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真実、明らかになる

 研究所で働いていたのであれば、恐らく家族についての情報も調べられていただろう。

 ドクターシノブが海外で暮らしていたのは、削除されたデータを復元できる才能と知識がある彼を研究所及び政府が探していて、その手から逃れるためでもあったようだ。

 そして、ドクターシノブは親の意思を理解したからこそ魔法少女の敵として情報を探り、研究所について調べていたのだろう。危険な研究をさせないように。


「ドクターシノブ、ご両親は今どこにいるんですか?」

「……14年前から連絡が途絶えている」


 研究員として勤めていたにも関わらず計画に反対し、データを削除したドクターシノブの両親が、そのまま安全に身を隠すことができたという可能性はそう高くはなさそうだ。そう思ったからこそ、彼らは自分の息子にメッセージを送ったのかもしれない。


「福黒、彼らをどうしたんですか」

「さあ、それは私が知るところではない」


 起き上がって掴みかかろうとした私の胸倉を、プリンセスキューティがぐっと掴んで睨んでいる。真っ直ぐにこちらを見ているその目としばらく睨み合って、それから私は力を抜いた。

 私が攻撃するかと身構えていた福黒がそれを見て笑う。


「まあそう怒るな、君の能力についても良いデータが採れたことは感謝してやろう。プリンセスウィッチ、そしてプリンセスキューティの強さは歴代でもそう見ない数値を叩き出してくれた。そのお陰で、再びこの研究を始動させることができたのだからな」

「どういうことですか」

「魔法少女の能力についてのキャパシティは個人差を考えても上限がもっと低いと思われていた。しかし君たちは平均を軽々と越えている。少なくとも、そこまでエネルギーを体内に蓄えられる能力が人間には備わっているというわけだ。他の魔法少女でもそれほどの力を持てる可能性が見えてきた」

「私たちを基準に、魔法少女を実験しようとしていたと?」

「最高レベルの魔法少女を量産しなければ意味がない。より強く耐久力も上がれば、今のように防具としてだけでなく、国外からの脅威に備えるための武器にもなる」


 科学技術の進歩によって、戦争は形を変えてきた。生身の兵士を使って殺し合いをすることそのものが減ってきているのに、そこにまた人間を投入しようと福黒は考えているらしい。それも、実験で作った少女たちを。

 私は高笑いしている福黒を見た。そして胸倉を掴んでいるプリンセスキューティを見上げ、それから拘束されているドクターシノブを見る。傷だらけの彼は、まっすぐに私を見ていた。

 口の中で未だに主張する大きな飴玉を片頬に押しやり、私は福黒に向けて話し出す。


「……なるほど、才能のない人間ってそんなつまらないことしか考えられないんですね」

「何だと?」

「だってそうじゃないですか。自分が弱いから、人に言うことを聞かせて思い通りにしたいと思うんでしょう。まあ仕方ないですよね、あなた一人では何も出来なさそうですし」

「生意気なことばかり言うな! また苦しませてやるぞ!」

「苦しませてやるって……、それだって貴方の力じゃないでしょ。研究所が開発したチップを埋め込んで、プリンセスキューティの力で取り出せなくして、それでやっとそのリモコンが使えるんですよ。あなたはそれを捻るだけしかできないじゃないですか」


 ハッと鼻で笑ってあげると、福黒は顔を赤黒くした。目下の者からの挑発に弱いようである。


「でもしょうがないですもんね。あなたはどんなに努力しても、私たちみたいな力は手に入れられない。魔法少女の能力は、男性には一切受け継がれない。男に生まれた時点で『負け組』なんですから」

「黙れ!!」

「羨ましいんでしょう? 成人すらしていない少女たちのことが妬ましくてしょうがないんですよね。でもどれだけ羨んで道具として使っても、あなたが強くなるわけじゃないですよ。わかります?」

「お前っ」

「ちょっとヒカリン〜そのくらいにしておきなよ〜あんまりオイタが過ぎるとヒカリンもそっちのイケメンも死んじゃうよ?」


 私と福黒の会話を遮るように、プリンセスキューティがのんびりした声を上げた。今にも血管が切れそうな福黒からそちらへと視線を移す。


「死んじゃうっていうか、そもそも帰らす気ないんじゃない?」

「まぁねえ」

「どっちみち死にそうなら、言いたいこと言ってからのほうがいいと思って。間違っても、あんな趣味悪いコンプレックスこじらせたおじさんに尻尾振って甘えるような魔法少女にはなりたくないし」

「あ? 喧嘩売ってんの?」

「ごめんね、私には一応プライドがあるから。死ぬなら戦って死ぬね」

「……そんなこと言ってると、アッチから最初に殺しちゃうよ?」


 プリンセスキューティが顔を上げると同時に、ドクターシノブが呻く。拘束されたドクターシノブが、首筋に向けられたナイフを掠めるのも構わずに苦しんでいた。能力で気道を狭められているらしく、喉からヒューヒューと音が鳴っている。


「ドクターシノブ!」

「気に……するな」

「ヤダーカッコイイ〜。でもプリンセスウィッチって〜、昔から人質とかに甘いんだよねぇ。あれ殺されたくなかったら、大人しく私たちに協力してね?」


 プリンセスキューティがニタッと笑う。

 それを睨みつけると、ドクターシノブが声を上げた。


「聞くなッ……!! 私は、貴様のために……死ぬなら、本望だっ……!!」


 傷だらけのまま、苦しそうに顔色を変えながらも、ドクターシノブはまっすぐにこちらを見ている。その鋭く黒い目は、最初にあった頃と少しも変わっていなかった。

 呼吸をして私はそれに微笑み返す。


「その言葉が聞きたかった」






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