元魔法少女、突入する4
「あれは第5部隊のいわゆる緑担当、ミニキュー・ウィッチだな。ウィッチ系の名を冠している通り、普段は在りし日の貴様のような強い能力を用いる落ち着いた戦闘スタイルと冷静な判断能力が評価されている魔法少女だが……流石に元祖ウィッチに出会うとなるとそこらの少女と変わりないらしい。ちなみに第5部隊は湾岸特殊部隊とも呼ばれ、複数のチームが同じ地区にいることで有名だ。彼女はミニキュー、つまり身長150センチ以上160センチ以下のメンバーで構成されているチームに所属しており、いわゆる中堅どころといったところだ。他にプチキュー、エバキューというチームがあり、年齢と身長によって徐々に移行するシステムになっている」
何かいきなり早口で詳細な解説を始めたドクターシノブは置いておいて、そのミニキューウィッチはやたら装飾のついたステッキを上下に振りながらハウハウと意味のない動きを繰り返していた。周囲に他に人員はおらず、ここにいるのは彼女一人のようだ。
彼女の背後、通路の先には天井に防火シャッターらしきものが見えた。まだ閉まる気配はないが、ここで下手に能力を使ってあれが降りてしまうと面倒そうだ。ドクターシノブの部下2人がとりあえずあのシャッターの向こうまで行ってくれると助かるけれど、どうやら感動で手が震えてそれどころではないようである。
「あのっ……プリンセスウィッチさんっ」
「いえ、人違いです」
「私ずっと子供の頃から憧れててっ……同じウィッチになれたとき嬉しくて……卒業されたときすごい悲しかったんですけど、こうやってまた会えてすごく嬉しいです!!」
「残念ながら私はプリンセスウィッチではないです。これはただの衣装デバイスで作られた外見なので中身は別物です」
それにしても、侵入者に対していきなり敵対心を下げるなんて無防備すぎやしないだろうか。普段の任務にも野次馬に見せかけて悪の組織が紛れ込んでいたり、花火に見せかけて爆発物だったりするだろうに。騙されやすそうで敵ながら心配になる。
老婆心ながらやんわり注意すると、ミニキューウィッチは大きくかぶりを振った。
「いいえッわかります!! あなたは本物のプリンセスウィッチです!! 私には分かるんです!!!」
「そうだぞ!! 貴様にはオーラがあるッ! どれだけ隠してもその輝きは分かる者には分かる!!」
「ドクターシノブは黙って」
数メートル先にいるミニキューウィッチと同じように拳を握って力説したドクターシノブが視覚的にもやかましい。
「とにかく、私たちはその先に行きたいんで、通してくれると助かるんですけど」
「先へ……って、この先は研究所ですよ、プリンセス先輩。このまま行くと、プリンセス先輩は侵入者として政府の敵とみなされ排除されちゃいます」
「プリンセス先輩はやめてほしい。お願いだから」
ものすごくリリカルな方向にナルシストな勘違い女みたいな感じがする響きで呼ばれると流石に精神的ダメージがあった。同じ魔法少女歴を持つ者として先輩呼びはまだ許容できても、プリンセス先輩は拒否させてほしい。
「……先輩が敵対者となったって上から言われたとき、何かの間違いだって思ったんですけど、本当だったんですか? いきなり卒業したのもそのため……? どうしてですか? 私たちのこと、嫌いになったんですか?」
「いえ、卒業したことと今回この立場にいることは全く関係ないのでそこは混同しないで欲しいんですけど、現状はこうして研究所から敵視されていることは事実です。あと別に嫌いになったとかそういうわけでもありません」
「じゃあ、どうして」
「ミニキューウィッチはどうして研究所にいるんですか? 活動可能なメンバーが減っている今、わざわざ普段の担当エリアを離れている理由は?」
表情を曇らせてこちらを見ていたミニキューウィッチは、ステッキを両手で握りしめながら少し迷い、それから口を開いた。
「私も担当地域を離れるのは心配だったんですけど、S任務だって言われて一昨日から……あと、研究所はメンバーも何人か検査入院してるんで、会えるかなって」
S任務は、セキュリティ任務、つまり護衛の仕事だ。主に要人が外出するときに同行して悪の組織から守る任務だが、基本的に2人〜3人組で仕事をするのが普通である。
そもそも魔法少女は地域の安全を守るのが第一任務なので、このS任務はよほどの人物でなければ発生しない。仮の名目として呼んだにしては第5部隊はやや遠いことから考えると、施設内に誰かしらの要人がいる可能性がある。
「それで、メンバーには会えましたか」
「いえ、まだ……検査中だって」
「知ってるメンバーがこの3日間全員検査中だと言われたんですか。精密検査でも丸一日あれば終わるし、適宜休憩時間もありますよね。全員が顔を見るだけでも面会できないというのはおかしいと思いませんか?」
「それは……」
迷うような顔をするこの魔法少女の中にも、疑念は既にあるらしい。とはいえ現役の魔法少女にとっては研究所は自分の健康管理を全面的に担っている場所であり、疑問を抱くことすら封じられるように仕向けられている。不審に思っても実際に確かめる行動には出られないだろう。
「私はそれを確かめに来ただけです。別に政府や魔法少女を憎いからやっているわけではありません」
「え……そうなんですか……でも、私は」
「ここを通すわけには行かないんですよね。大丈夫です。あなたを倒して進むので、遠慮なく戦って下さい」
戸惑っているミニキューウィッチに頷くと、こちらを見つめていた瞳に強い光が戻る。覚悟を決めた彼女がピンと姿勢を伸ばすと、グリーンのリボンが揺れた。
それに合わせて、私も軽く片足を引いて半身に構える。いつでも動けるように適度に力を抜いた。
「魔法少女対決……ついに始まるというのか……!!」
とりあえず蹴りを繰り出して、ドクターシノブの構えたカメラを壊す。
よし、体の調子は万全だ。




