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黒幕、出現する3

 研究員の男性はデスクトップに向かって次々とパスワードを入力していた。

 何度も繰り出されるパスワードは、少しずつ長く難しくなっているように見える。


「貴様、本当に計画書を見せるつもりがあるのか」

「嘘だったら怒りますよ」


 声をかけると、男性はびくりと肩を揺らした。それからこめかみに汗の流れる顔でこちらへと弁解する。


「本当だ! 計画書は厳重に保存されていて、普段は閲覧することができない。え、閲覧できるのも1部分のみで、まだすべては解読されていない」

「どういうことですか?」


 計画書が気軽に閲覧できないと、色々とめんどくさそうな気がする。その男性によると、この魔法少女を集めた計画と言うのはかなり前に作られたものだったらしい。


「その当時の研究員が、いきなり計画の全てのデータを削除した。大方は復元できているものの、暗号化されていて全てを解読することができていないのだ。我々はその計画書に従って、解読不能な部分を埋め合わせる形で研究を続けてきた」

「なんだと?」


 ドクターシノブの顔色が変わる。そしてようやく表示された計画書を見て、それからキーボードを研究員から奪い取るようにして何かを打ち込み始めた。


「まだ解読されていないデータにアクセスするにはどうすればいいか教えろ」

「こ、この部屋の端末からはアクセスできない。この向こうのコンピュータールームのものであれば」


 大きな研究室の向こうに他へと続くドアがあるのが見える。その向こうにまたコンピューターがあるらしい。


「ドクターシノブ、いきましょう。魔法少女たちは彼らに任せていても大丈夫そうですし」


 私がそう言うとドクターシノブは無言でうなずいた。それからメガネを中指で掛け直しながら研究員へ案内するように指示する。

 私たちが歩き出すと、他の研究員たちは視線をこちらに向けたものの、何かを言う事はなかった。すでに端から数人の魔法少女たちは繋がれた管を全て外されているが、まだ目を覚ます気配はないようだ。


 背後の私たちを気にしながら歩く研究員を見ながら、出口とは違うほうのドアへと歩いていく。ドクターシノブは黙ったまま歩みを進めていた。その硬い表情に質問を投げかける。


「前に言っていた、ドクターシノブが悪の組織を作った原因となったファイルを作成したのがその研究員なんですか?」

「恐らくはな」

「その研究員はどこに行ったんでしょうか」

「行方不明だ」

「本人を知ってるんですか?」


 今度は沈黙が返ってきた。ドアを掌紋で開ける男性に同じ問いかけをすると、彼はかぶりを振る。


「同じ時期に勤めていたこともあるとは思うが、直接の面識はなかった。事件が発覚した後は姿を見ていない。彼らの話題はタブーとなり、上から詮索も禁止された」

「彼ら? 複数なんですか?」

「二人組だったようだ……この端末からアクセスできる」


 研究員の男性は、コンピューターの並ぶ部屋で1台だけ他から離されて置いてあるものを指さした。起動してパスワードを入力した後はドクターシノブへと場所を明け渡し、近くに置いてあったワーキングチェアへと座る。その姿を視界に入れながら、私も壁に背を向けてデスクに腰を預けた。

 このコンピュータールームにももうひとつ扉がある。先程の研究室よりは大きくない部屋なのに、監視カメラはかなり多かった。不審者を警備する目的というよりは、研究員を監視するものなのかもしれない。スプリンクラー設備があるので、何かを噴射されないよう一応注意しておかなくてはいけない。

 ドクターシノブは慣れた様子で端末を弄っている。目が片時も画面から離れないので、かなり集中しているようだ。


「私、さっきの計画書見てないんでやっぱり口で説明してもらえます? 暇だし」

「……窒息死させられるのは御免だ」

「私が窒息死させたいなって思っちゃうほどのことだっていうのは大体想像付いてるので大丈夫ですよ」


 盛大に顔を引き攣らせた研究員が、何度か座り直して体勢を変えてから諦めたように喋り始めた。


「……簡単に言えば、魔法少女の能力を他の少女へと移す研究だ」

「それは可能なんですか?」

「理論上は」


 魔法少女は能力のためのエネルギーが一定量に保たれるようになっている。使えば一時的に減少するが、食事や睡眠などで自然に回復していく。その一定量以上にエネルギーを溜めることはないけれど、肉体的にはそれ以上に体に溜め込めるようになっているらしい。

 エネルギーを限界まで注入することができれば、それだけ能力を大きく、長く使うことができる。それによって研究所はより強い魔法少女を人工的に作るつもりだったらしい。


 能力の波長は魔法少女によって違うけれど、似た波長のものであればエネルギーを移すことができるはずだという仮説を証明するための研究実験のようだ。


「これだけ大量の魔法少女を集めるのは、もともとの計画にあったものですか?」

「いや。最初はただ1人の魔法少女に対し3人ほどのエネルギーを注入する計画だったようだ。しかしそれでは実験結果のデータが乏しい」

「多くの魔法少女で検証したいと思ったわけですね」

「い、言っておくが、私が考えたものではない」

「じゃあ誰が考えたんですか?」

「だから言っただろう、指示は文書で……」


 研究員が、突然に言葉を詰まらせた。イスから転げ落ちるように寝転んだその顔は赤くなっている。先程も見た表情だった。

 ただ、今回は私がやっているのではない。


「敵襲!」

「何だと?!」


 ドクターシノブへ叫んでから、男性の喉元へ手をあてる。逃げ出そうとする男性を宥めながら力を込めると、気管のところに力を感じた。取り除こうとして、弾かれる。

 この力は知っている。

 周囲に能力で膜を張って、外からの干渉を退ける。するとようやく男性が呼吸を再開した。咳き込む背中を擦ってから、デスクの下へと隠れさせる。ドクターシノブは、キーボードを打ち込みながらもこちらに顔を向けていた。


「ドクターシノブ、また魔法少女が来ました」

「どこにだ」

「そこに。プリンセスキューティが来てます」


 みるるちゃんたちがいる研究室へ続くものとは違う、もうひとつのドアを指すと、ドクターシノブが息を呑んだ。

 プリンセスキューティは、現在の魔法少女の中でも最高レベルの能力を持っている。






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