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監視員、配置される1

『ちょっとツラ貸せや』


 通話早々にアイドル系魔法少女とは思えないほどドスの効いた声を出したのはプリンセスキューティである。

 どうやら「プリンセスキューティにありがちなこと327」というスレッドに『8歳の頃に買ってもらったフリル付きイチゴパンツがお気に入り過ぎて擦り切れるまで履き、11歳で破れたときに号泣した』と書き込んだのがお気に召さなかったようだ。イチゴパンツの件は一緒に訓練を受けたチームメンバーしかしらないし、号泣した件は私しか知らない事実である。すぐに気付いたらしい。

 崇拝者集めに余念のないプリンセスキューティのことなので、自分のコミュは絶対にチェックをしていると思った。

 金曜の夜に書き込んで、今は土曜の5時半である。


「札束、ちょっと出掛けてくるね」

『オデカケデスカ。今日ノ夕食ハタンシチューノ予定ナノデ、早ク帰ッテキテクダサイ』

「遠そうだし、夕食、間に合うかなぁ……食べて帰るかもしれないから、準備はしないで行くね」

『オーウ』


 健気に早めの帰りを勧める札束をぽんぽん叩いてから、パーカーにジーンズの動きやすい格好でスニーカーを履いた。バッグは財布とスマホが入るくらいの一番小さいショルダータイプにする。

 最近、ちょくちょくドクターシノブが待ち構えていたりするのでちょっと身構えてドアを開けたけれど、流石にこんな早朝に待ち構えてはいないらしい。ホッとして大通りに出て、やってきたタクシーに乗り込んだ。


 そこからが長かった。

 車を乗り継ぎ、置かれていたチケットで新幹線に乗り、駅弁を食べながら数時間。降りてからまた車を乗り継いで、外の景色が見えない車でしばらく走る。追加の駅弁を買っていてよかった。紐を引っ張るタイプは温かいお弁当が食べられていいけれど、底が浅く量が少なめなのが残念である。

 お尻が痛くなったところでどこかの建物に入ったらしく、ようやく私は立ち上がることができた。


「うわ危な」

「喧嘩売るなら直接やって? 言い値で買うから」

「ごめんごめん」


 スマホの電源を切っていたので知らなかったけれど、あれからプリンセスキューティはスレッドに張り付きっぱなしだったらしい。プリンセスキューティの私生活を想像する些細なスレにちょっとした波乱を呼んでしまったようだ。理想のプリンセスキューティ像が崩れたと憤る者、意外にありえると信じ始める者、デマだと信じ込ませたいプリンセスキューティなどで大賑わいだったらしい。朝から元気なことである。


「ほんとに東北エリアにいたんだね。こっちでもデカい事件起きてるの?」

「どっちかというと教育メイン。こっちはお米が美味しいけど裏切り者は古米でも舐める?」

「申し訳ありませんでした」


 口ではそう言っていてもプリンセスキューティはなんだかんだ言って優しい。私が誠心誠意謝ると、炊きたてご飯と海の幸が豊富な食事を用意してくれた。駅弁を控え目にしてよかった。

 大きなおひつをそれぞれ確保して頻繁にお代わりをしながら、私とプリンセスキューティは向かい合って昼食を平らげる。


「で、わざわざ何の用なの? 交通費かかってんだからつまんない内容ならその辺に放り出しちゃうわよ」

「んー、最近爆破事件続いてるの、どうなってんのかなと思って」

「あぁアレね。ヒカリン手出したでしょ。ノジマちゃんが復帰してほしがってたよ」

「いや、しないから。流れで手伝う羽目になっただけだから」

「あんだけ嫌がって辞めたヒカリンが能力使うとはねぇ。ヒカリンって意外と彼氏色に染まるタイプだったんだね」

「誰が彼氏なのか」


 立ち上がって、向こう側のおひつからしゃもじでご飯を一杯分奪う。同時に自分のおひつを守ることも忘れない。ツヤツヤでしっかり粒の立っているご飯を噛みしめると、プリンセスキューティが恨めしそうな顔をした。前はよくこうやってご飯の取り合いをしたものだ。あの頃は子供だったのでお互いに容赦なく能力を使い合い、周囲をめちゃくちゃにして二人で怒られたっけ。


「なんかねー。捜査が難航してるっぽいよー? 痕跡がわかりにくくてどうとか」

「へえ」

「あとその辺の担当チームの1人か2人が今離脱中でねー。戦力不足もあって犯人特定には至ってないみたいね」


 危険な連続事件の最中は魔法少女たちがさり気なく見回っていることも多い。魔法少女は能力を使わなければ見た目は普通の少女で、そして少女は犯罪のターゲットにもしやすい。自ら囮になることによって事件の早期解決を目指すこともあるのだった。

 大人数で練り歩けば目をつけられる。急な出動に備えて少人数で待機の傍ら街の不審者を探るというのも中々大変なことだ。メンバーが減っていれば尚更。

 そしてドクターシノブの言う通り、全国的に魔法少女が減っているというのは本当らしい。


「だからもー忙しくて忙しくて。ヒカリン復帰するなら助かるんだけど」

「しない」

「ケチ」


 今度は私がご飯を一杯分取られた。油断していた気持ちを戒める。

 お互いに食器を全て綺麗にしてから、デザートのモナカを食べつつ話を続ける。口では爆破事件のことを世間話程度に話しながら、私は本題に入ることにした。






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