表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第六玩 自家栽培

雪女こと雪紀と、地蔵ことエロオタは空腹の中、畑に向かったのでした・・・

エロオタは初めてのゲームで手が(しばら)(しび)れ、手を休ませるために鎌倉(かまくら)を出て冬の風に当たったり、また鎌倉に戻っては時間をかけて直していった。

―はぁ・・

エロオタは上を向いた。冬の空は(しろ)化粧(げしょう)。冬の空気は目や鼻や口の中をピリピリと、『冷たい』と『痛い』が交互(こうご)にくるようにして息をする。空気が痛くても、息をしなければ生き物は死んでしまうので、()てつく空気を必死にかき分けて息をするエロオタであった。エロオタは鎌倉の方に()り返って、ふと思った。

(・・本当にこれが、彼女の恩返しになっているのだろうか・・・)

雪女こと、雪紀(ゆき)は自分と一緒(いっしょ)にゲームをすることが恩返しだと言っている。エロオタも初めてのゲームで夢中になるほど楽しんだ。自分が何者で、一体何のために生まれたのか。それはまだ分からない。けど・・・

「楽しいなら・・・いいか」

エロオタはゲームに夢中になる雪紀の顔を思い出して、クスっと笑いが(こぼ)れた。雪紀の顔を見ると、鬱屈(うっくつ)したエロオタの心が一気に吹き飛んでいくようだ。そして思った。

―もっと雪紀が見たい。


・・・と


その頃雪紀はカッターダンスを(おど)った後、踊り(つか)れて(たたみ)広間(ひろま)でぐったりと休んでいた。初めて・・いや久しぶりに誰かと遊んだことを思い出して、雪紀は猛烈(もうれつ)に頭の中の『楽しい』という感情が暴れまわる。一人でゲームをやるのは楽しい。・・が、何百年も遊べば(いず)()きがくる。そしてどんどん体の中に、『つまらない』という感情が少しずつ()まっていくのだ。

(やっとつまらないが楽しいに()わっていく・・・)

 自分の心が少しずつ満たされいくのを感じながら雪紀は、心の底からエロオタに会えて良かったと思った。畳の上をゴロゴロと右に左に回る雪紀。これから先、エロオタといっぱい遊んで、遊んで、遊んで・・・・


―グ~


すると雪紀のお(なか)から、空腹の(かね)が鎌倉の外まで鳴り(ひび)いた。エロオタ(旧名(きゅうめい)ダッシュ二号)は音に驚いて、すぐさま鎌倉に戻って雪紀を見た。雪紀は顔を()()にして、お腹に手を当て、エロオタに背を向けている。エロオタは無表情で雪紀を(なが)めること早十秒。


ーグ~


エロオタのお腹も空腹の鐘が鳴り響いた。雪紀は驚いてエロオタの方を向いた。

「いやあ~・・・ゲームって体力使うみたいだね・・」

お腹を(さす)りながら照れ笑いを浮かべるエロオタに、雪紀はエロオタから目線をずらして考えた。そして雪紀は畳の広間から離れ、炬燵(こたつ)の上に置いてあるヘアゴムを取った。右と左に髪を結んだ雪紀は、鎌倉の出入り口まで移動した。そして古びた上履(うわば)きを()く雪紀に、エロオタは質問した。

挿絵(By みてみん)

「どこ行くの?」

 雪紀は上履きの爪先(つまさき)部分(ぶぶん)をコンコンと(たた)きながら小さく答えた。

「ご飯採りに行く」

「・・俺も行くよ」

「あ、そ」

 雪紀は便乗(びんじょう)するエロオタを振り切ることなく、エロオタと共に鎌倉を後にした。エロオタはさっき外に出た時も裸足(はだし)だったのだが、足の裏は分厚(ぶあつ)い鉄で出来ているかの(ごと)く、(かた)装甲(そうこう)になっているので平気らしい。エロオタは雪紀の格好(かっこう)を見て一言(ひとこと)

「雪女にこんなこと言うものなんだけど・・・寒くない?ボロボロのワンピース」

 雪紀の服は少し特殊(とくしゅ)で、(へび)のようにうねうねした部分が(そで)(えり)などに入っている。エロオタは直感で、()心地(ごこち)が悪そうに見えた。だが雪紀は首を横に振って答えた。

「別に悪くない。お気に入り」

「ふーん。確かにこれはこれで似合ってるかも。ツインテールの雪紀ちゃんも可愛いね」

「!・・・別に」

 雪紀はそう言いながらも(ほお)を赤く染めて、少しだけ()を速めた。そんな雪紀を見て、エロオタは(うれ)しそうに雪の後ろをついて行った。



 鎌倉から離れた二人は、すぐ横に()かれた畑に到着(とうちゃく)した。畑。白い雪の絨毯(じゅうたん)に、緑の葉っぱが外に出て、必死に生きようと根を張っているのが分かる。白い雪も積もれば、何倍も重い岩になる。畑の上に降り積もった(しろ)絨毯(じゅうたん)の重さは、一体何に匹敵(ひってき)するだろう。もし自分がその絨毯の下敷(したじ)きになったら、抜け出せることができるだろうか・・・エロオタはそんな雪に負けない(ざっ)(そう)(だましい)を見せる畑を見渡して(つぶや)いた。

