黒幕、出現する5
サングラスを掛けた政治家の名前は、確か福黒 高次郎。親も首相をしていた政治家一家だった気がする。確か兄の福黒唯基がそろそろ官房長官になるだとかなんだとかニュースでやっていた。
スキャンダルで政治生命を絶たれる政治家も多いというのに、余裕の顔出しである。余程のバカか、でなければ私を生きて地上に帰す気はないようだ。
でっぷりとした指でマイクを掴み、福黒は喋りだした。
『懐かしいな、プリンセスウィッチ。こうしてプリンセスキューティと並べると往時の活躍を思い出すではないか』
「はぁ」
『まあ、あの頃は私も君たちももっと若かったがね』
サングラス越しだというのに、視線がなんか気持ち悪い気がする。プリンセスキューティを見ると、笑顔を保ってはいるものの微妙に一歩離れていた。福黒、味方にも引かれているぞ。
『一時は見逃してやったが、こうして戻ってきたことをまず褒めてやろう』
「いや、戻ってきてはないです」
『その格好をして何を言う。ああ、まだ恥ずかしいのかね。よく似合っているが』
きも……と呟いた声がプリンセスキューティとハモってしまった。
段々思い出してきた。魔法少女の頃、任務で街に出るとたまに感じるこういう視線が地味に嫌だと思っていたのだ。普通の視線とは違うのですぐに分かるため、魔法少女同士で協力して視界を遮ったりしていた。懐かしい思い出である。
『情報によるとまだ減退期が来ていないようだが、本当かね』
「さあ、制御チップが気持ち悪くて力を全然出せてないのでわかりません」
『それはすまないな。君が我々に服従すると誓うのであればすぐに制限を緩めてやれるのだが』
福黒がプリンセスキューティを見る。するとプリンセスキューティは「プリンセスウィッチは素直に言うことを聞いてくれる子じゃないですもんね〜」と首を傾げていた。
「とりあえず福黒さん、貴方が魔法少女たちを集めてあんなことした総責任者ということでよろしいですか?」
『特殊防衛省としてはより強い魔法少女を求めていてね。今まで君たちのような実力者の出現を待つしかなかったが、これからの時代はもっと強い力を持つ魔法少女をいくらでも増やす必要がある』
「その必要は別にないと思います」
『悪の組織の技術革新や国際テロ、個人企業で能力開発を研究しようとするものなど、危険は増え続けている。様々な状況に対応するには、もっと魔法少女を強くする必要があるのだ』
「安全であるという保証はないんですよね。エネルギーを移された魔法少女もエネルギーを取られた魔法少女も、最悪命の危険にも晒されますよ」
『安全な方法はこれから探っていく。そのための研究なのだからな』
能力を持つのは少女だけだ。人間の、女性の、限られた年齢でしか見られないのだから、研究をするというのであればすべて人体実験になる。それは分かるし軽いものであれば私も研究に参加したことがあるけれど、福黒はまるで使い捨てのように考えているのが気に入らない。ふつふつと怒りがまた再燃してきた。
「じゃあもうしょうがないんで、阻止して暴露しますね」
『やってみるが良い、できるものならな』
私の能力を知っていても福黒は少しも動じてはいない。制御チップの存在を知っているからでもあるし、その隣にプリンセスキューティがいるからでもあるのだろう。
福黒はニヤニヤとこちらを見下ろしてから、隣りにいるプリンセスキューティを顎でしゃくった。
『昔の仲間に礼儀というものを教えてやれ、プリンセスキューティ』
『はーい! みんなの味方、かわいい正義! お待たせしましたっ! プリンセスキューティ、出撃だよーっ!』
「ブッ」
この状況で、普通に演出用の口上を述べられるプリンセスキューティは本物のプロだ。隣に悪徳そうな政治家がいる状況にも関わらず、きゃるんとした顔と星やハートが語尾にくっついている喋り方で、ポーズまで付けている。
昔と全く同じ角度で、体だけ成長しているのが懐かしいやら面白いやらで思わず吹いてしまった。とっさに横を向いて口を塞いだけれど、目ざといプリンセスキューティにはバレていた。
『……』
「あ、ごめんごめん」
『プリンセスウィッチちゃん、今日はいーっぱい、遊ぼう、ねっ!!!』
ねっ、の部分でプリンセスキューティが首を傾げ体をくねらせた瞬間、空間が爆発する。私はとっさに横へ飛び退いた。立っていたところには、福黒たちがいた部屋にあったガラスが突き刺さっている。
恐らく特殊強化ガラスであるのに鋭い角度に割り、しかもそれを凶器に変えて攻撃してくる。さすがプリンセスキューティである。
とん、と降り立ったプリンセスキューティが、ピンクのリボンを翻してウィンクした。
「本気出していくけど、簡単にやられないでねぇ〜?」




