ファン、活動する6
協力とはいうけれど、私は既に引退した身だ。自分から基地に行ってこそこそ探ることはできない。情報官とは連絡が取れるけれど、探りたい内容が内容だけに通信傍受もちょっと心配だった。
出来れば完全に白だとわかっている相手に相談したい。
なので、プリンセスキューティとコンタクトを図り、向こうから呼んでもらうことにした。こちらからコンタクト出来ないのが不便である。
「みるるちゃん、プリンセスキューティも詳しいの? どの辺に現れるか知ってる?」
「えっせんせープリキュー推しだったんですか!! ラブミラ推しだって信じてたのに!!」
「プリ……? ラブミ? 何?」
「ひどいひどい!」
ポカポカ軽く叩いてくるみるるちゃんの拳、意外に重たい。体操部なので筋肉がついているのだろう。別に推しではないということを説明すると、みるるちゃんが色々と説明してくれた。
「本来は魔法少女ってエリアに分かれて出動してるんですけど、プリンセスキューティはヤバいレベルの人だしチームは解散しちゃってるんで全国あちこち助っ人に行ってるん……って噂で」
ヤバいのか、プリンセスキューティ。ちょっとうける。
「大きな事件が連続するとそのエリアに来ることが多いけど、今は何でだか東北エリアにいる……という噂です!」
「東北か……遠いね」
「ねえ〜。普通の魔法少女はそれぞれのエリアにチーム担の有志が集まって、目撃情報まとめとか作って予測してたりするんですけど、プリキューさんは出没範囲広い分予測が難しいみたいですねー」
「ファン、凄いね。捕まったりしないの?」
「一般人の前に出た出来事そのものは機密じゃないし、予測もみんながテキトーに言ってるだけなんでセーフです! でも良くないファンの中には『投げ訊き』って呼ばれてる、出動中の魔法少女に直接質問する行為をする人とかいて、個人の特定に繋がりそうな質問したりあんまりしつこいと連行されちゃうみたいです」
法のスレスレを狙ってまで追っかけるファンの精神がすごい。
みるるちゃんは魔法少女ファンの一員として一部による悪質行為に憤っているものの、現役の魔法少女を生で応援できる感動については羨ましいと思っているようだ。みるるちゃんの推しはもう引退しているので、ファン活動にも限りがあるのだろう。それにしてはグッズを集めすぎている気がするけれど。
プリンセスキューティは専業魔法少女である。学校などに通いながら出動している他の魔法少女とは違い、出動していないときは能力のある少女を養成する仕事に就いているので、地域に縛られることなく活動できるのだろう。
「でも、最近この辺でも危ない事件多いよね? プリンセスキューティは来ないのかな?」
「そこですよねー。なんか応援要請してるんですけど、何でかこっちに来る指示が出されてないみたいで〜、東北ってこの半年大きい事件も特にないのに変だな〜ってみんなで困って……みんなでね! ファンのみんなで困ってるんです!!」
「そうなんだ」
魔法少女の話になると、みるるちゃんのお茶消費量が跳ね上がる。1リットルの保温ポットが空になりそうだ。興奮していっぱい喋るので喉が渇くのかもしれない。
「プリンセスウィッチについては何か情報あるの?」
「ないですってか私が欲しいくらいですよその情報ー!! あの能力跡ぜーったいプリンセスウィッチなのに! なんで復帰してくれなんですか!! てかプリンセスウィッチが復帰しない理由が悪の組織に入ったからとか陰謀説流れててすごいイヤなのー!!」
「それはイヤだね」
その陰謀説、ドクターシノブが流したのではあるまいな。後で締め上げるべきか。
復帰したプリンセスウィッチに握手してもらえたら死んでもいいなどと言っている過激派ファンのみるるちゃんをなだめながら、私は合意した後変に浮かれていた眼鏡を思い浮かべた。
「プリンセスウィッチが復帰したらー、連続爆破事件だってすぐ解決しちゃうと思うなー。だってスゴイんだもん。他の魔法少女じゃできないことだってできたし……」
「今の魔法少女だって頑張ってるんじゃないかな。爆破事件だって死者は出てないし」
「そーなんですけど……すごい人に励ましてもらえたら、もっと頑張れるかなって思ったんです」
お母さん情報によると、最近のみるるちゃんは色んなことを頑張ってるらしい。部活はもちろん、勉強も間違っているところが多いとはいえ宿題もきちんとこなしているし、家の手伝いや早寝早起きなども努力しているらしい。普段のみるるちゃんが割とのんびり屋だっただけに、「頑張らなきゃ」が口癖になってちょっと心配だとお母さんが言っていた。
「そんなに急いで頑張らなくてもいいんじゃないかな。少しずつでもやれることが増えたら凄いことだと思う」
「そんなんじゃダメなの。頑張ったらもっと出来るし、もっと出来たら、後悔することも少なくなるから」
悩めるみるるちゃんは、みるるちゃんなりに何か乗り越えようとしているのかもしれない。素直にこうやって頑張っちゃうみるるちゃんの真っ直ぐな性格が好ましかった。
「こんなことみるるちゃんに言う時が来るとは思ってなかったけど、勉強もやりすぎないでね。今のペースで頑張っていけば、内部進学も外部受験もどっちも余裕だから」
「うん! あのね、ちゃんと息抜きもしてるよ! 最近はプリンセスウィッチファンで復帰を祈って毎晩百回プリンセスウィッチを褒めるっていうのが流行っててね」
「その努力は捨てなさい」
怖い。普通に。
現役の頃は意識したこともなかったけれど、プリンセスウィッチのファンってかなり変わっているのではないだろうか。もうちょっとまともなファンがいいと不覚にも思ってしまった。
「この辺でプリキューさんのこと調べるなら、出動捜索してるファンに訊くとわかりやすいかもですね。なんか近くに魔法少女全般を追っかけしてる有名な人がいるとか……あとはこういうコミュで質問するとか」
呪術めいた行為を止める私に首を振りながらも、みるるちゃんはプリンセスキューティのファンコミュニティを教えてくれた。そこで目撃情報や好みなどが探れるらしい。
アクセスしてみると、人数が多く様々な情報が飛び交っている。ファン獲得に余念がないプリンセスキューティは魔法少女としても自己アピールが多い方らしく、趣味や休日の過ごし方まであれこれ話し合われていた。かなり特徴的な文体を使っていて濃厚な雰囲気が漂っているけれど、情報が大体合っているあたりすごい。
私はそのコミュを調べつつ、プリンセスキューティに遭遇する方法を考えることにした。




