第八玩 雪紀ダルマ(グロテスクじゃない方)
一か月近い沈黙を破り、久しぶりの雪女と地蔵の日常を描く!今回は初料理と雪ダルマ作り。
「「ご馳走様でした」」
雪紀とエロオタは、二人手を合わせて挨拶した。エロオタにとって初めてのご飯は、雪紀特製の『野菜炒め』。赤・緑・黄色ピーマンがどの野菜よりも多く、世のピーマン嫌いは絶叫するだろう。だが二人にとってピーマンは美味しい野菜の一つであり、食べ終わる頃にはお腹の中は満足度100パーセントを突破したのだった。雪紀の包丁捌き、箸捌きは手慣れていて、伊達に何百年も一人暮らしを熟してはいないようだ。エロオタはお腹を摩りながら、後ろにぐったりと寝転がって言った。
「ぷはあー・・・・美味、まさに美味!」
雪紀はエロオタの感想を聞いて耳と頬が赤くなった。ついでに体をもじもじさせながら答えた。
「・・・普通に普通だと思うけど・・・」
雪紀渾身の弁明に、エロオタの反論が始まった。
「いやいや、今まで食べた中で・・・って今初めて食べたんだけどさ。その僕が美味ってんだから美味だって!」
「・・・特に?」
あからさまに褒め称えるエロオタに対し、雪紀は疑いの眼差しで問い詰めた。エロオタはまるで評論家のような物言いで語り始めた。
「緑ピーマンが特に美味だね。特有の苦みはあるけど、このピーマンはそれよりも甘味がより際立っていて全然気にならないんだ。もやしのような歯ごたえがあって、箸が進む進む。キャベツのシャキシャキ感は健在で、・・・人参も入ってる」
雪紀は途中まで感心して聞いていたが、最後の言葉が引っ掛かった。
「人参それだけ?・・・」
「・・・うーん、あんまり変わらなかったからな・・・」
「変わらなかった・・・ってことは前に食べたことがあるのかも」
エロオタの記憶回路にはまだ謎が多くあるが、雪紀はエロオタが人参を食べたことはあるという可能性を推考してみた。だがエロオタにとって自分の記憶はとても他人事のように思えて、素っ気ない態度で言葉を綴った。
「そう・・・かもね・・・でも『野菜炒め』って、ピーマン一つで全然違うだなって思ったんだ」
目の前に置かれた空の皿を眺めながら、エロオタと雪紀はご飯に付いて語らう。それは雪紀にはとても新鮮に思えた。雪紀はつい頬が緩みそうになるのを堪え、席を立った。
「うん・・・これ贈り物だったから。(ごそごそ)・・・ほら」
雪紀は二、三歩先の冷蔵庫へ移動した。冷蔵庫の引き出しを開けると、中から蓋の空いた段ボールを取り出してエロオタに見せた。二十個ほどの色とりどりのピーマンが詰められていた。雪紀は段ボールを膝上に置くと、蓋を閉じて見せた。二枚の段ボールが一つに合わさると、太ペンで大きく【大原犬太】様と書いてあった。
「おおばる・・けんた・・・この人知ってるの?」
雪紀は首を横に振った。エロオタは雪紀の様子を見て、犬太との関係が浅いと見た。
「知らないけど、最近よく送ってくれる・・・ちょっと飽きそう・・・」
「そんなに・・・」
雪紀は何十個ものピーマンをしっかりと食べ、食べ過ぎてもうピーマンを見たくないまでではないが、ピーマンを見ると本能的に避けてしまうと不満をぶちまけた。同じものを、しかもそれほど好きではないものを何度も食べるとなると、食傷気味になるのはしょうがないのかもしれない。
「別にピーマンは嫌いじゃないけど、毎日食べたいわけじゃない」
「何時から?」
「舞に久しぶりに会ってから」
「舞?」
更に新たなる人物が現れ戸惑うエロオタに、雪紀は自分が寛いでいる炬燵を指差して説明した。
