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元魔法少女は振り返らない  作者: 夏野 夜子
本編

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31/92

監視員、配置される2

 魔法少女の力は、いわば色んな超能力のようなものだ。物を動かしたり自分を動かしたりする念力サイコキネシスは基本的なもので、多くの魔法少女が持っている。危険から守ったり、相手に攻撃したりするためにはその力を訓練して自在に使えるようになることが重要だった。


 特に力の多い魔法少女は、その他にも能力がある場合もあった。

 私の場合は光能力フォトキネシスと呼ばれるもので、これは名前通り光を放つ能力である。なにもないところで光を放ったり、逆に明かりを消したりすることが出来る。少し疲れるけれど、光は熱を伴うこともできた。

 名前がヒカリだけに現役の頃はずいぶんからかわれたけれど、暗い廃墟を明るくしまくって怖さを軽減したり、喧嘩した相手のお尻を点滅させてホタルにしてみたりと色々使い勝手のいい能力だ。


 研究所の話は、現役時代でもタブーだった。今こうして掘り起こすことはより危険な行為といえるだろう。こうやって基地の中でその話をするとなると余計に。

 なのでとりあえず、監視の目を気にして気付かれにくい方法で訊いてみることにした。


「やー、お腹いっぱい。美味しかった。ごちそうさまでした」

「でしょ。ここ買い物には不便だけどご飯はすっごく美味しいのよね」


 自分の湯呑みにお茶を注ぐついでに、プリンセスキューティの湯呑みにも注ぐ。プリンセスキューティが湯気の立つ湯呑みを掴んで飲み始めたところで、私は力を使った。


 ケンキュウジョ アヤシイ ジョウホウ モトム


 モールス信号である。

 プリンセスキューティの湯呑みの中にほんの小さな明かりを明滅させて、私はメッセージを送った。


 マホウショウジョ キエルジケン バクハジケン ハンニン ナイブ?


 疲れる。モールス符号を思い出しながら打っていくのはとても疲れる。けれど、カメラやマイクに残りにくい方法で会話するにはこれが一番だった。

 黙ってお茶を飲むプリンセスキューティにならって、私も湯呑みを持ち上げる。すると、湯呑みが僅かに震え、長短の組み合わせが返ってきた。


 カカワルナ


 あっけなく終わったメッセージについて考えていると、プリンセスキューティが湯呑みを置いて立ち上がった。


「もうお腹いっぱいになったでしょ。そろそろ帰って」

「え?」

「相手してあげたいけど〜、私も忙しいの。プリンセスウィッチ、復帰して手伝ってくれる〜?」


 プリンセスキューティは私の方へ近寄り、腕を掴んで立ち上がらせる。鞄を持たせて背中を押しながら軽い口調で訊いてきた彼女は、しかし目は笑っていなかった。


「復帰はしない」

「じゃああなたも敵ね。私の休みを邪魔する奴はぶっとばしちゃうから」


 バイバイと手を振るプリンセスキューティに急かされるようにして、私は基地を後にした。

 停まっていた車に乗る。プリンセスキューティの顔を見返す時間もなく車両のガラスが不透明になり発車した。


 あなたも敵ね。

 冗談めかして言われた言葉だけれど、あれは冗談ではない気がする。


 爆破事件についてはそれまでの会話でやりとりしていた。つまり、研究所について訊いた途端に関わるなと話を切り上げたのである。研究所について探る相手は「敵」ということだろうか。魔法少女は敵味方に判別できるほど、研究所に近い場所にはいなかったはずだ。


 そこまで考えて、私は気付いた。

 黒塗りのタクシーを装った車両。乗ってきたときと同じ位置にあったから気付かなかったけれど、これは先程の車ではない。同じ内装だけれど違和感があった。

 匂い、座席や足元の感覚、そして勘。何が違うのだろうか、なぜ違うのだろうかと目立たないように周囲を見回して気付く。

 この車の運転席にいるのはロボットではない。人間だ。


 警戒した瞬間、後部座席のあちこちからガスが噴出した。






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