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元魔法少女、突入する6

 ミニキューウィッチの言葉に従って、私たちはエントランスから右のエリアへと進んだ。途中何人か警備員には遭遇したものの、ドクターシノブの部下2名によって速やかに鎮圧されていく。魔法少女はミニキューウィッチ以来現れることなく、私も能力を使わずに進むことができた。


「気分もマシになってきたので歩けますよ」

「無茶をされては敵わんからな。そこで大人しくしていろ」


 そこ、というかドクターシノブの背中である。私はまだ彼に背負われたままだった。魔法少女の衣装デバイスを使っているだけでも恥ずかしいのに、更に黒スーツに背負われている形である。警備員の油断を誘うのにある意味最適なフォーメーションなのかもしれない。

 筋肉量が多いので一般的な女性よりも重いだろうに、ドクターシノブは特に不平を漏らすこともなく、そして疲れた様子もなく私を背負い続けていた。ここでプリンセスウィッチハアハアとか言い出せば後ろからスリーパーホールドをキメて降りていたけれど、何も言わずにただ歩いているので私も降りるタイミングを見つけられなかった。


「聞き出した情報の通り、あの扉の先が一番大きな研究室のようだな」


 ドアを見つけては中をスキャンし、ハッキングして開けて調べていたけれど、これまで見つけた研究員は20名にも満たなかった。どの研究員もいきなり侵入してきた私たちに驚き、大人しく捕縛されている。どの部屋でもそうだったので、このエリアは侵入者の出現について知らせられていないようだった。

 暴力沙汰に慣れていない研究員は特に拷問する必要もなく、施設内のことや魔法少女について教えてくれた。

 話によると、今まで出会った研究員は解析作業を行っていただけで、ここに収容されているらしい魔法少女については目にしていないという。研究員の中でも情報管理が厳しくなされているようだ。


 小さな研究室が並ぶエリアから更に奥へと進むとエリアを区切るドアがあり、その先に少し広い廊下があった。奥には大きなスライド式のドアが一つだけある。ドクターシノブの部下2人が警戒しながら進み、合図があってからドクターシノブがそこへと近付いた。


「……ドクターシノブ、降ろして下さい」

「人の話を聞いていたのか」

「お願いします」


 声を抑えて言うと、しばらく黙ったドクターシノブが少し屈んで私の足を離した。胸のあたりにやや不快感が残っているものの動くのに支障はない。

 そのままドアまで近付こうとすると、ドクターシノブが慌てて私の手を掴んだ。


「おい、安全確認が済んでからにしろ。我々の侵入を警戒して爆発物でも仕掛けられていたら敵わん」

「そんなものないです。この先にいる魔法少女たちに何かあったら向こうが困るでしょうから」

「何?」


 分かるのか、という問いかけに頷きだけで返す。

 魔法少女の持つ能力は、自らのものだけではなく他の魔法少女のものも感じ取ることができる。けれどそれは他の感覚で例えるならば匂いのようなもので、ごく近くにいるか、明確に能力を使って触れたものなどでなければわからないものだ。

 この廊下には能力を使った痕跡はない。なのに、この廊下に立っているだけで私はその能力を感じていた。


 今までに感じたことのないような、全体的に滲んでいるような変な感覚がする。この向こうに大人数の魔法少女がいるのは間違いないようだった。

 デバイスに覆われている肌がピリピリと空気の感覚を伝えている。


「どいて」

「おい、見て分かる通りまだ解錠が済んでいないぞ」

「いいから、どいて」


 パネルに端末を接続してハッキングを試みていた部下たちに強く言うと、大人しくさがった。

 白いドアに手を当てる。イライラした気持ちのままに力を込めると、硬い音がしてドアが崩れた。項からまた不快感が伝ってさらにイライラする。


「……おい、何も乱切りにすることはないんだが?!」

「私もやるつもりはなかったんですけど」


 電子ロックだけ壊せばいいと思っていたけれど、ちょっとだけ力が入ってしまったようだ。不安定な感情によって能力をブレさせない訓練はかなり積んできたはずなのに、しばらくやっていない内に随分鈍ったようだ。


「誰だっ!」


 薄暗い内部から声がする。そこに目をやって見えた光景に、私もドクターシノブたちも絶句した。

 広い空間の床に、太いコードが縦横無尽に走っている。それが繋がれているのは何列にも並べられた楕円形の機械だ。その機械は上半分が半透明の素材で作られていて、中にあるものが見える。

 すべての機械の中に、魔法少女が眠っていた。






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