第七玩 健康玉
バランス・ボール。乗ったことのない方は是非。私はあまり好きではありませんでしたが・・・・雪紀とエロオタはどうでしょうか。
雪紀はゲームをする際、必ず一時間おきに『バランス・ボール』の上に乗って、鎌倉の中を転がる習慣がある。『バランス・ボール』とは、ゴム製の大きな球体で、体をバランスよくボールの上に乗ることを目的とした商品である。使っていない筋肉を動かすことで、主に健康グッズとして用いられる。雪紀はそのボールに桃色で可愛らしいアルマジロのキャラクターを描いている。雪紀が今まで描いた絵の中で最高の自信作らしい(特にアルマジロが大好き)。雪紀はちゃんと絵を勉強すれば優れたイラストレーターに、いや漫画家にもなれるかもしれない(エロオタ談)。
「ころころころころ・・・」
―雪紀は前のめりにボールに乗って、そのまま部屋中を何周か回るのだが、これがまた可愛いのだ。この俺ですら雪紀の可愛さに圧倒されているというのに、更にボールと一緒にくるくる回るという行為がもうやばい。ハムスターや猫、インコなどとは比較できないほど・・・もし例えるなら〝天使〟だ・・・。と、思いながらエロオタは雪紀を変な目で眺めていた。そんなエロオタの視線を感じた雪紀は、バランス・ボールに目を移して暫く考えた。
「・・・やる?」
雪紀はじっと自分を見つめるエロオタを見て、自分と同じようにバランスボールに乗りたいのだろうかと誘ってみた。
「え!・・・・・じゃあ・・・やってみようかな?」
別に雪紀を眺めるだけでもよかったのだが、誘われたらちょっとだけやってみたくなったエロオタは、雪紀にバランス・ボールを貸してもらって使ってみることにした。
「おおーゆらゆらするー」
手始めにボールに腰を下ろして、右に左に体を振り子のように揺らし始めた。それを見てか、雪紀もエロオタの揺れに乗って体を揺らし始めた。エロオタはそんな雪紀に見向きもせず、目を瞑ったままバランス・ボールの感触を味わった。
「どう?」
目をキラキラさせて感想を今か今かと待ち侘びる雪紀に対し、エロオタは手で口を押えてこう答えた。
「うん、何だか頭がゆらゆら揺れて・・・気持ち悪い。うっぷ!」
エロオタは完全に酔ったようだ。雪紀はびっくりしてエロオタに駆け寄った。
「待て!・・吐くなら洗面所!」
「うん、ちょっと行ってくる」
長い間揺れ過ぎたのか、吐き気を催しそうになるエロオタの背中を擦りながら、雪紀はエロオタを洗面所に連れて行こうとする。だがエロオタとバランス・ボールの高さが雪紀のおおよそ二倍。雪紀はぴょんぴょん跳ねながら、エロオタの背中を擦らなくてはいけないが、雪紀はエロオタをこの場で吐かせてはいけないという強い意志の下、迅速に行動したのだった。
そして洗面台で一通り終えたエロオタは、気を取り直してソファーに横になって休む中、雪紀はせっせとペンギン模様のエプロンを着て、ご飯作りに取り掛かった。もちろんエロオタの体調を鑑みて献立を立てながら・・・
「ごめん・・・まさかボールにやられるとは思わなかったよ・・・」
「別に。・・・・ゆっくり休め、しっかり食べ、・・・またゲームしよ?」
「・・・うん。ありがとう、雪紀ちゃん」
「別に・・・」
まさかの「ありがとう」の一言に頬を赤くしながら、雪紀は料理中だということを念頭に置いて、包丁に最善の注意を払った上で調理を再開するのだった。雪紀とエロオタが出会って七日目のことである。
その夜。
雪紀の家、鎌倉を見下ろすように佇む墓があった。雪が積もり続ける『邪蟇塗山』の背に、何本もの墓石がソーラーパネルのように立てられている。大きな石一つが一人分の墓であり、一定の間隔を保って、縦横十個の石が綺麗に並べられている。だがただ一つだけ五重の石がある。不格好な五つの石が落ちるか落ちないか、何故か今も尚落ちることなく整然と重なり合っているのか。他の墓石も合わせると百人の人間の墓のある場所は、遥か昔人の住む集落であった。
村の名は『冥苦村』。
―ボッ
五重の石はその音とともに、一気に崩れ落ちた。そして石の下から土に塗れた骨が不気味に姿を現した。それは小さな子供の手。そして骨は夜の月の光を浴び、見る見るうちに赤い肉が骨に纏わり付いていった。最後にその上から肌色の薄い皮が張り付いた。そして瞬く間に人間の手に変わったのだった。
ちょっと不穏な空気を残して。一話で一日の経過でやってます(例外あり)。雪紀とエロオタがいつまで一緒にいられるか・・・次回。