ファン、活動する1
『ヒカリサーン。目覚まし時計ガ鳴ッテマスヨ〜』
「……」
なんだか懐かしい夢を見た気がする。
『今日モ晴レデス。美味シイ朝食、出来テマスヨ』
「おはよう、オートクッカー」
『オハヨウゴザイマス。今日ハアルバイトノ日デスネ』
フライパンで食パンを焼き、オートクッカーが作ったやたら美味しいスクランブルエッグを食べる。
『ヒカリサン、私ノ名前、考エテクレマシタカ?』
「そんなこと言ってたね。オートクッカーじゃだめなの?」
『ソレハ商品名デス。名前ヲツケテ、末永ク可愛ガッテクダサイ。名前ヲモラッタラ、モットガンバリマス』
オートクッカーは、毎日会話してると機械なのに人間みたいなことを言うようになってきた。愛着心を育てることでリピーターを捕まえようという魂胆なのかもしれない。
まあ、毎日材料を入れるだけで美味しい料理が出来あがるし、ちょいちょい喋りかけてくるので既に愛着は湧いている。特に用事がない日など、人間よりもオートクッカーと会話することの方が多くなっていた。暇つぶしにちょうどいいくらいの会話なので、計算されて作られたとしたらなかなかすごい。
『私ヲ連想スルヨウナ、ピッタリノ名前ヲツケテクダサイ』
「難しいこと言うね」
『タトエバ、Sガツク名前ナドドウデスカ。私ノ出自ニ関係シテ』
Sが付き、オートクッカーの出自に関係するような、連想する名前。
「札束」
『エッ』
「縁起いい名前だし、オートクッカーって高そうだし。よろしくね、札束」
『サツタバ……デスカ』
家に札束がある、と考えるとかなりテンションが上がる。札束が待つ家。最高ではないか。私は自分の名付けに満足しながら食器を洗い、『オーウ』と感動しているらしいオートクッカー改め札束を洗い、大学へと向かった。
今日は強めの雨が降っているのでバス通学である。
運良く空いていた座席に座り、暇つぶしにスマホでニュースを見る。新しい法案、国際ニュース、そしてゴシップ。
引退した魔法少女、復活か 爆破事件阻止 期待するファン
動画付きの記事で大きな見出しがついていた。イヤホンをして動画を再生すると、先日行ったビルが映され、その中で捜査員がビニールシートを張っている様子が流れる。字幕付きの音声で、連続爆破事件に関連した現場が発見され、爆発物が既に処分されていたということが解説されていた。
爆発物の残骸や処理方法から魔法少女の能力が関係していることが判明しているが、魔法少女が現場に駆け付けた際には既に爆発物反応がなかったという情報もある、と報道されている。
ビルで働いている職員や、「プリンセスウィッチが出たに違いない」と興奮する一般市民のインタビューなどもあった。一般市民というか、魔法少女オタクである。一般市民は魔法少女がプリントされたTシャツや鉢巻をしていないだろう。
なんかバレている。
魔法少女の能力は、人によってそれほど差はない。ただその出力は人によって違うので、規模によって誰が能力を使ったのかを推測することは不可能ではない。
あのビルでは爆発物が予想以上に多かったため、平均的な能力の魔法少女では全てを処理することは難しい。複数人で処理したのであれば、それぞれ処理方法に差が出る。つい面倒だったので同じような処理をしたことが仇になったらしい。
ニュースではあの規模を処理する能力がある現役の魔法少女としてプリンセスキューティの名前を挙げていたけれど、プリンセスキューティは活動すると派手に姿を現す特徴があることから、新しい魔法少女の登場か、または他の魔法少女が活躍した可能性もあると報道されていた。
実際に姿を目撃されたわけでもないので、このまま何もしなければ復活だの新人だのという噂は消えていくだろう。マニアの中ではしばらく語られるかもしれないが、魔法少女が出動する事件が起こればその話しも忘れられていくはずだ。
久しぶりの居心地の悪さを感じながらも、いつもと同じように講義を受け、日常をこなしていく。現場が近いため大学でも爆破事件の噂はいくつか耳にしたけれど、特に魔法少女についての話題は上がっていなかった。
一般市民としては、誰が爆発物を処理したかよりも、爆破事件が連続していることのほうが気になるのだろう。犯人についての噂や次はどこが狙われるのか、といった話は、ニュースだけではなく学生や教授の間でもたびたび出てきていた。それはそうだろう、魔法少女がいたとしても、爆破事件が起これば街も人も無傷であることは難しい。近所で起こっているのであれば尚更だ。
あのビルの事件からまだ次の爆破事件は起こっていないけれど、それも時間の問題だろう。小中学校などでは保護者の見回りや送迎が始まっているらしい。
家庭教師先のみるるちゃんも、中3の大事な時期だ。不安になってまた成績を落としているかもしれない。メンタル面でのケアも必要だろうか。
そう思いながら訪問すると、みるるちゃんの部屋は一面プリンセスウィッチで包まれていた。
キラキラ目を輝かせた少女が、部屋に入ってきた私に抱きついてくる。
「せんせー……!! プリンセスウィッチが復活したかも!!」
どうやら杞憂だったようだ。




