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黒幕、出現する2

「け……研究計画書の原案がある。私にしか閲覧は許されていないが、それを読んだほうが早いだろう」


 研究員の男性は震えながら壁際のデスクトップへと近付き、私の顔を見る。頷くとキーボードを叩き始めた。


 研究室の中では、他の研究員とドクターシノブの部下によって、今やすべての機械の蓋が開けられていた。いくつもの管に繋がれている少女はかなり痛々しかったけれど、やや顔色が悪い他には怪我などは見当たらない。

 それらを見回しながら男性の元へ近付こうとして、ふと気が付く。

 壁際の列、楕円形の機械の中に見慣れた顔が眠っていた。


「……みるるちゃん」


 幼くて愛嬌のある顔は、表情がないと少し大人びて見えた。額にかかる猫っ毛を撫でると、顔色で思ったよりも高い体温が伝わってきてホッとする。手を翳すと呼吸が感じられ、脈拍もあった。

 撫でると機嫌のいいポメラニアンのように嬉しそうな顔をしたみるるちゃんは、今はなんの反応もない。


「薬の効果が切れれば自然と目を覚ますそうだ」


 ドクターシノブが私の隣でみるるちゃんを見下ろす。機械に取り付けられたライトの光に眼鏡が白く反射していた。ドクターシノブが顔をこちらに向ける。


「プリンセスウィッチ、もしや悔いているのではないだろうな。自分がまだ魔法少女をやっていれば防げたかもしれないと」

「流石にこんな事態を予測するのは難しいですし、そんな後悔はしてませんよ」

「その割には、かなり納得のいっていない顔のようだが」

「……別に、ただ、魔法少女って何なんだろうと思って」


 その能力の強さから、魔法少女は恐れられることも多い。人を助けるためにのみ能力の使用が許されているのだと洗脳のように教育されるし、特に一般人については能力によってかすり傷ひとつ付けるなと任務の度に注意されていた。

 しかしそれをきちんと守っていても、その力を間近で感じた人々は魔法少女を恐れる。事件に巻き込まれた一般人や、魔法少女をサポートする人々、そして研究員さえも、その力の強さを目の当たりにすると恐怖し、嫌悪し、それから魔法少女たちを異物とみなすのだ。


 魔法少女なしでは解決できない事件もある。十代の遊びたい盛りに、四六時中待機して悪の組織に備えている少女たちがいる。彼女たちの多くは街や人々を救える力を誇りに思っていて、時には危険を顧みず任務に励んでいる。

 しかしその裏側では、化物と恐れ生きた兵器だと見なして、ただの研究材料として扱う人もいる。味方でさえ。


「……みるるちゃんは最近、もっと頑張らなきゃって何度も言ってたんです。爆破事件が多く対応に追われる中で、怪我をしたり失敗することがあったから。もっと頑張らないとダメだって、苦手な勉強も頑張ってました」

「おそらくそれが研究所の手口だったのだろうな。相手はまだ視野の広くない十代の少女だ。業績が芳しくないと言い続け、悩んだところで入院すれば能力強化の可能性があるとでも誘えば簡単に引っ張ってこれただろう」

「こんなところに並べられるために魔法少女をしていたわけじゃないのに」


 基本的に魔法少女は悩みを話せる相手がいない。同僚と顔を合わせるときは任務に集中する必要があるし、寮に入ればいくらか時間はあるけれど魔法少女の多くは自宅から通うことを希望する。職員に相談するとすぐに上に伝わり検査や面談が行われるし、家族にも告知していないならなおさらだった。


「彼女らが無事に目覚めて、ただ能力があったというだけでこんな扱いを受けたと知って、それでも魔法少女をしたいという人はどれくらいいるんでしょうか」

「……私に訊かれても答えられん。魔法少女ではないからな」


 肩を竦めたドクターシノブが、研究員の元へと歩き出す。

 革靴を鳴らしながら数歩歩いたところで振り返り、私を見た。


「貴様ならば、自ら答えを出せるのではないか? プリンセスウィッチ、何のために魔法少女をしていた?」

「……私はお金のためですよ」

「前にもそう言っていたな」


 自分が魔法少女だった頃にこの研究が行われていたら、どうなっていたのだろうか。

 ぼんやりと照らされる魔法少女たちの中に自分を思い浮かべてみようとしたけれど、うまくいかなかった。諦めて、ドクターシノブへ並んで歩く。


「前払いで5億積まれてもイヤですね。何されるかわからないし」

「正しい判断だ」






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