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2話 

「陽ちゃん、そろそろ起きたら~?」


 母さんの声がぼんやり頭に聞こえてくる。やわらかい生地の毛布に包まれた俺の体は起きようとする意志を必死に抵抗させる。数十秒の抵抗の後、重たい体をゆっくりと起こし、ぼんやりとした視界を整えるために目をこすりながら小学生のころから使っている某有名キャラクターの目覚まし時計を確認する。

 

 う~ん、何時だ?まだ7時じゃないか


 俺は確認のために手に取った目覚まし時計をそっと元の場所に置き、また毛布にくるまろうと、、、


「7時いいいい!!」


 思わず目覚まし時計を二度見するが、やっぱりその針は7の数字を指している。俺がいつも出ている時間が7時、最低でも準備があるため普段は6時半には起きているのだがこれはまぎれもない寝坊だ。

 この事実に気付いた瞬間、ぞわっとした感覚が全身を襲い、眠たかったはずの意識が驚くほどに活性化する。


 自分の中で現状を理解できず、訳が分からないまま急いで着替え、2階にある自分の部屋からリビングのある1階にどたどたと音を立てながら降りていく。


「母さん、どうしてもっと早く起こしてくれなかったんだよ!!」


 リビングのドアを勢いよく開け、そこにいるであろう存在に向かって声を荒げる。

 俺は決して母さんにいつも起こしてもらっているわけではないが、さすがに俺の出る時間ぐらいはわかっているはずだ。起きてこないとわかったら普通は気にして起こしてくれてもいいだろう。

 俺が悲痛の叫びをあげている中、それをあびせられている当人はフンフンとのんきに鼻歌を歌いながら洗い物をしている。


「だって起こそうと陽ちゃんの部屋に言ったらあまりに気持ちよさそうに寝てるから、お母さんなんか起こすの申し訳なくなっちゃって」


「もう!朝ご飯は今日いいよ」


「えっ」


「だってもう時間がないから」


「そうだよね、陽ちゃんはお母さんが作った朝ご飯なんていらないよね。ごめんねお母さん朝ご飯なんて作っちゃって」


 この時間だとご飯を食べていたら間に合わない。そう思い母さんにそのことを伝えると、先ほどまで洗い物をしていた手を止め悲しそうにこちらを見つめてそんなことを言ってくる。


「…わかった。食べるよ」


「本当!待っててね今お皿に出してあげるから」


 さっきとは打って変わって満面の笑みでそう返事する母さんをみていたらもう何も言うことはない。トースターに入っていたであろう食パンがチンと音を立てる


 ああ、遅刻決定だ




「はあ、はあ、…なんとか間に合った」


 どうやら俺は自分の限界を低く見積もりすぎていたようだ。

 急いで母さんの作った朝ごはんを食べ、全速力で自転車を漕いできたため、制服の下のワイシャツがぺったりと張り付いて気持ち悪い。

 時間は授業前のホームルームが始まる5分前、このままいけばギリギリセーフだ。


 絶対に間に合わないと思っていたのに、必死になったら案外間に合ってしまった。もしかしたら俺はやればできる子なのかもしれないな。


 たくさんの自転車が雑に並べられている中に自分の自転車を置いて駆け足気味に教室へと向かう。

 

 ここまでくるとやっと急いだため、荒くなっていた息も収まり始めてきた。教室の近くまで来たところでやけに隣のクラスが騒がしいことに気づく。


 咲綾のクラスだよな?なんかあったのか。


 少し気になったがもう時間もギリギリのためとりあえず教室へと入る。

 すぐにホームルームが始まる時間になるというのに、教室に入るとなにやらうちのクラスもいつもよりちょっとざわついてる感じがした。


「ねえ、聞いた?隣のクラスの御手洗さんイメチェンして凄い可愛くなったって」


「私みたよ。別人かと思っちゃった。私もああなりたいな」


 席に座ると近くの女子たちが話している声が聞こえてくる。教室にいると聞こうと思っていなくても聞こえてくる会話がいくつも飛び交っている。本人たちはおそらく思っている以上に自分の声が響いていることに気づいてはいないのだろう。


 それよりもどうやら教室が騒がしかったのは彼女たちの話では御手洗さんって人が原因らしい。…ん?御手洗?


 ホームルームと1限目が終わり、10分休みの最中俺は先ほど聞いた話が気になっていた。


 御手洗って咲綾のことだよな?あんな珍しい苗字他にはいないだろうし。


 そのことがあまりに気になった俺は、普段10分休みに席を立つことなんてトイレぐらいしかないのだが珍しく重い腰を上げ隣のクラスへと向かった。


 来てみたはいいが、違うクラスというのは入るのにどうも緊張するものだ。これは得体のしれない空間に飛び込んでいく不安な気持ちなのだろうか。というわけで俺は隣のクラスの空いているドアから中の様子をこっそりと伺う。

 

 隣の教室は当たり前といえば当たり前だがうちのクラスと大して変わらない雰囲気だった。それぞれが固有の空間をもって過ごしている様子はぼーっと眺めていても飽きないような気がする。


 えっと咲綾はどこだ?あれ?いないじゃないか


 さすがに入ったことがないとはいえ、幼馴染である咲綾の存在を見つけられないほどではないはずだ。いや、もしかしたらこれは朝とは反対に自分の能力を過信しすぎているのかもしれない。逆もしかりということか。


「あれ?陽太?何してるのそこで」


「え?」


 見当たらない咲綾を探していると、知らない女子が俺をみて駆け寄って来た。

 明るめの茶髪にふわっとしたボブのような髪型を肩に少しあたるかぐらいのばし、目はぱっちりとした二重がクリクリとしていて可愛い。

 悲しい話だがこんな可愛い女子が俺を下の名前で呼んでくれることをした覚えはないぞ。


「どうしたの?ぼーっと見つめて」


 突然の現実離れした出来事にいまだに頭が追い付いていない。だが目の前の彼女は俺に話しかけていることが当然であるかのような態度である。


「えっと人を探してまして」


 同い年のはずなのについ敬語が出てしまうのはそれだけ動揺しているということなのか。はたまた、ただのコミュ障なのか。ほぼ確実に後者だろう。いと悲し。


「なにその喋り方?まあいいけど、誰を探してるの?」


「さあ…御手洗さんっていますか?」


「…なに言ってるの?目の前にいるでしょ」


 彼女は何を言っているんだこいつはといった顔をしている。正直その顔はこっちの顔だ。さらに頭がこんがらがってきた。目の前というのはどういうことだろう?彼女は俺をからかっているんだろうか。もしかしてこれがよくうわさに聞く罰ゲームで告白といった類のものなのか。だとしたら納得だ。

 

「それよりなんで急に御手洗さんなんて呼び方してるのよ、あんまりふざけるといくら陽太でも怒るよ」


 …俺だってさすがにバカではない、ぶっちゃけ気づいているさ。ただこの目の前の現実から目を背けていただけで。


「咲綾」


「ん?何か用事あった?珍しいよね陽太がこっちのクラスまでわざわざ来るなんて」


 よく知っている幼馴染の名前を呼ぶと答える目の前の美少女。そう、彼女は俺の幼馴染である 御手洗 咲綾なのだ。







 

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