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悪の組織、暗躍する8

 とりあえず荷物を置きに帰るがいい、と言われたので一旦自宅へ帰る。ドクターシノブは隣についてくるのではなく、下の元・素図来さん宅のところへ入ったようだった。この距離ならどちらにしろ監視にバレているだろうし、わざわざ別行動する必要はあるのだろうか。


「札束、ただいま」

「ヒカリサン、オカエリナサーイ! 今日ハ何ヲ食ベタイデスカ?」

「お肉の気分だけど、今日は夕食いつになるかわからないかも」

「オーゥ……ヒカリサン、札束ハ時短料理モデキマス。帰ッテカラ、手早ク食ベラレマスカラ」

「ありがとう札束。今日のお菓子も美味しかったよ」


 健気なことを言う機械を撫でてから、通学用の鞄をしまう。出掛けるのであれば鞄に財布とスマホを入れ替えるくらいで他にやることがない。

 ドクターシノブは準備ができたら隣へ顔を出せと言っていたけれど、なかなかその気にはなれない。


「ヒカリサン、オ疲レデシタラオ茶休憩ハドウデスカ? 紅茶ヲ淹レテイル間ニ簡単クッキーヲ焼キマス」

「いいね、材料教えて」

「いいわけあるかっ!!」


 いきなりドクターシノブが壁に作られたドアから乱入してきた。


「札束ァッ!! 貴様、三科ヒカリを呼ぶよう指示しただろう! 機械なら命令を忠実にこなせ!」

「申シ訳アリマセンドクター、私ノ一番ハヒカリサンナノデ、ヒカリサンノ気持チガ最優先事項ナノデス」

「リセットされたいのか!!」

「なんて酷いこと言うんですかドクターシノブ。札束はこんなにかわいいのに……」

「ヒカリサン、札束ガ消エテモ忘レナイデクダサイ。アナタヲ好キダッタ機械ガイタコトヲ」


 いくら製作者だからって、そんな横暴なことは許されない。

 ランプをゆっくり明滅させる札束をかばうと、ドクターシノブがブルブルと拳を震わせながら怒鳴った。


「いいからさっさと靴を履いて車に乗れッ!!」


 防音を施していても外に漏れていそうな音量である。ビシッと玄関を指したドクターシノブは、肩を怒らせながらまた壁のドアから姿を消した。これ以上札束に被害が出ると嫌なので私は渋々立ち上がる。


「じゃあ行ってくるね」

「行ッテラッシャーイ! 気ヲツケテ!」


 施錠して外階段を降りる。監視の視線を受けつつ黒い高級車の後部座席を覗くと、既にドクターシノブが腕を組み座っていた。


「お待たせしました」

「発進しろ」


 まだイライラしてそうな様子なので、仕方なくおやつのキャラメルを分けることにする。クッキングシートで雑に包んだそれは、冷蔵庫に入れてあったので少し固いけれど食べている内に柔らかくなるだろう。


「これは……貴様が?」

「いえ、もちろん札束が作りました。切って包んだのは私ですけど」

「……」


 無言で口に入れたドクターシノブだけれど、口を動かしながらやや唸ったので美味しかったのだろう。メイクミー・カステラでも商品として出せそうなクオリティなので仕方がない。札束については頼まれても貸出したくないけど。


 美味しいものは機嫌を上向きにする。それは秘密結社のトップにも通じる法則だったようで、それからドクターシノブは普段通りの態度で講義の内容についてなどを話し始めた。

 しかしその会話もすぐに終わる。車の目的地は意外と近く、最寄り駅に作られたオープンしたばかりの駅ビル駐車場へと入ったのである。


「ここで降りるんですか?」

「ここも我々の活動拠点の一つだからな。もちろん、爆発物を持ち込ませるようなヤワな警備はしていないし、ちょっとやそっとで壊れるビルでもない」


 私がSジェネラルのアジトにいた間にも爆破事件が起こっていたけれど、連続する事件のおかげで建物は立ち入りする人間に対しての警備を厳しくしやすくなっている。元からセキュリティの厳しいSジェネラルはちょっとした揮発物でも厳しく制限しているようだ。化粧品や酒類についてはどう分類しているのか少し気になった。


「ここにいるんですか?」

「気になるか?」

「……別に」


 女性客で混雑しているビルのフロアを歩きながら訊くと、ドクターシノブが少し笑いながらこちらを見下ろしてきた。視線をフロアの客へとそらしながら答えると、背中にそっと手が添えられる。声が耳元まで下りてきて囁いた。


「この角だ。化粧室の先にある従業員専用通用口から中へと入るぞ」


 背が高く堂々としたスーツ姿のドクターシノブがエスコートしているように見えたのか、研究所の監視とは関係ない視線がいくつか向いているのを感じた。






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