悪の組織、暗躍する6
「慌てるな三科ヒカリ。手は打ってある」
私と同時に立ち上がったドクターシノブが、落ち着けと言うように手で促した。
「……手って?」
「貴様の家族は我々が預かっている」
人質宣言のように聞こえるけれど、ドクターシノブは私の家族の安全を既に確保しているようだ。ホッとして座ると、ノジマ情報管理官が「なーんだ」と声を上げた。
「わざわざ言いに来ることなかったっぽいなー。研究所と秘密結社どっちが安全かはわかんないけど」
「失礼なことを言うな。我々には倫理観がある」
「銀行強盗に言われてもなぁ……。ま、良かったねヒカリン。チップだけでもあれなのに、家族狙うとか流石になーって思ったからさ。オトモダチがしっかりしてるっぽくて安心したわ」
体を起こして立ち上がったノジマ情報管理官が、私の肩を軽く叩いた。
「じゃ、帰るわ」
「おい貴様、本当にそれだけを言いに来たのか。わざわざ身を危険に晒したようなものだぞ」
「あー、そのへんはまあ大丈夫。アリバイ作ってあるしこれ衣装デバイスだから」
沢山ついているピアスを引っ張りながらノジマ情報管理官が笑った。かなり目立つその外見は、魔法少女が個人情報保護のために行う「変身」と同じ精巧なハリボテらしい。
「いきなりヒカリンのコンパクトが機能停止になって連絡禁止ってわざわざ通告されてさ、理由も答えないって対応だから納得してない奴らもいる。表立っては何も出来ないけどまあ、それくらいは伝えとこうかと思って」
「プリンセスウィッチに未練がある人間は多いようだな」
「流石にストーカーするほどではないけどね」
「誰がストーカーだ!!」
ドクターシノブの声に怖い怖いと肩を竦めたノジマ情報管理官が、もう一度私の肩を叩く。
「まーなんつーか、頑張ってるのって割と周りの人間もわかるから。ヒカリンのいいとこは一人で何でも片付けちゃうとこだけど、応援してるやつもいるって覚えといてもいいと思う。具体的には何も出来ないからホント気持ちだけなんだけどさ」
でもまあそこそこ頼りがいのあるオトモダチがいるみたいだし、と笑って、ノジマ情報管理官は私の手を取り、勝手に握手をした。ドクターシノブがまた怒声を張り、それにひらひらと手を振って部屋から出ていってしまった。
「あんな軽率な奴が魔法少女と通信しているのか! 神経を疑う!」
「……ノジマさんは意外と有能な人ですよ」
手に握らされたカードを眺めながら、一応擁護しておく。数字の羅列だけが載るカードは全く意味がわからないけれど、何かのメッセージか連絡先なのかもしれない。白い紙に手書きで記されているだけのそれは雑に見えるけれど、わざわざくれたということが少し嬉しかった。
「それより、私の家族は大丈夫なんですか」
「ここで詳しくは言わんが保証する。少なくとも魔法少女がダースで集中攻撃してこない限り支障はない」
Sジェネラルは魔法少女を何度か退けた実績がある。ドクターシノブのことだから、プライドにかけて能力を高く見積もることはないだろう。
「会いに行くか?」
「……安全なら、それでいいです」
「素直ではないな」
ハッと笑ったドクターシノブがなんだか癪に障ったので、軽くつま先を蹴っておいた。
「どうした、魔法少女の攻撃にしては嫌に優しいではないか。まるでじゃれ合いのようだな!!」
「うるさいです」
「フハハ、悔しければ真剣にやってみろ! 真の能力を示してみるがいい!!」
蹴られるのが趣味なのだろうか。これ以上相手をして変に興奮されても困るので、私は反応せず食事の続きをすることにした。




