第六玩 自家栽培
雪女こと雪紀と、地蔵ことエロオタは空腹の中、畑に向かったのでした・・・
エロオタは初めてのゲームで手が暫く痺れ、手を休ませるために鎌倉を出て冬の風に当たったり、また鎌倉に戻っては時間をかけて直していった。
―はぁ・・
エロオタは上を向いた。冬の空は白化粧。冬の空気は目や鼻や口の中をピリピリと、『冷たい』と『痛い』が交互にくるようにして息をする。空気が痛くても、息をしなければ生き物は死んでしまうので、凍てつく空気を必死にかき分けて息をするエロオタであった。エロオタは鎌倉の方に振り返って、ふと思った。
(・・本当にこれが、彼女の恩返しになっているのだろうか・・・)
雪女こと、雪紀は自分と一緒にゲームをすることが恩返しだと言っている。エロオタも初めてのゲームで夢中になるほど楽しんだ。自分が何者で、一体何のために生まれたのか。それはまだ分からない。けど・・・
「楽しいなら・・・いいか」
エロオタはゲームに夢中になる雪紀の顔を思い出して、クスっと笑いが零れた。雪紀の顔を見ると、鬱屈したエロオタの心が一気に吹き飛んでいくようだ。そして思った。
―もっと雪紀が見たい。
・・・と
その頃雪紀はカッターダンスを踊った後、踊り疲れて畳の広間でぐったりと休んでいた。初めて・・いや久しぶりに誰かと遊んだことを思い出して、雪紀は猛烈に頭の中の『楽しい』という感情が暴れまわる。一人でゲームをやるのは楽しい。・・が、何百年も遊べば何れ飽きがくる。そしてどんどん体の中に、『つまらない』という感情が少しずつ溜まっていくのだ。
(やっとつまらないが楽しいに換わっていく・・・)
自分の心が少しずつ満たされいくのを感じながら雪紀は、心の底からエロオタに会えて良かったと思った。畳の上をゴロゴロと右に左に回る雪紀。これから先、エロオタといっぱい遊んで、遊んで、遊んで・・・・
―グ~
すると雪紀のお腹から、空腹の鐘が鎌倉の外まで鳴り響いた。エロオタ(旧名ダッシュ二号)は音に驚いて、すぐさま鎌倉に戻って雪紀を見た。雪紀は顔を真っ赤にして、お腹に手を当て、エロオタに背を向けている。エロオタは無表情で雪紀を眺めること早十秒。
ーグ~
エロオタのお腹も空腹の鐘が鳴り響いた。雪紀は驚いてエロオタの方を向いた。
「いやあ~・・・ゲームって体力使うみたいだね・・」
お腹を摩りながら照れ笑いを浮かべるエロオタに、雪紀はエロオタから目線をずらして考えた。そして雪紀は畳の広間から離れ、炬燵の上に置いてあるヘアゴムを取った。右と左に髪を結んだ雪紀は、鎌倉の出入り口まで移動した。そして古びた上履きを履く雪紀に、エロオタは質問した。
「どこ行くの?」
雪紀は上履きの爪先部分をコンコンと叩きながら小さく答えた。
「ご飯採りに行く」
「・・俺も行くよ」
「あ、そ」
雪紀は便乗するエロオタを振り切ることなく、エロオタと共に鎌倉を後にした。エロオタはさっき外に出た時も裸足だったのだが、足の裏は分厚い鉄で出来ているかの如く、硬い装甲になっているので平気らしい。エロオタは雪紀の格好を見て一言。
「雪女にこんなこと言うものなんだけど・・・寒くない?ボロボロのワンピース」
雪紀の服は少し特殊で、蛇のようにうねうねした部分が袖や襟などに入っている。エロオタは直感で、着心地が悪そうに見えた。だが雪紀は首を横に振って答えた。
「別に悪くない。お気に入り」
「ふーん。確かにこれはこれで似合ってるかも。ツインテールの雪紀ちゃんも可愛いね」
「!・・・別に」
雪紀はそう言いながらも頬を赤く染めて、少しだけ歩を速めた。そんな雪紀を見て、エロオタは嬉しそうに雪の後ろをついて行った。
鎌倉から離れた二人は、すぐ横に敷かれた畑に到着した。畑。白い雪の絨毯に、緑の葉っぱが外に出て、必死に生きようと根を張っているのが分かる。白い雪も積もれば、何倍も重い岩になる。畑の上に降り積もった白絨毯の重さは、一体何に匹敵するだろう。もし自分がその絨毯の下敷きになったら、抜け出せることができるだろうか・・・エロオタはそんな雪に負けない雑草魂を見せる畑を見渡して呟いた。
