第十七玩 なくなった思い出
エロオタの目の前に映る姿は、自分と全く同じ姿形の生き物。戸惑いを隠せないエロオタに、目の前の男から告げられる衝撃発言。エロオタは、雪紀は、・・衝撃の十七話。
永遠に降り続く雪の山。その山の麓にある鎌倉から五キロ離れた雪絨毯に、二人の少年が向き合っておりました。少年二人の顔から体、そして爪先にかけて全てが同じ。唯一違うのは服の色だけ。エロオタは目の前の人物の口から、次から次へと出る言葉に驚き、そして戸惑うのでした・・・
「俺はもう一人のお前だ。そして同じ人間が二人別れている状態が異常であり、すぐにでもお前を倒し一つにならなければ、どっちも死ぬ(確証はないが、俺の魂が叫ぶんだよ。『早く一つになれ!でなければ諸共死ぬぞ!』てな)」
「・・・・」
エロオタは目を大きく見開いて、自分と似たエロオタ、略して【似せオタ】を注目しました。嘘の可能性。それを見極めるために。ですが似せオタの目は何の迷いも淀みもなく、ただ一点、エロオタの目を睨み続けていました。エロオタの頭は、まさに激しさを増し続ける嵐。これ以上思考を続けていたら、破裂してしまうレベルの動揺です。これ以上似せエロオタの言葉を聞いていたら、そしてもし似せオタの言う言葉が本当なら、エロオタは似せオタと戦わなければなりません。
と、エロオタの頭の中に一瞬、雪女の顔が思い浮かびました。雪女の顔を見た途端、エロオタの心は一気に冷静さを取り戻し、似せオタを見つめてこう言いました。
「残念だけど・・・こっちも用があるんでねえ。さようならっ!」
エロオタは似せオタが瞬きしに目を瞑った隙に、傍にあった雪を豪快に一掴みすると、似せオタに向かって一気に投げつけました。
「な!」
似せオタの視界が突如として雪のシャワーに塗れ、雪の一部が目の中に入りました。似せオタは極度に冷たい結晶版が入り込んだことで叫び狂い、地面をのたうち回りました。ですがほんの数刻経つと、雪は目の裏側で溶け、似せオタの目はすぐに自由になりました。そしてエロオタの場所をすぐに見渡しましたが、既にエロオタの姿はどこにもおりませんでした。
「くそがっ!・・・逃げやがって――まあいい。また今度だ。必ず見つけ出し、必ず俺がお前になってやる・・!」
似せオタの眼光はまだ消えることのない、ただ一閃、逃げ果せたエロオタに向けて言いました。似せオタは本能で気づいていました。もう一度エロオタと出会い、そしてもう一度戦うと・・・
エロオタは今、手を滅茶苦茶に振り回しながら、雪紀の家に向かって走っていました。ですが長い時を経て降り積もった雪道を、そう易々(やすやす)と走り抜けられるはずがありません。高さ三十センチを超える雪を退かすことに力を費やす一方で、己の体力が着実に追いこまれていくのでした。
―ドサ・・
そして遂にエロオタの体力は限界に達し、片膝を付いたのでした。息も絶え絶えに、視界もぼやけ始め、急激に眠気が襲ってきました。“もう立てない”。そう確信したエロオタに、また雪紀の、今度は悲しみにくれる顔が思い浮かびました。エロオタは諦めかけた自分を叱責するように膝を殴ると、大きく息を吸い込んでから立ち上がりました。
(俺はいいんだ・・ただ―)
自分のことよりも、雪紀の顔が悲しみで歪む方が問題だ。雪紀の助けになりたい。雪紀に助けられた恩を、雪紀と一緒に遊んだあの日々を、エロオタは今一度想い巡り、より一層雪紀を強く想いました。
―まだだ。まだ・・ここで死ぬわけにはいかない!
