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魔法少女、消える1

「待て、三科ヒカリ! せめて説明しろ!!」


 いきなり走り出した私を追いかけながらドクターシノブは怒鳴った。

 それに返事をする前にスマホで着信履歴を探す。


「圏外になってる」

電波妨害(ジャミング)してるに決まってるだろうが! 電話ならこれを使え!」


 ドクターシノブが自分のリストウォッチを私に投げた。受け取って番号を入力すると、スピーカーから呼び出し音が聞こえ始めた。数秒ですら焦れったく感じる。


『……はい、もしもし』

「唯川さんですか? 三科です」

『あら? ヒカリちゃんなの?』

「突然すみません、お伺いしたいことがあるのですが」


 通路を区切るドアを開ける間さえもどかしい。無言で解錠してくれるドクターシノブの視線を感じながら、私はリストウォッチに視線を落とした。


「みるるちゃん、いつまで合宿に行く予定なんですか」

『合宿のこと? まず1週間くらい様子見で参加して、成績によっては延びてもっと指導が受けられるかもしれないんですって』

「それは本人から聞いた話ですか?」

『そうなの。分厚いパンフレットももらったけど、合宿所の先生の方からも連絡頂いてね』

「荷造りしてましたか?」

『ええ、着替えのジャージとか……でもシャンプーなんかは基本的に向こうで用意してあるし、私服もいらないって』

「みるるちゃん、出かける前に何か言ってましたか?」

『何かって? いきなりのことだったから、バタバタしてたけど……そうねえ、行ったらもっと強くなれるから頑張ってくる、って。ヒカリちゃん? なんだか忙しそうだけど大丈夫なの?』


 階段を上る音を聞きつけたのか、唯川さんは訝しげに訊いた。走っているせいで弾みそうになる声を落ち着けて、出来るだけいつも通りに声を出す。


「すみません、校舎を移動中で。次の課題をどうしようかなって気になっただけなんです」

『そうだったの、ごめんなさいねこっちの都合で休んじゃって……もしお給料があれだったら、いつも通り払って帰ってきてから日程を』

「お金のことは大丈夫です。じゃあこれから講義なので、また連絡しますね」

『ええ、じゃあまたね、お勉強頑張ってね』


 通話を終了するのと同時に開いた扉からエレベーターに乗り込む。使い終わったリストウォッチを受け取りながら、ドクターシノブが口を開いた。


「……唯川みるるが研究所に捕らわれていると?」

「というより、自主的に行ったんじゃないかと」


 従業員通路を足早に通り過ぎて、フロアへと出る。そのまま出口へと向かうと、ドクターシノブが私の手首を掴んだ。


「待て、どこに行く。車を用意させるから乗れ」

「待つのが惜しいので歩いて行きます」

「まさかこのまま乗り込むつもりではないだろうな?」


 駅ビルを出て走り出した私を追ってドクターシノブが叫んだ。


「その前に確かめたいことがあります」


 夕方の駅前は人通りが多くなっていた。広場になっているところで立ち止まり、周囲を見回す。

 しばらく人の顔を確認しながら探して、店舗の陰に佇んでいるその人を見つけた。


 足早に近付くと、人混みから隠れるように立って端末を使い小声で会話をしていたその人が慌てて顔を上げた。まっすぐ歩きながら目を合わせると焦ったように周囲に顔を向けながら一歩下がる。


 震えた手で皺くちゃのハンカチを取り出したその人に私は声を掛けた。






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