表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔法少女は振り返らない  作者: 夏野 夜子
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/92

元同僚魔法少女、ほくそ笑む2

 プリンセスキューティがくわっと怒ると美人な猫の威嚇みたいになる。私は素早く出来上がったお肉を奴の器へと供した。甘辛いタレと卵のまろやかな味わいに包まれたお肉を噛み締めている内に、じわじわと怒りを収めてくれたらしい。やっぱり人生には肉が必要不可欠だ。


「で? 殺した?」

「いや、殺してはないかな」

「どうすんの?」


 魔法少女は、普通の人間が重機や武器、様々な科学技術を持ってなし得るほどの技術をその身ひとつで成し遂げる。それ故にその技術や命を狙われやすい。基本的に事態の沈静化を使命とされているが、魔法少女は相手に素性を知られた時に限り、その相手の口を封じることを非公式に許可されていた。旧法では家族もその素性を知っているため、魔法少女を擁する一家全員が狙われる可能性があったからである。


 とはいえ、実際に素性を知っているドクターシノブが、何故その情報を使って私を脅さなかったのか。そもそも何故今になって接触を図ってきたのか。その目的は定かではない。

 私にホイップカステラを食べさせたあの夜、私の意識を奪い秘密結社のアジトへと連れ去る隙が5回はあった。どうしてそれをしなかったのか。


 ドクターシノブは自分の組織へと下るように言っているが、それを強制していない辺り、本当の目的は別のところにある気がする。


「ふぅん……」


 プリンセスキューティは、あらかた食べ終わった鍋に残った卵を溶き入れていく。野菜やお肉のダシが出まくった割り下を半熟の卵とじにしている間に、私は傍にあった小さなおひつからお茶碗ふたつにご飯を山盛りにした。

 レンゲを使って卵をご飯に載せつつ、山椒とネギを掛けて食べる。


「ま、いいわ」

「いいの?」

「知られちゃったのはしょうがない。私の話とかしたらヒカリンのことブッ殺すけど」

「しません」


 めちゃくちゃ可愛い外見だけれど、プリンセスキューティは当時のチームの中でも主力だった。可愛い見た目と武闘派であるというギャップが魔法少女ファンにはたまらないそうだ。1つ年上の私に武術を叩き込んだのも彼女である。


「自分のことは自分で出来るでしょ、ヒカリの力なら。まだ減退期来てないんでしょ?」

「たぶん」

「腹立つわー。復帰して手伝いなさいよ」

「それは嫌」


 チッと舌打ちしたプリンセスキューティが、残っていた卵とじを全て攫ってしまった。悲しい。


「聞いてると今のとこ明確に危害を加えそうにはないしねえ〜」

「うん」

「てか奢ってくれるって優しくない? あたしもホイップカステラ食べに行こっかな〜」

「美味しかったよ」

「ほんとこの仕事出会いないからな〜ヒカリンが羨ましい」


 悪の秘密結社との出会いが羨ましいのだろうか。仕事がらプリンセスキューティの方が遭遇している気がするけれど。

 そう訊くと、プリンセスキューティが笑顔でスネを蹴ってきた。痛い。


「まーぶっちゃけうちも最近人手不足だからさー。こっちでも調べとくけど。変なことしないよう、むしろヒカリンが見張っててよね」

「人手不足って、情報本部の?」

「違う違う、出動できる魔法少女が今ちょっと減ってんの」


 魔法少女の出生率は、どの地域でもほぼ変わらない。能力値が低くて職業である魔法少女として働けない子もいるらしいが、大体毎年同じくらいの数の魔法少女が誕生し、そして引退している。

 体調や心理面でのケアを考えたとしても、余裕を持って待機できるほどの少女たちが登録されているはずだ。私が首をひねると、プリンセスキューティは肩を竦めて首を振った。


「能力が安定せずに検査入院する子が多くてね……まあ、愚痴ってもしょうがないけどさ。そんなんで私もちょくちょく出ていくこともあんの」

「大変だね」

「ほんとそれ。オツボネサマに現場任せんなって思う〜」


 プリンセスキューティは、魔法少女の任期としては最年長記録を持っている。大体が4〜5年で辞めざるを得ないのに、8歳で入隊してから10年も魔法少女として活躍しているのだ。世界的に見ても珍しい存在である。

 能力のせいで強制的に魔法少女にされるために労働意欲が湧かないという面々も多い中、自分から積極的に魔法少女の仕事をこなし、通信で学位も取りつつ多彩に活躍するプリンセスキューティは特殊防衛省としても手放したくない存在なのだろう。


「相変わらず凄いね」

「全盛期みたいにはいかないけどねぇ〜。まだまだ信者増やしたいし〜」


 さすが、自分の崇拝者を増やすことを生き甲斐にしているだけある。魔法少女に変身して孤児院に不足物を届けまくったり、出動の際にも一般人への愛想を欠かさない彼女の布教活動は未だ続いているようだった。



「白菜も持ってく? 丸々だから重いよ?」

「うん、全然いける。ありがとうミキリン。頑張ってね」

「ヒカリンもねえ〜また復帰したくなったらいつでも言って〜」

「それは絶対ないから安心して」

「情熱クンによろしくねぇ〜」


 二重にした紙袋にすき焼きで残った材料をお土産にくれたプリンセスキューティは、ひらひらと美しい笑顔を賑やかすように両手を振って見送ってくれた。情熱クンって、ドクターシノブのことだろうか。ちょっと面白い。

 いくら能力持ちが食欲旺盛だからって、一食で食べられないほどの材料を用意していてくれたのは、一人暮らしの私への気遣いもあったようだ。いつも半額シールが貼られた輸入肉しか買わないので、ありがたく貰っておく。


 久しぶりに、会えて楽しかった。


 行きとは違うルートを辿って車を何度か乗り換え、家まで送ってもらう最後のタクシーの中で私は目を瞑った。

 お腹もいっぱいになったし、元気そうな姿も見れた。何年も一緒に戦った仲間だ。普段一切連絡が取れず、ニュースで一方的に近況を知るくらいの関係だけれど、話すとあの日々が昨日のことのように思い出される。

 楽しいこともあった。それが目的でしていたわけではないけれど。


『目的地 に 到着しました』

「ありがとうございました」

『またのご利用をお待ちしております』


 機械音声に返事をして、お土産をしっかり抱えながら車から降りる。なんとなくその場で車を見送って、少し細い道を歩いてアパートへと帰る。

 チラシが好き勝手入れられているポストを空にして、頼りなく不便な階段を登る。一番奥にある自分の部屋まで真っ直ぐ続く通路を見上げると、奥の扉の前でしゃがみ込んでいる男がいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