エロオタは最後の力を振り絞ると、節々(ふしぶし)痛む足を上から下へ、下から上へ、嵩張る雪を払いのけながら前へ前へと伸ばしました。頭が段々(だんだん)ボーっとして、意識が急激に薄れていきます。冬の寒さ冷たさが、エロオタの生きる気力をじりじりと奪っていきます。でも足は止まることなく、歩み続け―そして・・
「着いた・・!」
エロオタは遂に厚い雪の層から脱出しました。深さが一気に減ったのを感じると、すぐに雪紀が均した雪道だと確信しました。エロオタの通りやすいように、雪紀独りで綺麗に均してくれた道。エロオタは雪紀に感謝しながら、一歩一歩進みます。そしていよいよ雪紀の鎌倉まで、目と鼻の先です。エロオタはぐんぐん体力を取り戻しながら、歩く速さを上げて鎌倉に向かいました。
そしてやっとの思いで雪紀の鎌倉に着きました。
―雪紀ちゃんは!
エロオタは何かに駆り立てられるように鎌倉に走りました。そして鎌倉の入口にある暖簾を潜ると、目の前に広がる光景に、エロオタは一瞬で血の気が引きました。
「・・・雪紀・・・・ちゃん・・・ごめん」
目の前に映るのは、赤い血を至る切り口から流して倒れる雪女【雪紀】の姿でした。雪紀は眠るように横たわり、雪紀の周りには何人かが集まった足跡が、まだ薄っすらと残っていました。エロオタは顔を真っ青になりながらも、すぐに雪紀の元に駆け寄り、肩を揺すりました。
「雪紀ちゃん!雪紀ちゃん!雪紀・・」
「んん・・・」
「!」
エロオタが肩を強く揺すったことで、雪紀は小さく呻きながら目を覚ましました。片目を擦りながら開けると、エロオタの顔をジーっと見つめました。エロオタは雪紀の無事を確認すると、ホッと胸を撫でおろしました。
「はあ・・よかったぁ・・生きてて・・」
「・・?」
安心するエロオタに対し、雪紀はどこかおかしなものを見るような目で、エロオタを見ていました。エロオタはそれよりも雪紀の無事に安堵し、地面にへたり込みました。そして雪紀の口から、自然にエロオタに向かってこう言いました。
「お前・・・・誰?」
「・・・・・・え?」
エロオタは雪紀の言葉に、時間が止まったように動かなくなりました。まさか雪紀が自分の顔を見て、そんな言葉を言うなんて思いもしなかったからです。それでも雪紀は本当に驚くように、エロオタを凝視しています。
そして―
―ドスッ
エロオタは悲鳴を上げる間もなく、頭から粉々に砕け落ちました。石が何かの弾みで罅を生み、瓦礫となって崩れるように・・そしてエロオタの背後にはエロオタと同じ顔、似せオタがおりました。似せオタは不敵に笑うと、こう言いました。
「邪魔したな。もうお前を邪魔する奴はいない。好きなだけゲームしてろよ、じゃあな」
似せオタはそれだけ言うと、そのまま踵を返して鎌倉を去っていきました。雪女は一連の光景をただ茫然と眺めながら、ふと何かを思い出し、こう言ったのです。
「あ、今日新作ゲームの発売日だった。買いに行こっと」
雪紀はスッと立ち上がると、ふと体の周りに染みつく傷を見て、漸く自分が傷だらけであることを知りました。雪紀はびっくりしてそのままお風呂へ直行しました。お風呂に入るために鎌倉を出ようとしたその時、雪紀は崩れ落ちた石の残骸を見て、こう思いました。
「後で掃除ししよっと・・」
雪紀は軽快な足取りで外にあるお風呂場へ走っていきました。石の残骸は雪紀が戻ってくるまで何の変化もないまま、その後雪紀によって掃除されたのでした。
記憶をなくした雪紀。似せオタに倒されたエロオタ。崩れ去った二人の絆、二人をいとも簡単に壊した『朝倉柚子乃』という少女、そしてエロオタに似た人物。この四人に待ち受ける運命は・・・では次回。




