビクッと固まっていた福黒が、指を必死に動かしながら周囲を見回している。ようやく視力が戻ってきたらしく、私を見上げて座ったまま後ずさった。


「お、お前、何故……裏切ったな、プリンセスキューティ!!」

「少し違います。プリンセスキューティは私を(・・)裏切れない(・・・・・)だけなので(・・・・・)

「どういうことだ」


 メタボなおじさんが座りながら後退りしているスピードなど、亀よりも遅い。ゆっくり歩いて近付いて、しゃがんでにっこり愛想よく笑ってみた。人の笑顔を見てヒッと怯えるなんて福黒は不届き者である。


「そもそも、変だと思わなかったんですか? あの職務に忠実なプリンセスキューティを本当に服従させたと思ってたんですか」

「……っプリンセスキューティ!! う、裏切ったのならばそれ相応の痛い目に遭ってもらうぞ!」

「人の話はきちんと聞いたほうがいいですよ」

「なんだ、やめろ! 触るなっ!」


 今度は私が福黒の胸倉を掴む。力を入れて腰を浮かせると、そのままズルズルと引きずった。流石に重いので力で補助している。

 それにしても、制御チップなしで力を使うのは清々しい。


 このまま力で空中に張り付けておこうかと思ったけれど、丁度良く床に亀裂が入っているので使うことにした。暴れる福黒を足払いして、大きく開いた床の割れ目へと落とす。福黒は悲鳴を上げて私の脚にしがみついた。


「おい貴様ァ何不埒な真似をしているッ!! セクハラでブチ込んだ挙げ句余罪をでっち上げてやろうか!!!」

「ドクターシノブは静かにして」


 すかさず飛んできた怒声に私が返事をすると、その瞬間にドクターシノブはピタッと口を噤んで大人しくなった。逆に怖い。

 溺れる者は藁をも掴むともいうか、割と深そうな亀裂に落とされてしがみついた福黒は不可抗力ともいえる。衣装デバイスのせいで素足やブーツにしがみついているように見えるが、実際はジーンズなのですかさず反撃するほどではない。

 とはいえ普通に嫌なので私は福黒を蹴り落とした。


 福黒は悲鳴を上げてもがき、床から約50センチほどのところで亀裂の片側に背中を押し付け、反対側へ両手両足で突っ張ることによって落ちることを防いでいた。

 覗き込んでライトで照らすと、割れたコンクリートの下には黒い土があり、亀裂の底が闇に飲み込まれているように見える。


「や、やめろ!! 早く引き上げるんだ!」

「いや、落としたの私なので、頼む相手を間違ってるのでは」

「なんでもいいっ、さっさと私をここから出せ!」


 政治家として暮らしているうちに誰もを従わせる能力を持ったと思ってしまったのか、それとも歳をとったせいで思い込みが激しくなっているのか。相変わらず命令口調を崩さない福黒である。


「そんなことより福黒、知らなかったんですか? プリンセスキューティは職務に忠実なんですよ」

「こんなときに何を……! その女は裏切ったんだぞ!!」

「魔法少女の職務は市民を守り脅威を退けて正義を貫くこと。クソみたいな妄想に付き合って誰かを傷付けることじゃありません」


 座って覗き込み、福黒と目を合わせる。踏ん張っているのが辛いのか、その額には汗が滲んでいた。スーツも皺だらけである。


「特別意識高い系社畜魔法少女のプリンセスキューティが、『仕方がない』とかそういう理由で仕事するわけないでしょ。腑に落ちなかったらとことん調べて問い詰めて、納得いったらどんな任務でも全力でやる面倒くさいタイプなのに」

「ちょっと聞こえてるわよぉ〜かわいい真面目ちゃんって言ってよね!」

「そもそも、魔法少女の繋がりを軽視し過ぎでしたね。私たちは、仲間のピンチなら命を懸けて助けるんですよ。特に同じチームであれば、いつ、どんな状況でも」


 能力があることで疎外感を感じている少女たちは、魔法少女となることでこうして使命と仲間を得る。同じ悩みを持つ少女たちが集まっていれば共感しないわけがないし、死の危険もある任務を共にしていればお互いを助け合わないはずがない。

 魔法少女は魔法少女を絶対に裏切らないのである。だから私はあのときに油断してチップを埋め込まれたし、ここまで乗り込むこともできた。


 プリンセスキューティも研究所ここから助け出すべき魔法少女の一人であり、私を助けてくれる確実な仲間だった。

 どんなときでもプリンセスキューティへの信頼は揺るがないし、もしそれが揺らぐことがあれば、私がプリンセスキューティを殺すべきなのだ。それこそ命を懸けてでも。


「魔法少女は正義の味方であり、魔法少女の味方ですよ。こんな計画に賛同するわけないじゃないですか」

「いっ……いいのかっ、私に逆らってっ、」

「そういう脅し、やめてください」


 亀裂のすぐ近くに片脚で座り、もう片方の足を向こう側へ掛ける。「スカートでそんな体勢を取るなッ!!」と騒いでいるドクターシノブを無視しつつ、私はよいしょと力を掛けた。

 ぐ、と脚で押すと、ゆっくりと亀裂が広がる。踏ん張っている福黒の震える手足がずり落ちて、また悲鳴を上げていた。

 そこへ声を落とすように、私は静かに忠告する。


「今度私の大事な友達に酷いことしたら、手足の先から能力で少しずつ押し潰して殺す。お前の家族も全員苦しめて殺してやる。どこに逃げても、どんな武器で対抗しようとも絶対にやるから」

「…………」

「もう二度としないように」


 薄暗い亀裂の中でもわかるほど白い顔になった福黒が、無言で何度も何度も頷いた。






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