第十一玩 お風呂とツインテール
今回はお風呂とツインテールの二本でお送りいたします。お風呂の話がようやくかけて嬉しいです。雪女と地蔵のお話はまだまだ続きます。
雪女はお出かけをする前に、いつも髪を右側と左側に分けて結んでから外に出る習慣がありました。自分の髪型が『ツインテール』という名前のだと知ったのは、ゲームを始めてからすぐのことでした。
ある日、雪紀はまた新作ゲームを手に鎌倉に帰ってきました。外の温度はいつもより少しだけ暖かく、雪紀は雪降る道を少しだけスキップして来たので、体が気持ちいいくらいに疲れていました。雪紀は汗が額から流れ落ちる中、とりあえず帰ったらすぐにお風呂に入ろうと思いました。雪紀が新作ゲームを机に置いて、着替えの服を持ってこようと着替えの入った棚に向かいました。丁度その時、エロオタは思いついたように「そういえば・・」と切り出して、雪紀に質問しました。
「その髪・・どうしてツインテールなの?」
雪紀は突然の質問に少しだけ戸惑いました。そしてボーっと天井を見上げて考えた結果、雪紀はこう返しました。
「・・・何でだっけ?」
「え!知らないの!?」
「・・・(コクリ)」
驚くエロオタに、ただ茫然と頷く雪紀。雪紀はどうして外に出る時に限って、髪をツインテールに結んでいたのかをすっかり忘れていたのでした。とりあえず雪紀は疲れた体を癒しに、鎌倉のすぐ隣にあるお風呂に向かって行きました。エロオタもそういえば一週間以上鎌倉に住み始めて、一度もお風呂に入っていないことを思い出し、雪紀の後ろをノコノコついて行きました。
鎌倉の隣には大きく盛り上がった雪山がありました。ですが、そこにお風呂と言えるものはどこにもありません。エロオタは雪紀の背後から首を傾げて言いました。
「何をするの?一体」
「風呂」
雪紀はそう言うと、鎌倉に立てかけてあった鍬を持ち上げ、雪山を上から一気に振り下ろしました。そしてそのまま自分の方に鍬を引くと、雪山の中から桶の一端が顔を出しました。エロオタは雪紀を手伝うため、もう一本の鍬を手に全ての桶に纏わり付く雪を取り除いていきました。
―それから十分後・・
「おお・・!でもこれって」
「うん。雪紀用」
そう。桶と言っても雪紀が丸々入る程度の小さな桶。エロオタの成人サイズが入ることは到底不可能でありました。エロオタはガックシと肩を落として落胆しました。これではお風呂に入ることは出来ません。エロオタは肩を落としたまま回れ右をして帰ろうとしたその時、雪紀はエロオタの服を抓んでこう言いました。
「もっと下・・掘れ」
「・・え?」
「ほれぃ!」
雪紀は自分が持つ大きな鍬をエロオタにつき出しました。エロオタは雪紀の言う意味が分かりませんでした。ですが、とりあえず雪紀用の桶の下、平地の雪の上を鍬で引いてみることにしました。
―ガリ
「あ・・え?」
「これは念のため」
地面の下から一回り大きな桶の一端が現れたのです。エロオタは驚きながらも、鍬を使って必死に大きな桶を掘り起こしていきました。
「おお・・」
エロオタは漸く大きな桶の全貌を見ると、ゆっくりと桶の中に自分の体を入れました。雪と土の入り混じった大きな桶は、エロオタの体をすっぽりと入る大きさでした。
「よっしゃあ!ありがとう雪紀ちゃん!」
「別に・・」
雪紀は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまいました。そもそも雪紀が大きな桶を作った理由は、怪我をした熊をお風呂に入れるために作ったのです。ですが最近は熊を見かけることがなく、結果的に熊用の桶を自分用の桶の下に埋めることにしました。まさかその桶がエロオタの体をすっぽり埋めるほど大きいとは・・雪紀は心の中で熊に感謝しました。
(ありがとう・・棟梁さん)
熊の名は【棟梁】といい、森の中では壊れた家を治してくれるいい年をしたおじいさん熊です。今もどこかで家を治して回っているでしょう。また雪紀に会うのを楽しみにして・・・
