ファン、活動する2
2時間枠の半分を、みるるちゃんの魔法少女プリンセスウィッチ講座に費やされてしまった。
前半1時間ではなく、後半である。「今日の教科を全部完璧にこなしたら聞いてあげる」と言ったら、今までにない集中力を発揮したのだ。いつもこれくらい優秀でいてほしいけれど、頑張り過ぎたみるるちゃんが鼻血を出したので普段通りくらいがいいのかもしれない。
「でね、プリンセスウィッチが所属していたチームはね、初期戦闘衣装と中期アイドルデザイン衣装、後期アイドルデザイン衣装と時代で衣装が違うっていうレア世代でね、あ、今の魔法少女は常に2種類の衣装がきられるんだけど、その頃はね」
めっちゃ詳しい。正直、私のぼんやりした記憶よりもかなり正確な情報を持っている。
歴史が苦手でいつも半泣きなみるるちゃんとは思えないほど、詳細に年月日と出来事を語っている。みるるちゃんの魔法少女に傾ける情熱は本物だ。そのうち鉢巻とかTシャツとか着そう。
「それでね、35年の反政府抗議軍ラパラチアンの爆破事件でプリンセスウィッチがやった爆発物処理の手法が、今回の現場とそっくりなの!! すっごく似てるの!」
「よく知ってるね。爆破事件の写真なんて普通見れなさそうなのに」
「えっ?! う、うん、ほら、私マニアだからそういうのに詳しいんだよねえ。事件のね、写真とかはほら……ネットでね! ネットで見た!」
ヒュへへと笑ったみるるちゃんが、マシンガントークをようやく途切れさせてお茶を一気飲みした。
ネットでの情報流出が問題になっている昨今とはいえ、事件現場の写真が流出しているとなると結構やばい気がする。けれどドクターシノブのような謎の情報網を持つ秘密結社もあるわけだし、並々ならぬ情熱を持つ魔法少女オタクが事件現場の写真を撮っていても不思議ではない。
みるるちゃんによると、ネットの魔法少女ファンの間ではプリンセスウィッチ復活説がにわかに湧き上がってしまっているらしい。よくわからないけど、「酒を片手に初期魔法少女を懐かしむスレPart.423」というサイトではお祭り状態になっているそうだ。
ほっとけばそのうち沈静化するとは思ったけれど、これは意外に時間がかかるかもしれない。
「そういえばヒカリちゃんせんせー、あの爆破未遂事件があったとき例のビルの近くにいたよね? 何やってたの?」
「えっ」
「男の人といたよね? デートしてたの? ねえデート?」
まさか見られていたとは。
しかもドクターシノブと一緒にいるところを。
一生の不覚。
「そうだっけ……何してたっけな」
「なんか車に乗ってたでしょ? 運転手付きってことは彼氏お金持ちなの? イケメン?」
「彼氏じゃないから。全然違うから」
「いきなりマジな顔になった」
ビルにいたのを見られていないだけありがたいけれど、秘密結社の男と懇意にしているなどと思われたらたまらない。就活に響くし、家庭教師のバイトもクビになりかねない。
今度会ったらさり気なく他人のふりをしよう。
「ねえねえどういう関係の人? デートだったんじゃないの?」
「違う。あの……ほら、大学の講義でたまたま一緒になっただけの人。たまたま授業のことで話すことになってたまたまあの日しか空いてなかっただけだから」
「せんせーたまたま言い過ぎ」
「そういうみるるちゃんはあの時どこにいたの? 部活は?」
「わっ私?! えぇっとねえ、ぶ、部活はちょうどたまたま休憩中で! たまたまオヤツ買いに出かけたら! たまたまそこを通りがかったー……みたいな……」
「たまたま言い過ぎ」
「たっ、たまたまといえばね、昨日の小テストで80点取れたんだよ! すごいでしょ!」
「それもたまたまなんだ……」
ぼんやりと曖昧に話し、ふんわりと話題が変わる。なんとか誤魔化せたようだ。
私がプリンセスウィッチだってバレたら、みるるちゃんは嬉しさで卒倒してしまうか、ガッカリで気絶してしまうか、とりあえず精神がブレブレになってしまうだろう。確実に勉強に身が入らなくなってしまう。受験を控えているのにそれはいけない。そもそも一般人にバレると素性を調べ上げたり監視がついたりとろくなことにならないので、お互いのためにも隠しておいたほうが良さそうだ。
このあとみるるちゃんのお母さんが呼びに来るまで魔法少女の話を聞いて、私は唯川家を後にした。
ドクターシノブと再び会ったのは、次の日の講義でのことである。




