13話
あれから一週間。俺は咲綾と一度も話していない。廊下ではたまにすれ違ったりするが、お互い目を合わせることもなく、ただ横を通り過ぎていく。
これだけの期間、彼女と話さなかったことは今まで一度もない。
あんなことがあったから、少し不安だったが彼女は何も変わった様子はなく、いつも通り友達と楽しそうに談笑する姿を見て、安心した。
だけど、俺が一緒に帰らなくなってからやけに中山が咲綾と一緒にいるのを見かけるようになった気がする。これはたまたまなのか、それとも。
「陽太、まだ御手洗さんと話してないの?」
「うん」
あの日、荒木は自分のせいで咲綾があんなことを言ったと思い、ひどく落ち込んだみたいだ。そのため、次の日俺はあったことをぼやかしながら、荒木のせいではないことを伝えた。
なので、彼女も彼女で俺たちの関係を心配してくれているのだろう。
「とりあえず今は、俺もよくわからないんだ。咲綾の気持ちが。だから、何もできない」
今のまま咲綾と話しても何も変わらないだろう。彼女の気持ちを俺は理解しきれていない。
「私にできることはない?」
「ありがとう。気持ちだけもらっておくよ」
「そっか」
「それよりも本当に悪かったな」
せっかく勇気を出して、あの場に来てくれたにもかかわらずあんなことになってしまったのだ。紹介すると言った手前、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「しょうがないよ。それに陽太が悪いわけじゃないじゃん」
「それでも、嫌な気持ちにさせたのは事実だしな」
「でも紹介してって言ったのも私だよ。本当に気にしないで」
なんだか最初に出会った時に比べて、荒木に対する印象が変わったような気がする。もしかしたらこいつも少しずつ変わろうとしてるのかな。
「そうか、そう言ってくれると助かる」
「でも、結局私の友達は陽太だけか〜」
そう思ったのもつかの間、この流れでその言葉をぶち込んで来る辺り、やっぱり荒木は荒木らしい。
ただ、そう言いながらも彼女はあまり残念そうではない。
「買い物には俺が付いて行ってやるから許してくれ」
「うーん、とりあえずそれはいいや」
一瞬迷うそぶりを見せたものの、どうやら俺はお呼びではないらしい。なんだろうか、告白してもないのに振られたようなこの感覚は。
「じゃあ、荒木はひとりぼっちで買い物か。かわいそうに」
「別にいいもん! そう思うなら陽太が早く他に友達作って私に紹介してよ」
「わざわざ俺を経由する意味がわからんだろ」
どうやら荒木が新しい友達を作るにはまず俺が作らなければならないらしい。しかも流れ的に言えば女子の友達だろう。たしかに、紹介すると言ってあんなことがあったのもあり、出来ることならば彼女には女子の友達ができてほしい。
どっかに友達になってくれる女子はいないものか。
放課後になると、俺は颯爽とカバンを持って教室を出る。
いつもの帰り道を一人で歩いていた。最初は家の方向も同じだし、荒木を誘ってみるかと思ったがなんだかそんな気分にはなれなかった。
それに、俺と荒木は昼だけあって、適当な話をして別れる。今の俺たちはこれぐらいの距離感がいいんじゃないかなと勝手に思っていたりする。
変わることのない道を歩いているはずなのに、二人で歩いていた時よりも全然違って見える景色は、とても新鮮なものだった。
当たり前のように吹き抜ける風が異様に心地よく感じる。
ただ、一つだけ俺は自らの意思でいつもの帰り道と違うことをしている。それはたまに公園の近くを通ること。普通に帰るならこっちの道は通らない。けど、もしかしたら咲綾がいるんじゃないか? なんて気持ちが俺の中にあるんだろう。
いたところで何だ? だったら学校で話しかければいいじゃないか。側から見ればそう言われても仕方ない。
それでも俺は来てしまう。ここに来れば何かが変わるかもしれない、なんて淡い期待を抱いているのだ。
公園に来ると、あの時とは違い小学生ぐらいの子供たちが駆け回って遊んでいる。これこそが公園の本当の在り方で、何も問題はないはずなのに。
なんでこうなってしまったんだろうな。
「あの、すいません」
ぼーっと立ち竦んでいると、突然後ろから声を掛けられた。まさかと思い振り返るとそこには同じ高校の制服を着た知らない女子生徒。
一瞬、もしかしたらと思ったが、冷静になればさすがに言葉が他人行儀すぎる。
「…なんですか?」
「あっ突然ごめんなさい。私 1年の山村 桃菜です」
「1年の神崎です」
唐突に自己紹介を始めた彼女、長く伸ばした黒髪に黒縁のメガネをかけ、少したれ気味の目がおっとりとした雰囲気を感じさせる。
「その、神崎さんは静音と仲が良いんですか?」
「静音…さんですか? いや多分仲良くはないですね」
どうやら人違いらしい。静音さんなんて可愛らしい名前の女子と知り合った覚えはない。おかしいと思ったんだ、こんな急に女子が話しかけてくるなんて。
「ええっ! でっでも最近一緒にお昼食べてますよね?」
「いや一緒に食べてないですよ」
そりゃ俺も静音さんなんて清楚そうな子とお昼を共にしたいのはやまやまですが、あいにく一緒に食べているのはただただ生意気な小娘です。
「…おかしいなあ、私の見間違い?」
「だと思います」
「えっと、なんか色々ごめんなさい」
「いえ、気にしないでください」
彼女はぺこりと頭を下げ、あれぇ? なんて言いながら去っていった。




