5話
なぜ空はこんなにも晴れ晴れとしているのに、俺の心はどんよりしているのだろう。
その原因は今横でパクパクと弁当を食べているやつ。なんで俺はこいつと一緒にせっかくのお昼を食べているんだ。
「ん〜美味しい」
先ほどの虫事件なんてなかったかのように弁当を笑顔で頬張る彼女。ちらっとその弁当を覗き見ると、真ん中にでっかくキャラクターが作られたとても可愛らしいキャラ弁だった。
別に人の趣向にあれこれ言うつもりはないが、高校生にもなってキャラ弁というのはどうなのだろうかと少しだけ疑問に思ってしまう。
「ん?あっ、もしかして私の欲しくなったんだ?あげないよー」
目線に気づいた彼女はさっと弁当を俺から隠すようにして、なぜか自慢気な顔をしている。
こいつ俺がじっと見ていたことで勝手に食べたいと勘違いしやがった。
「別に欲しくないんだけどな」
「そうやって強がるの良くないよ!…まあ、どうしてもっていうなら一口考えてあげてもいいけど」
「いらん」
ぶっきらぼうに答える俺に、彼女は先ほどとは打って変わって悲し気な表情を見せる。
いやその顔はずるくないか?これじゃあまるで俺が悪者みたいじゃないか。
「…せっかくさっきのお礼に一口ぐらいならあげてもいいかなって思ったのに」
「何か言ったか?」
「何も言ってない!!」
「別にお礼なんて気にしなくていいぞ」
「ばっ!聞こえてるじゃん!そっそんなことよりその靴の色1年生でしょ?あなたどこのクラス?」
真っ赤になった後、話を晒すようにそう言う彼女の靴の色を見ると、俺と同じ赤色。どうやら彼女も同じ1年生だったらしい。
「1組」
「私は2組、隣のクラスだったんだ」
2組と言うことは咲綾と同じクラスである。もののついでだし、こいつにそれとなく咲綾のことを聞いて見てもいいかもしれないな。
「朝、騒がしかったみたいだな。そっちのクラス」
「そうなんだよ!うちのクラスの御手洗さんがすっごく可愛くなってたの。私もびっくりして最初誰かと思っちゃった」
「へぇ、仲いいのか?」
「うぇ!?いっいや仲はまあ…そんなに」
テンション高めに話し出したと思ったら、一気にしょぼくれたような顔になる彼女、心なしかツインテールも力を無くしたように見える。どうやら地雷を踏んだらしい。
「…私、御手洗さんに限らず学校に仲がいい人がいなくて」
こいつぶっちゃけやがった。おそらく初対面である俺にいきなりこんな重い話を。
まあ正直もしかしてと思う節はあった。わがままっぽい性格に、いつも一人ここで弁当を食べているという事実。
触れないでおこうと思っていたら、まさか自分から話してくるとは。かまってほしいのか?
しかし、いざ面と向かって言われても返す言葉がない。なんなら俺だって実質ぼっちのようなものだ。
「そうか」
「わかってるんだ。自分のこの性格が原因だってことくらい」
「わかってるならいいじゃないか、それを直すだけだ」
「そう簡単じゃないもん」
拗ねたようにそっぽを向く彼女。ツインテールが俺に当たりそうだから勢いよくそっぽを向くのはやめてね。
「だったらとりあえず同じクラスだし、咲綾と友達にでもなったらどうだ?あいつなら気さくだしなりやすいと思うが」
「咲綾?」
やばい、気をつけていたはずなのについついこいつの変な流れに乗せられて下の名前で呼んじまった。
「あー今のは「うわ!いくら御手洗さんがいきなり可愛くなったからって名前呼びするなんて。妄想は口に出さない方がいいと思うよ」」
呆れたような表情でこいつの頭では妄想ボーイとなっている俺にアドバイスを送ってくる。
…こいつはっ倒してもいいかな。
「アドバイスどうも。だけど残念ながら妄想じゃなくて、俺は咲綾と幼馴染なんだ」
「え!そうなの?」
「そういうこと。なるべく人前では呼ばないようにしてるけどお前が変なこと言い出すからつい口が滑った」
「なんで?普通に名前で呼べばいいじゃん」
「…カップルみたいに疑われたら咲綾に迷惑かけるだろ。それになんか恥ずかしいし」
「うわぁ、なんか気持ち悪い」
「…悪かったな」
「そっそれより、ていうことはあんたは御手洗さんと仲がいいってことだよね?」
「まあ一応幼馴染だからな。人並みにはいいと思うぞ」
「…なるほど、こいつを使えば私も御手洗さんと仲良くなれるかもしれない」
「何をぶつぶつ言ってんだ?」
「決めた!」
そう言って急に何かを決断したようにすっと立ち上がる。
「おいおい、急に立ち上がるなよ。びっくりして弁当落とすかと思ったじゃないか」
「あなた私と友達になって!」
「はぁ?」
「もう決定事項だからね。私とあなたは今日から友達!」
両手を腰に当ててツインテールを軽く揺らし、ふんすと言わんばかりにこちらを見下ろす彼女。
いつのまにか、あの可愛らしいキャラ弁を食べ終えている彼女は、おそらくほっぺたに付いている真っ白に輝く米粒の存在には気づいていないのだろう。




