第四玩 命名交換
少年の第一印象はまさに最悪。雪女は地蔵→少年をにらみつけながら、名前を決めることにしました。
―ハッ!
お地蔵様は白煙に包まれたかと思えば、その中から一人の少年が現れました。ですが少年はマフラーと傘帽子以外何も身に付けておらず、雪女は顔を真っ赤に染めて、勢いよく少年を蹴り飛ばしてしまいました。少年は綺麗に宙を舞った後、頭から雪の地面に突っ込んで、そのまま意識を失ってしまいました。雪女はさっき見た男の痴態を、すぐさま自分の記憶から消し去る作業に入りました。
―それから数分後。
雪女は気絶した少年を引きづって、雪女と実家である鎌倉の中に移動しました。少年は意識を取り戻すと、蹴られたお尻の部分を摩りながら、雪女の前で正座させられていました。雪女は睨みを利かせながら腕を組むと、静かな室内で漸く口を開きました。
「何で地蔵が変態に変わるんだ?」
その肌を突き刺すような冷たい口調に、少年はビクリと体を震わせながら、震える口を無理やり抉じ開けて話し始めました。
「いや・・俺もさっき『じぞ友(地蔵友達)』に聞いてさ・・・」
「・・・へえ」
今着ている少年の服は、雪女がコスプレのために買ってきた、エロゲームの特典である男用の学校制服です。因みに、この服の元々の所持者の名は【ダッシュ=バウンテッド】。雪女が一番の好きなキャラであり、グッズも少々買い揃えているファンなのです。さっきまで着ていた傘帽子と赤マフラーは、一旦雪女の寝室に置くことにしました。
雪女は少年に冷たい視線を流しながら言いました。
「せめて服着てから現れろ」
「・・・はい」
しょんぼりと落ちこむ少年に、雪女は溜め息を吐いて、一旦怒りを治めると、手始めに質問を始めました。
「名前は?」
少年は少し考えた後、肩を落として答えました。
「・・・残念ながら覚えてないです」
「・・記憶・・ないの?」
「・・はい!」
力強く答える少年に、雪女は(どうしてそんなに自信ありげに答えるのだろう)と呆れながらも、(じゃあこの男をどう呼ぶか)を考えることにしました。そして一つの結論に至りました。
「それじゃ【ダッシュ二号】でいいや。ダッシュ二号」
名前というにはあまりにも適当な感じがした少年は、すぐさま意見しました。
「ええ・・それどこから取ったの?」
「エロゲー(大人のおもちゃ)」
「・・・変えてもらえ」
「これでいいの」
「・・・はい」
完全に主導権を雪女に取られてしまったダッシュ二号。結局反論の機会を与えられないまま、少年の名前は【ダッシュ二号】に決定したのでした。ダッシュ二号は―そういえばと、思いついたように雪女に問いかけました。
「そういえば、あなた様の名前は?」
「・・・決めてない」
雪女の意外な返答にダッシュ二号は驚きました。自分の名前を知らない、または決めていないということは、記憶がないダッシュ二号にとっても不自然だったのでしょう。ですが実は、この世界の妖怪は人から名前を付けられることが殆どで、雪女も一人だけでなく、雪の降る所に住む妖怪は、大体【雪女】という名前になってしまうのです。ですが雪女は名前がないからと言って、今まで困るような事は殆どありませんでした。唯一ある事と言えば、物を売り買いする時くらいです。
ダッシュ二号は驚いて言いました。
「決めてないって・・・今までどうやって暮らして・・・?」
「別に困ってない」
ダッシュ二号は毅然と答える雪女の目を見て、本当に困ってないのだということを理解しました。ですがダッシュ二号は、何だか釈然としない気持ちに襲われ、つい言ってしまいました。
「それじゃあ今度は、このダッシュ二号が名前を考えてあげよう・・(やべえ。変なこと言っちゃった)」
ダッシュ二号は、上から目線で言ったことで、雪女は激しく怒るのだろうと思って口を噤みました。
「・・・いや、いい」
ですが雪女は静かに断りました。ダッシュ二号はそんな雪女を見て思いました。(絶対、この子に名前を決めよう)ダッシュ二号の決心は固く、大げさに顎に手を当てて考え始めました。
―
ダッシュ二号はふと、天井に垂れている数本の氷柱を発見しました。一番上から数センチほど細く伸びていき、先端の滴はギリギリの所で固まっていました。ジッと氷柱を見ていたダッシュ二号はその時、ハッと頭の中で何かが弾けたような衝撃に襲われ、少しずつ語り始めました。
「えーっと、氷柱って雫が氷みたいに固まった・・あれだよね」
雪女は(この男は唐突に何を言うのか)と思いましたが、とりあえず「うん、それが?」と答えました。それを聞いたダッシュ二号は、更に続けて言いました。
「そして君は、全体的に『白』で固められている・・・」
「・・・?」
雪女は未だにダッシュ二号の言っていることが理解できずに首を傾げています。が、ダッシュ二号はそのまま言葉を進めました。
「雪女の『雪』は絶対入れたいから・・・」
―・・・しずく・しろ・ゆき・・・
ダッシュ二号は頭の中で一通りの文字を繋げ、そして漢字に直していきました。
「ちょっと読みを弄って【雫白雪】でどうだ!」
ダッシュ二号の命名に、雪女は真顔で答えました。
「・・・なんか普通」
「・・・うーん、それじゃあ最後の所で、時代を表すジュラ紀とかの『紀』を入れて・・・【雫白雪紀】ってのは?・・・」
「いや、いらないから」
ダッシュ二号はやっといい感じの名前になったと誇らしげに提言しましたが、雪女はばっさり否定しました。ダッシュ二号は不満げにぶつくさと文句を言い始めます。
「えーそれじゃあ不公平だよ。君には名前を付けてもらったのに・・・」
粘るダッシュ二号。
「不公平じゃないもん」
「僕だけ名前決めてもらって申し訳ないよ。・・・雪女って呼ぶしか・・・」
「・・・・・それは・・・いや・・だけど・・・」
雪女にとって【雪女】という名前は、どこか余所余所しい感じがして、何ともいえない嫌な名前でもありました。そして今。まさか自分の名前を誰かに決めてもらう何て、雪女にとっては初めての経験で、心の中で激しく揺れ動いていました。
―なしろゆき・・・
別に悪い名前ではない。でも・・・自分何かがそんな大層な名前でいいのだろうか。雪女は心の中で考えました。そして改めて思いました。自分に相応しい名前って、何なのだろうか・・・と。
ダッシュ二号は、そんな雪女の心情を即座に見抜き、雪女の迷っている間にこう言ったのです。
「それじゃあ決定だね♪」
「ちょと待って!まだ」
必死に抵抗する雪女に対し、ダッシュ二号は人差し指を横に振って言いました。
「だ~め!これから僕の名前は【ダッシュ二号】。君の名前は【雫白雪紀】に決定しました!拍手!」
すっかり主導権を奪い返したダッシュ二号は、一人で拍手して祝いました。雪紀はいまだに納得していませんでしたが、何だか嫌な気がしない。そんな気持ちが自分の体を柔らかく包み込んでいました。
これが雪女こと【雫白雪紀】と、地蔵こと【ダッシュ二号】の初めての出会いとなったわけです・・・
ようやく決まったの名前なのですか、雪女→雫白雪紀。変態→ダッシュ二号。ダッシュ二号はいつかさらに名前が変わりますが、とりあえず第二進化名前ということでご了承願います。次回から二人でテレビゲームを遊びます。お楽しみに・・・