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黒幕、出現する1

 ずらりと並べられた少女たちは、まるで機械で作られた繭で眠っているようだった。


「な、何なんだお前たちは!」


 その繭の間に立っている白衣を着た中年の男性が、こっちを見ながら叫んだ。他にも何人かこちらを見ている研究員らしき人物がいる。

 いちばん出口に近かったその男性に近付き、胸ぐらを掴んだ。


「全部外して、起こしてあげて」

「なっ……何を馬鹿な……グッ?!」


 私を見下ろしていた男性が急に言葉を詰まらせた。持っていたタブレットを取り落とし、私が手を離すと急に崩れ落ちて両手で喉を掴んでいる。その異様な様子に他の研究員たちは何も言わず立ち尽くしていた。私は彼らを見回して、もう一度男性の胸ぐらを掴んで見えやすいように持ち上げた。


「ほら、早くしないとこの人窒息で死んじゃいますよ。いいんですか同僚を見殺しにして」

「おい落ち着けプリンセスウィッチ、貴様我々より余程えげつない脅し方をしているぞ」

「私は落ち着いてますよ」

「だろうな、キレたらもっと凄そうではある」


 ドクターシノブが私の肩を叩きながら隣に並び立った。ふっと能力を緩めると、喉に詰まっていた何か(・・)が消えた男性が激しく咳き込む。

 確かに穏やかな方法ではないけれど、えげつない脅しをしている魔法少女に臆することなく近付いてこれるあたり、ドクターシノブだって普通の人間じゃない気がする。


「ほら、早くこの機械から出してあげて下さい。この人が死んだらここにいる人全員順番にやっていきます。全員を解放するまでやめません」

「その声は本気でやる気だな……」

「だってこの人だけ脅されるとか可哀想じゃないですか。みんなにやってあげないと」

「魔法少女の格好でサイコパスみたいな発言をするな。いや、どんな格好でも駄目だが」


 とりあえず冷静になれと首元に新しい冷却ジェルをあてがわれた。気遣ってくれているドクターシノブには申し訳ないが、イライラしすぎて冷却ジェルの気持ちよさも制御チップの不快感もさほど気にならないくらいである。

 本当は全員ブチのめしてしまいたい。けれど、安全に魔法少女を助けるためにはまずこの機械から取り出さなければいけない。むき出しの腕やこめかみに管の繋がっている魔法少女たちを守るには、この人たちの協力が必要だ。


「貴様らも何を突っ立っている!! 命が惜しければさっさと行動に移れ!!」


 ドクターシノブが張りのある声で一喝すると、顔色の悪い研究員たちが慌てて動き出した。ドクターシノブの部下が速やかに部屋を見て回り、魔法少女の状況を確認して他の部下と通信している。

 逃げ出す人間がいないか見張りながら、まだ咳き込んでいる研究員の胸ぐらを揺する。


「これをやった責任者が誰か教えてほしいんですけど、貴方ですか?」


 ゲホゲホと咳を繰り返しては話を聞いていないフリをする研究員は、何度か能力を使うと大人しく協力してくれるようになった。実際にやってみて気がついたけれど、気道を塞ぐのは小さな力で最大限の効果を出すもっとも効率的な方法な気がする。


「か、管理を任されているけれど、私は責任者じゃない! 仕事として命じられただけだ!」

「誰がやれって言ったんですか?」

「知らない! ほ、本当だ!! 仕事の内容はメールで指示されていた!」

「今貴様の端末を調べている。嘘はバレるとまたお仕置きされるぞ」

「本当なんだっ!! メールは、すぐに削除しろと指示された!! 信じてくれ!!」


 床に落ちたタブレットを拾ったドクターシノブが、何やらケーブルを接続して操作している。復元できるか試しているところらしい。

 中年の男性は四つん這いで怯えながら必死の形相で訴えていた。近くで大声を出されると耳が痛いし、ヒッヒッと喉を鳴らしているので過呼吸でも起こされたら困る。私はなるべく優しい声を出して男性を宥めることにした。


「おじさん、私のこと覚えてますか? 定期検査で会ったことありますよね。最初の年と、二年後に3回」

「ヒッ……」

「私、覚えようと思った人の顔って大体忘れないんですよね。あのときはマスクしてましたけど、目元だけでもちゃんとわかりますよ」

「プリンセスウィッチ、優しい声が逆に怖いぞ」

「失礼なこと言わないで下さい」


 しゃがみ込んで、近くにある機械にすがるように座る男性と視線を合わせる。


「おじさん、魔法少女の能力について解析する研究をしてたんですよね」

「……」

「こんなに魔法少女を集めて何をしようとしていたんですか?」


 顔を近付けてそっと訊くと、男性はますます息を浅くした。

 能力を知っているからこそ、研究員の男性は魔法少女わたしがより恐ろしく見えるのかもしれない。まあ、普通に命を脅かしたせいもあるだろうけれど。

 だからといって、怯えているこの人を相手にこれ以上の譲歩をしようとは思わなかった。何の罪もない少女たちを閉じ込めておける人間に情を抱けるほど私は優しい人間ではないようだ。


 イライラを抑えるために溜息を吐くと、床のタイルに亀裂が入ってしまった。研究施設の割に意外と脆い作りである。しかしその亀裂が心に響いたようで、男性は私の質問に答えてくれる気になったようだ。






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