「この炬燵を譲ってくれた人の代行人・・・みたいな?」
雪紀は段ボールを冷蔵庫の中に戻しながら説明した。
「その人が一か月ぶりに会ってから、ピーマンを貰うようになった」
雪紀は炬燵に戻る際に、畑で採ってきた植物で作った温かいお茶を二杯持ってきた。エロオタは雪紀が置いたお茶を持って、「いただきます」と一礼した後に一口飲んで言った。
「何か良い事でもしたの?」
「氷あげたりしてるから?・・」
雪女である雪紀にとって、氷を作るのはお手のもの。氷は時として貴重であり、地域によって人によって欲しい時があるのだ。
「ああ、そっか、雪女だもんね。・・・じゃあなんで雪女が炬燵に入ってるの?暖かいと危ないんじゃ・・」
雪紀は眉を顰めてエロオタの口に指を乗せると、怒った顔でこう言った。
「雪女だって暖まりたい。私はホット派。偏見ダメ絶対」
確かに雪女と言う理由で、冷たい性格でいつも寒いという印象がある人もいるだろう。だがしかし雪紀は体を温めることで、心も体も熱くなった状態でゲームがしたいのだ。ゲームをやると熱くなる。それが雪紀にとっての興奮材料であり、炬燵は雪紀にとって何よりも頼もしい相棒になっているのだ。
「そうだね、ごめんなさい」
「謝ったから許す」
雪紀はすぐ謝ったエロオタの頭をなでなでする。頭がゆらり揺れたことで、エロオタは何かを思い出した。
「・・・あ、そうだ」
「?」
「雪ダルマならぬ、雪紀ダルマを作ろうか?」
突然の思いつきに雪紀は、目を真ん丸にして驚いた。だがエロオタは気にせず雪紀の手を引っ張って、思い立ったらすぐ行動と言わんばかりに鎌倉を出た。
「・・・ハッ!・・・何で突然?」
雪紀が気が付いた頃には、既に十五分も経っていた。空はいつもの灰色模様。下は真っ白雪化粧。空から降り続けるツンと冷たい白綿を肌で感じながら、雪紀は目の前の光景にまた驚いた。
「・・・これ・・・」
雪紀の目の前には、雪紀と同じくらいの大きさの雪玉が二段置いてあった。そして下段の雪玉には両端に木の枝が刺さっていた。これは所謂『手』の部分だろうか。まじまじと目の前の雪ダルマを眺める雪紀を見る中、エロオタはもう二本の木の枝を上段の雪玉の両端に挿すと、こう言った。
「完成!雪紀ダルマ!」
「・・・どこが?」
雪紀は明らかに自分とは全く、毛ほども違う雪ダルマを睨んだ。今度は自信たっぷりの顔を見せるエロオタを睨んでから、もう一言。
「どこが?」
「ん?いや雪紀ちゃんのそのツインテールを見て、ハッと思って勢いで作っちゃった」
「作ったって・・・顔がのっぺらぼう・・・」
「あ、そうだったねえ・・」
確かにツインテールだけでは、雪紀と認識するには酷だろう。というわけで早速、エロオタと雪紀は目や鼻、口になるようなものを探すために、近くの森で探検を始めた。少しするとエロオタはドングリ二つと松ぼっくり一つ、雪紀は蕗の薹一つが集まった。二人はドングリを目に、松ぼっくりを鼻にして、
最後に蕗の薹を口としてくっ付けた。
「これが・・・私・・・」
雪紀はちょっと離れてまじまじ見ると、少しだけだが自分に似ているように見えて、少しだけ頬が緩んだ。そんな雪紀を見てエロオタも、雪ダルマを作って良かったと心底思ったのだった。
ちょっと長くなったけど楽しんでくれたでしょうか。久しぶりで少し忘れている所があったらごめんなさい。絵はまだ描いてません。また描きたくなったら描きたいです。ではまた次回。ストックはまだあったので、ご安心を・・・