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理由、明かされる1

「貴様と私が初めて戦ったのは、貴様が魔法少女として活躍し始めてから半年にさしかかる頃だったな……」


 いや、知らないけど。

 全く覚えていないのでドクターシノブのしんみりした切り出しが事実かどうかもわからないまま、私は湯呑みを啜りながらとりあえず頷いた。


「今、覚えていないと思っただろう」


 バレていた。

 頷くと、深々と溜息を吐かれた。わざとらしくメガネを外して目を揉んでいるが、エプロンをしたままなので家事に疲れたお母さんくらいの印象しか浮かばない。

 私が空になった湯呑みにお茶のおかわりを注いでいると、ドクターシノブはまた溜息を吐きながら腕を僅かに伸ばして腕時計を露出させ、文字盤を何度かタップしてテーブルの上に光を照射した。


 A4サイズに照射されたそれは、『魔法少女プリンセスウィッチについての活動報告』と題されている。

 ドクターシノブが目で促してくるので照射された書類をスワイプすると、出動日時、場所、事件などをまとめた細かな年表、そして各事件においての活躍を詳しく説明したページが続いている。


「うわぁ……」

「言っておくが、画像はわが組織で撮影したものだけではないからな。市民によって撮影されネットに上げられたものも入っている」

「うわぁ……」


 昔の自分がひらひらの服を着て活動している様を、こうやって詳しく写真にまとめられると気持ち悪い。

 私が現役魔法少女として活躍していたのは、小5から中3までの約5年間である。こう、思春期前からの写真を執拗に集めているさまを見ると、改めてドクターシノブの少女性愛……もとい偏執性が強調されていて本当に気持ち悪い。


「やめろ、そんな目で見るな! 言っておくが出会った当時、私はまだ15の少年だったんだぞ!!」

「えっ?!」


 ということは、つまり、ドクターシノブは現在24歳。


「えっ? 24?!」

「なぜそんなに驚く」

「老け顔ですねぇ……」

「大人びていると言え!!」


 年齢を感じさせにくい顔というか、冷たい印象のあるメガネ顔なので確実に30はいっていると思っていた。意外に若い。


「24とか、人生まだまだこれからじゃないですか。ちゃんと就職したほうがいいですよ」

「貴様、私の総資産を見て気絶したいようだな」

「そもそも15の頃から魔法少女の追っかけって……不登校生徒だったんですか」

「その悲しいものと気持ちの悪いものと哀れなものを見る目をやめろ。私は海外で教育を受け、スキップを重ねてこの頃既に博士号を取っていた。Sジェネラルと並行してダミー会社も複数作り上げていた立派な社会人だぞ。不登校でゲームと漫画とアイドルに逃げていたなどと偏見に満ちた誤解はやめてもらおう」

「別にそこまでは言ってませんけど」


 意外に秀才である。いや、マスクとかクッカーとか地味に凄い発明をしている辺り、本物の天才なのかもしれない。天才って結構ヤバい人が多いというし、ドクターシノブの不審な挙動もそのせいだろう。

 会社というか秘密結社を立ち上げた後も自己研鑽を怠らず、今は3つの博士号と2つの修士号、5つの学士号を取っているらしい。勉強家である。ちなみに一番最近勉強したのが美術だそうだ。製品の機能性とデザインについて興味を持ったとあれこれ話していた。あんまり興味はないので聞き流した。

 デッサンの奥深さはどうでもいいけど、ドクターシノブの現職には興味がある。


「なんでそんな忙しそうなのに魔法少女の追っかけしてるんですか? 好きなんですか?」

「追っかけではない、研究だ」

「魔法少女のことなんて民間で調べたら違法ですよ。犯罪に手を染めなくても順調に生きていけそうなのに、なんでわざわざ秘密結社を?」

「……貴様はどうなんだ」


 質問を質問で返された。

 ドクターシノブはテーブルの向こうから照射した書類をめくり、グラフデータのある場所を映し出す。


「魔法少女の任期はおよそ5〜8年、引退時期は平均して18歳頃。その誰もがその能力が不安定、または弱くなる減退期に入ったために姿を消している」


 魔法少女ごとにまとめられた、発揮された能力の種類、現行物理学に当てはめたエネルギーの強さ。それは魔法少女として活躍して2年経った頃にピークを迎え、そこから緩やかに減少し、最後の年には大きく減少している。同じようなグラフが並ぶ中で、赤色で書かれた「プリンセスウィッチ」の項目だけはその形から外れていた。


「三科ヒカリことプリンセスウィッチ、貴様は群を抜いた実力を持ち、そして引退した15歳になってもその能力は成長を止めていなかった。なのに何故引退した」


 貴様は何のために魔法少女になり、何のために辞めたのか。


 真っ直ぐ射抜くドクターシノブの目を見つめる。その目には強い意志が宿っていて、同時に答えを渇望しているようにも見えた。

 辞めるときに、特殊防衛省のお役人にも、情報本部にも、同じ魔法少女にも問われたことだ。目を瞑ると、今でもあの光景が浮かぶ。旧友と再会したからか、それらの光景がいつもよりも鮮明な気がした。


 目を開け、動かずに答えを待っているドクターシノブを見つめる。


『ほくほく肉じゃがガ出来上ガリマシタ♪ ドーゾ、召シ上ガレ〜! 冷メテモ美味シイデスヨ!』


 オートクッカーが楽しげな音を立てた。






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