「これが雪紀ちゃんの食料・・・凄いな」
「これくらい当然」
雪紀は自分の畑を見て、(よし!)と心の中で叫んだ。自分が丹精込めて植えた種達が、こうして雪に負けじと生えている。それが何よりも嬉しかったからだ。雪紀は手首を二、三度握ると、鎌倉の外にある倉庫に入った。そこから農業で使う道具を持ち出すと、エロオタに笊と鎌を渡して言った。
「手伝え」
「ラジャー!」
エロオタは笑顔で答えた。
そして二人は食材採りを開始した。雪紀は背中に大きな籠を背負い、鎌を持って準備万端。エロオタも頭に鉢巻をして準備万端。葉っぱでも色んな形があり、それぞれにちゃんとした採り方がある。雪紀は説明する。
「一番向こうからにんじん、あっちがかぼちゃ、そっちがピーマン、・・・どっちがじゃがいも?」
「いや俺に言われても・・・」
雪紀はハッと思い出して、カボチャの形を思い出して、再度エロオタに教えた。そうこうして二人は確認に確認を重ねながら、野菜を採っては笊や籠にどんどん入れていく。こびり付いた土埃を払うと、大きく育った野菜が姿を現す。雪の下で強く、大きく育った食材はとても美味しい、と本で読んだことがあった雪紀は今にも食べたい気持ちを抑えて、野菜を籠に入れていった。時には苺や、梨(蔦で成るように改良した梨)、キウイ、キュウリやトマト、山芋やキャベツも見かけた。どれも新鮮で農薬を使っていないようだ。本人曰く、別に農薬を使わなくても案外簡単に育つらしい。自分が凄いのではなくて、野菜達が強くて生命力が人一倍にあるからだと言っていた。雪紀は野菜達を信じているのだ。それに野菜がちゃんと答えてくれている。あまり厳しく育てすぎても、優しく甘やかしても生き物は成長できない。それは植物や私たち生き物でも同じことなのだ。
そして一通り採った二人は、籠や笊にいっぱい入った食材を見た。
「これでよし」
「初めて採ったけど、楽しいね。またやろ?」
「うん」
雪紀もエロオタも気持ちいい感じに汗を掻いて、食材集めが終わった。今回収穫したのはじゃがいもとピーマン、白菜にもやしなどのほとんどが野菜だ。
「何作るの?」
「野菜炒め」
「俺も手伝っていい?」
「・・・いらない」
雪紀は手のひらを見せて、強い拒否反応を示した。エロオタは初体験というものが、ゲームをやってから進んでやるようになった。だが雪紀はまだ料理はダメらしい。火を使ったり、包丁を使ったりと危ないことが多いからだろうか。でも雪紀はそれよりも、物を壊されるのが嫌なのだ。エロオタはだったら雪紀が料理している間の予定を考えた。
「んじゃ、その間ゲームやっていい?」
「うん。ちゃんと壊さないで、元のとこに片づけてくれるなら」
「ラジャー!」
エロオタはかっこよくウィンクすると、早速道具を倉庫に片づけると、ダッシュで鎌倉に帰っていった。もちろん食材は纏めて鎌倉の中に入れて。雪紀はエロオタの行動力を眺めなら、トボトボと道具を片付け始めた。エロオタは鎌倉に入ると、早速鎌倉の一番奥に積まれている十八禁ゲームソフトの山から、適当に一つのソフトを取り出した。そしてオーディオ機器に入れると、いざ!とばかりにスイッチを入れた。
「『お尻まみれの大運動会』・・・エロゲーか・・・」
雪紀は別段驚くことなくエロオタを一瞥すると、自分もエロゲーの山からもう一つのゲームソフトを取り出して、エロオタに渡して言った。
「これ、続編だから」
「ありがとう雪紀ちゃん」
そして雪紀はキッチンに向かって、さっき採ってきた食材を水洗いしながら、ご飯の準備を始めたのだった。
どうしてエロオタがエロゲーに手を出したのかというと、どこか自分と近い何かを感じたからだと、後に本人が答えたのだという・・・・
梨が大好きです。果物の中で一番好きです。野菜はニンジンが大好きです。小さいころから苦手な食べ物をなくさないと、大人になったら結構大変ですので・・・ということで、次回雪紀の手料理がついに・・・!