「これが雪紀ちゃんの食料・・・(すご)いな」

「これくらい当然」

 雪紀は自分の畑を見て、(よし!)と心の中で(さけ)んだ。自分が丹精(たんせい)()めて植えた種達が、こうして雪に負けじと()えている。それが何よりも嬉しかったからだ。雪紀は手首を二、三度握ると、鎌倉の外にある倉庫に入った。そこから農業で使う道具を持ち出すと、エロオタに(ざる)(かま)を渡して言った。

「手伝え」

「ラジャー!」

 エロオタは笑顔で答えた。

そして二人は食材採りを開始した。雪紀は背中に大きな(かご)背負(せお)い、鎌を持って準備(じゅんび)万端(ばんたん)。エロオタも頭に鉢巻をして準備万端。葉っぱでも色んな形があり、それぞれにちゃんとした採り方がある。雪紀は説明する。

「一番向こうからにんじん、あっちがかぼちゃ、そっちがピーマン、・・・どっちがじゃがいも?」

「いや俺に言われても・・・」

 雪紀はハッと思い出して、カボチャの形を思い出して、再度エロオタに教えた。そうこうして二人は確認に確認を(かさ)ねながら、野菜を採っては(ざる)(かご)にどんどん入れていく。こびり付いた土埃(つちぼこり)(はら)うと、大きく育った野菜が姿を現す。雪の下で強く、大きく育った食材はとても美味(おい)しい、と本で読んだことがあった雪紀は今にも食べたい気持ちを(おさ)えて、野菜を籠に入れていった。時には(いちご)や、(なし)(つた)()るように改良した梨)、キウイ、キュウリやトマト、山芋(やまいも)やキャベツも見かけた。どれも新鮮(しんせん)で農薬を使っていないようだ。本人曰(いわ)く、別に農薬を使わなくても案外簡単に育つらしい。自分が凄いのではなくて、野菜達が強くて生命力が人一倍にあるからだと言っていた。雪紀は野菜達を信じているのだ。それに野菜がちゃんと答えてくれている。あまり厳しく育てすぎても、優しく(あま)やかしても生き物は成長できない。それは植物や私たち生き物でも同じことなのだ。

そして一通り採った二人は、籠や笊にいっぱい入った食材を見た。

「これでよし」

「初めて採ったけど、楽しいね。またやろ?」

「うん」

 雪紀もエロオタも気持ちいい感じに(あせ)()いて、食材集めが終わった。今回収穫(しゅうかく)したのはじゃがいもとピーマン、白菜(はくさい)にもやしなどのほとんどが野菜だ。

「何作るの?」

野菜(やさい)(いた)め」

「俺も手伝っていい?」

「・・・いらない」

 雪紀は手のひらを見せて、強い拒否(きょひ)反応(はんのう)を示した。エロオタは初体験というものが、ゲームをやってから進んでやるようになった。だが雪紀はまだ料理はダメらしい。火を使ったり、包丁を使ったりと危ないことが多いからだろうか。でも雪紀はそれよりも、物を壊されるのが(いや)なのだ。エロオタはだったら雪紀が料理している間の予定を考えた。

「んじゃ、その間ゲームやっていい?」

「うん。ちゃんと壊さないで、元のとこに片づけてくれるなら」

「ラジャー!」

 エロオタはかっこよくウィンクすると、早速道具を倉庫に片づけると、ダッシュで鎌倉に帰っていった。もちろん食材は(まと)めて鎌倉の中に入れて。雪紀はエロオタの行動力を(なが)めなら、トボトボと道具を片付け始めた。エロオタは鎌倉に入ると、早速鎌倉の一番奥(いちばんおく)に積まれている十八禁ゲームソフトの山から、適当に一つのソフトを取り出した。そしてオーディオ機器に入れると、いざ!とばかりにスイッチを入れた。

「『お(しり)まみれの大運動会』・・・エロゲーか・・・」

 雪紀は別段驚くことなくエロオタを一瞥(いちべつ)すると、自分もエロゲーの山からもう一つのゲームソフトを取り出して、エロオタに渡して言った。

「これ、続編だから」

「ありがとう雪紀ちゃん」

 そして雪紀はキッチンに向かって、さっき採ってきた食材を水洗いしながら、ご飯の準備を始めたのだった。

 どうしてエロオタがエロゲーに手を出したのかというと、どこか自分と近い何かを感じたからだと、後に本人が答えたのだという・・・・

梨が大好きです。果物の中で一番好きです。野菜はニンジンが大好きです。小さいころから苦手な食べ物をなくさないと、大人になったら結構大変ですので・・・ということで、次回雪紀の手料理がついに・・・!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