元魔法少女、突入する1
「おい貴様、何故そんなに手榴弾ばかりを装備している」
「えっ、だって便利だし……」
悪の組織らしく、Sジェネラルの武器庫にはかなりの銃火器が保管されていた。平和な街の地下にこんな物騒なもの置かないでほしい。
とはいえこんな状況ではむしろ助かる。リュックに戦場のパイナップルを詰め込んでいるとドクターシノブが私の肩を掴んだ。
「ナチュラルに対人戦闘を前提とするな」
「別に相手を殺そうとは思ってませんよ。ほら、ちゃんと人に使う分は催涙弾とかスタングレネードとかにしてます。普通の手榴弾は能力で範囲縮めると簡単な鍵なら破壊できますし」
魔法少女の能力は遠隔操作もできないことはないが、直接手に触れたほうが制御がしやすい。自分の手で持って投げる手榴弾であれば軌道も爆破範囲も調節できるので、普通の爆弾や銃器よりも圧倒的に使い勝手が良かった。
「恐ろしいほど戦場に向いているな魔法少女というものは。政府が管理したがるのも道理だ」
「まあ、そうでしょうね」
「第一の目的は魔法少女の救出だが、研究所についての調査も同時に行いたい。コンピューター系統への爆破は避けろ」
何だか平和めかしいことを言っているドクターシノブだが、その背後に特殊部隊のようなメンバーが同じく銃火器を装備していることで台無しである。救出した魔法少女の輸送目的としているものの、明らかに戦闘の気配しかしない。
「研究所の場所はわかってるんですか」
「大体はな。だが言っている通りこちらの準備が万全とは言えない。内部へ入れない可能性もあるぞ」
「多分大丈夫だと思います」
「貴様のその自信はどこから来るんだ」
戦車に乗り込みそうな雰囲気とは裏腹に、私たちと黒尽くめの特殊部隊は至って普通の乗用車へと分乗した。普通なのはもちろん見た目だけで、車内は様々な機械が取り付けられ、運び込まれた荷物もやたらと物騒である。
「我々の調査が正しければおそらく研究所は角の内直下に作られている」
「どんなコネがあって建てられたんでしょうね、そんな場所に」
「各所に排気口が設置されている。我々が突入した後、部下がそれぞれの突破口を開いて救出と脱出に備える予定だ」
「わかりました」
「そして三科ヒカリ」
いつもの黒塗り高級車の中でボディーアーマーを着込みながら頷くと、ドクターシノブが真剣な顔をして私の手を取った。
「貴様に最も必要なものをここで渡しておく」
「なんですかこれ」
固くて平らな円形のものを、ドクターシノブがしっかりと私の手に載せて握り込ませた。見ると、ピンクゴールドに細かな彫刻が施された芸術性の高いパッケージが見て取れた。手前の側面に小さな長方形のボタンがあり、そこを押すと軽い音を立ててそのピンクゴールドが開く。内面はやわらかな象牙色を地としてカラフルな宝石のようなボタンが並んでいた。蓋の裏面にはディスプレイも付いている。
「……なんですかこれ」
「私が開発した新型衣装デバイスだ。魔法少女への変身をベースに、様々な機能を付け加えた」
「いや、変身とかしないんで」
「貴様ァこの状況において何を言ってる?! 身の危険が迫っているというのに我儘を言っている場合か! 能力があるからと言って慢心せず少しでも安全性を上げるための努力をしろ!!」
いや、貴様が何を言っているのだと言いたい。つい実際に口に出してしまった。
どさくさに紛れて自分の欲を押し付けている場合ではないだろう、それこそ。
「いいか、まずここの起動ボタンを押す。すると変身が始まり各機能が使用可能になる。これが可視領域ステルス、赤外線ステルス、このボタンを押せばごく狭い範囲での電波妨害も可能だ」
「なんで魔法少女になるのが前提なんですか。私もう引退したって何度も言ってるんですけど」
「気にするな」
ゴリ押しが強く、そして執念深い。
その一心でかなりすごい機能を開発してしまうあたりドクターシノブは世界でも有数の厄介な人間なのかもしれないと思った。
ものすごくアホではあるけれど。
 




