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3話

「え〜っと、イメチェンしたのか?」


「イメチェンっていうかお姉ちゃんの美容院は行ったよ。後はお姉ちゃんがコンタクトにした方がいいって言うからそのままついでだから変えてきちゃった」


 そういえば咲良さんの美容院に行くって言ってたな。情けないことに直視はできないのだが心なしか今の咲綾は咲良さんと同じような雰囲気を感じられる。


「…そうか」


「変…かな?」


 言葉が少なかったためか、彼女は不安そうな表情でそう問いかけてくる。


「いや、変ではないと思うぞ」


「そっか、良かった。朝来たらみんながどうしたの!?って集まってくるからちょっと心配だったんだ」


 俺の言葉にニコニコしながら照れたように、頬をぽりぽりとする目の前の美少女。


 いや可愛すぎんだろおおおおおおお!!!!!!なんだこいつううう!

 いや半端なく可愛い。なんだこの生き物は?本当に俺の幼馴染だよな?ぶっちゃけ目を合わせられない今日この頃。てかこっちみんな!目線どこにやったらいいかわかりません。

 

「…授業始まるし俺はそろそろ戻るわ」


 ていうか咲綾のクラスの人たちの目線が怖い。いつもだったらなんも気にならないのに、今日はなぜが周りから向けられる視線が異様に多いような気がする。


「結局何しに来たの?」


「あーっと、ちょっと咲綾の顔が見たくなってな。じゃあまた放課後」


 これ以上話していたらこっちがおかしくなりそうだ。そう思い、まだ動揺が収まらないまま俺は自分の教室へと戻ることにした。

 ふらふらっと戻っていく俺の後ろで、ほんのり顔を赤らめた咲綾が見つめているとも知らず。




「えーあるからしてーこうしてーこういう方程式になるわけですね」


 今日は天気がいい。俺は窓際の席のため、ふと横を見るとそこには綺麗な青空がある。ぽかぽか陽気はいつもと変わらず俺の眠気を誘ってくる。

 俺の隣の席の小島さんも、授業を聞きながらせっせとノートに綺麗な字でまとめている。彼女はいつも変わることなくそうやって真剣に授業に取り組んでいる。

 教壇に立つ先生も一生懸命黒板に文字を書きながら、いつもと変わらない授業を行なっている。


 今日はいつもと変わらない一日のはずだったのに。


 あいつは変わりすぎだろおおおおおおおお!!あんなの美容院行きました、なんて言われて納得出来るかっつうのおおおおおお!!

 母さんがテンションアゲアゲで飲み会に行く前に、ぱっちりと化粧している時と帰ってきて次の日の二日酔いで起きてきた時よりも変わってるんですけどおおおおおおお!

 な〜んて言ったら母さんに殺されちゃうんだけどね!


 授業が終わり、二度目の10分休み、先生の話なんて全く頭に入らなかった俺はそのまま机に突っ伏していた。

 別に眠くてこうしているわけではない。話す人もいないし、やることもないのでこうやって体力を温存しているのだ。ただ眠くはないもののこの格好は自然と眠くはなってくる。周りの話声を子守歌にだんだんとうとうとしてきた。


「神崎くん、ちょっといいかな?」


 寝るか寝ないかの最も気持ちのいいゾーンに突入しかけた時に、見事に邪魔が入ってくる。

 学校にいる時、基本俺から話しかけない限り、関わることがないやつだ。まあ話しかけることなんてほとんどないんだけどね。


 彼の名前は中山なかやま 奏多かなた。率直に言ってイケメンだ。このクラスの委員長であり、高身長に運動神経抜群、さらに頭もいいときた。整えられた明るめの茶髪も彼の顔面偏差値を上げることにバリバリ貢献している。

 噂によると高校に入ってからまだ数ヶ月しか経っていないというのに、告白された数は両手で数えられないとか。


「いいけど、何?」


 これはけっして彼がイケメンだからぶっきらぼうに返事をしているわけではない。


「ごめんね、寝てるところを邪魔しちゃって。今日隣のクラスの御手洗さんがすごく綺麗になっていたんだけど神崎くん何か知ってる?」


 彼は空いていた俺の隣の席に自然に座り、体をぐっとこちらに向けそう聞いてくる。


 …距離が近いんだよなあ。なんか気づいたらめっちゃちかくに顔があるんですけど。しかもばっちりと目もあってるし。

 なんか恥ずかしくなってきちゃったぞ。

 

 しかし、急に話しかけてくるから珍しいこともあるもんだと思ったらそういうことか。いっつも俺なんか視界の隅にしか入れてないこいつが。。


「ああ、本人は美容院に行ってコンタクトに変えたって言ってたぞ」


「へぇ、それだけであそこまで変わるなんて。……僕としたことが気づかなかったなあ」


 ぼそっとつぶやくように言った彼の言葉はしっかりと俺の耳には届いていたが、別にこれといって返す言葉はない。

 それよりも1人称が僕ということの方が気になる。これが仮に俺の1人称が僕だったらなんか違和感しかないのだが、彼が使うとなぜかしっくりくるから不思議なものだ。


「それより神崎くん、いつも御手洗さんと帰っていたよね?二人ってそういう関係なのかな?」


「そういう関係って?」


 何を聞きたいのかわかっていながら、わざとらしく聞き返す俺に彼は口角をちょっと上げながら苦笑いをしている。


「ははっ参ったなあ、じゃあ率直に聞くけど神崎くんって御手洗さんと付き合っているのかい?」


 はいきましたこの質問。わかっていたけど本当に聞いてきやがったよこの男。

 正直彼と俺では天と地の差がある。まさに月とスッポンとはこのことだ。

 付き合ってますけど!なんて言ってやれたらいいんだがあいにく俺と咲綾は付き合っていない。咲綾にも迷惑がかかる以上下手な嘘は言えない。


「いや、俺たちは()()()()()()じゃないよ」


「だよね、良かった。ごめんね変なこと聞いて、それじゃあ」


 嫌味ったらしく俺は最初に彼が聞いてきたままに答えると彼はニッコリと笑い、席を借りていた小島さんにお礼を言うと颯爽と自分の席へと戻っていった。


 だよね…か。腹が立つ言葉を残していきやがって。少ししか言葉を交わしていないにもかかわらず判明した明確な事実。彼が、いや中山が咲綾を狙っているのは間違いない。


 前までの咲綾でさえ告白できなかった俺の前には、さらなる大きな壁が立ちはだかるらしい。中山という壁は例えるなら5キロしか走れない少年が10キロのマラソンに挑戦しようという時にさらにおなかが痛くなり頭痛までしてくるレベルのものなのだ。


 やれやれ、参ったのはこっちだっての。




 

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