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元魔法少女、戦う1

 薄ピンクの手袋に包まれた拳を防ぐと、バチバチと音が鳴る。

 プリンセスキューティは能力こそ前よりも抑えて使われていたものの、拳の鋭さについてはますます磨きがかかっていた。戦闘訓練など全くしていなかった身には荷が重い。


「やだ〜こんなもんじゃないでしょ? もっともっと抵抗してくれないと!」

「いや、こんなもんだから」


 楽しそうなところ悪いけれど、引退した身にそんな期待しないで欲しい。ただでさえ吐き気と戦ってるというのに、一番厄介なタイプの魔法少女を相手にしているのである。

 隙をついてこちらも攻撃してみるけれど、あっさり受け止められるうえに攻撃が倍返しで返ってくる。現役怖い。


「そんな柔らかパンチで魔法少女務まると思ってんの〜?」

「いや、だからそもそも魔法少女じゃないから」

「はー? じゃその格好なんなの? コスプレ? メンバーの中で一番可愛いパフスリーブの衣装をあっさり捨てたあんたが今更サイズ合わせて着込んでる時点で腹立つのよォ!」

「そんな理不尽な」


 プリンセスキューティは「ほんとはクールポジが良かったのにぃ!」と今になって新事実を暴露しながら逆ギレしている。支給されたから着てただけなのでお門違いだと気付いて欲しい。


「言ってくれれば交換したのに」

「あんたがピンクとか違和感ハンパねえわ!! これはこれで可愛いし!!」

「どうしろと……」


 軽く岩を粉砕しそうな突きを掠めて、衣装デバイスの髪がブレた。一瞬視線が逸れた隙に鳩尾を狙う強い一撃が入る。


「危なっ……」

「避けないでよぉ〜ちゃんとぶっ刺してあげるか、らっ!」

「避けるわ普通に。気軽に友達を串刺ししようとしないで」

「お仕事だからしょうがないでしょっ!」


 マジで()る気である。仕事はキッチリとこなすプリンセスキューティらしく、気絶やエネルギー切れで済ますような甘い気持ちはないようだ。

 私としては出来るだけ穏便に済ませたかったけれど、そんなことも言っていられないらしい。

 首筋から走る不快感に負けないよう四肢に力を入れながら、自分の中を流れる力に集中した。床に散らばるガラス片を飛ばすように、プリンセスキューティの周囲を見る。できるだけ反応する時間を与えないようにしたつもりだけれど、甘かったようだ。


「きゃっ……おいヒカリンてめえ顔傷付けたらブッ飛ばすからな!!」

「キャラ、キャラ剥がれてる」

「……も〜怒っちゃったから末端から切り刻んで死ぬより怖い目に遭わせちゃうぞっ!」

「被れてないから」


 プリンセスキューティの目がマジになってきた。チームプリンセスの中だけではなく同期の中でも一番キレたら手がつけられないということで狂犬と恐れられていたその性格もまだまだ現役なようだ。正直魔法少女の能力よりそっちが減退期を迎えていてほしかった。


「人がっどれだけっ苦労してっこの美貌保ってると思ってんだ!」

「ごめんごめん」

「適当に謝って済むなら魔法少女はいらねーからぁ!!」


 顔面について並々ならぬこだわりを見せるプリンセスキューティだけあって、私への攻撃も顔面は外されている。ただし首から下については容赦がなく、今のところ私の方が傷だらけであることは問題視していないようだ。


「わかったわかった」

「何がわかったって言うわけぇ?! ヒカリンに!! 私の気持ちはわかるわけないでしょうがぁ!!」

「うんまあわかんないけど、わかった」

「適当に返事する悪い癖直しなさいよッ!!」


 音が鳴るほど鋭い回し蹴りを、そのまましがみついて受ける。能力を相殺しても足が床にめり込んだ。

 プリンセスキューティの足を持ったまま、彼女の軸足を蹴る。私の方が重量がある分、寝技はちょっと有利である。転んだプリンセスキューティにのしかかると、喚いていた声がふと止んだ。


「もう終わり。怒るよ」

「うっ……」


 グッと力を入れて、プリンセスキューティの体を力で押さえつける。

 現役だった頃にも、プリンセスキューティが暴れて仕方なかった時にやっていた技だ。結構力を使うので疲れるけれど、やられる側も身動きが取れない上に圧迫感がすごいらしい。しばらくプリンセスキューティが大人しくなるとっておきの技である。

 あの頃は更に、みんなで動けないプリンセスキューティの顔に落書きしたものだ。今はペンを持っていないのが悔やまれる。


「とりあえずそこでじっとしてて」


 大きく息を吐くと、踏ん張って立ち上がる。向こうの研究室に力を割いているので、ちょっと使い過ぎである。制御チップの働きで吐かないために夕食を食べていないのでますますエネルギー切れになりそうである。

 早く帰って肉が食べたい。札束に角煮を作ってほしい。


 力はあまり出せないけれど、魔法少女でもない人間相手ならそれでも充分である。まして戦闘経験のない権力者ならなおさら。

 こちらを見下ろす男を睨むと、福黒はひくりと嗤いを引きつらせた。


「早めに降参して下さいね。私も魔法少女の頃に、敵対する相手に同情しないように訓練されてるので」


 さっさと終わらせよう。

 そう思った瞬間、体が痙攣して目の前が暗くなった。






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