そして二人は隣同士で・・としないように鎌倉を隔てて桶に湯を入れ、エロオタは一週間ぶり、雪紀は一か月ぶりにお風呂に入ることになりました。石鹸は新作ゲームの付録で取って置いたので、抜かりはありません。一個だけしかないので、雪紀⇔エロオタと投げ合うように石鹸を交互に使いました。そして雪紀は久しぶりに入るお風呂に、とても幸せな顔で堪能しました。
「お風呂ってこんなに気持ちいいんだね・・」
「うん・・ふぅ~・・」
エロオタにとって初めてのお風呂は、とても心地よいひと時だったのでした。
そして雪紀はのぼせて倒れないように早々(そうそう)にお風呂を後にして、初めてのお風呂でのぼせる時間帯が分からないエロオタを「はよ来い!」と急かして、服を着て、鎌倉に帰ってから少しだけ休憩を取りました。
横にあった扇風機を回して涼む半裸のエロオタを他所に、雪紀は冷蔵庫からコーヒー牛乳を二本持って炬燵の上に置きました。
「飲め」
「おおナイスタイミング!雪紀ちゃん!ゴクゴクゴクッ・・」
「ごく・・ごく・・ごく・・」
雪紀とエロオタは、美味しそうに冷たいコーヒー牛乳を飲みました。雪紀は漸くコーヒー牛乳を飲み干すと、いつの間にかエロオタが雪紀の顔を見つめていました。
―ジーッ
「何?」
エロオタはまじまじと雪の髪を見ていました。先ほどドライヤーで乾かしたはずの雪紀の髪は、未だに水分で含んでいて、トゲトゲだった先端部分は綺麗にV字に下ろしていました。エロオタはお風呂に入る前に気になっていた、雪紀の髪型のことを思い出しました。
「何にも思い出せないの?ツインテールの理由」
「・・・あ」
雪紀はツインテールという言葉から、もう一度頭の中をかき混ぜてみました。すると頭の中の映像に、一瞬だけ薄っすらと女の子のような絵が流れました。ですが周りの砂嵐が邪魔して女の子の姿がはっきりと見えません。ですが、雪紀にとってその映像は、あの(・・)女の子のように思えてなりませんでした。
「女の子・・」
「女の子?」
「うん」
「村人?・・・」
「ううん、違う」
ということは、村人が来る前に出会った女の子になります。エロオタはゲームを記録する用のノートとペンを取り出して、もう一度雪紀に質問しました。
「その女の子、特徴とか教えてくれる?」
「え・・・・さっぱり・・」
一瞬だけ映った映像では特徴を確認するには難しく、雪紀は眉間に皺を寄せながら必死に考えましたが、まだまだ思い出せません。エロオタは他にいい方法はないか考え、ある一つの方法を導き出しました。
「それじゃあ・・・なんか色んな女の子が出るゲームとか知らない?」
エロオタの唐突な提案に、雪紀は自然と棚の方に目を向けて答えました。
「ある・・・けどクリアしたゲームはやらない」
「やってないゲームは?」
「・・・『幼女育成ゲーム改』なら・・・ある」
雪紀はそう言うと、奥の棚から十年前くらいの昔風の絵のゲームソフトを持って来ました。エロオタはすぐさまパソコンを起動し、ゲームディスクを入れて『幼女育成ゲーム改』を開始しました。雪紀はエロオタの意図が何なのかを知るため、パソコンの画面に集中して見ることにしました。
・・・
内容は卵から生まれた五人の赤ちゃんの中から一人を選び、十二歳になるまで育て、お嫁さんにするゲーム。イベントは学校の重要イベント(運動会・文化祭)、遊園地、温泉くらいしかなく、絵も五種類の幼女に各五種類の絵しかない所謂クソゲーで、雪紀はいつの間にかそのゲームを忘れておりました。
ですがゲームを進めていき、ある一人の幼女の名前を見た瞬間、雪紀の記憶からある名前を思い出しました。
「柚子乃ちゃん・・」
名前を思い出した雪紀の頭の中の映像から、途端に砂嵐が消え、過去の情景が鮮明に明らかになっていきました。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・て・の?
「・・・」
「お姉ちゃん?何見てるの?」
「!」
雪紀は気が付くと、女の子を見ていました。雪紀は前髪の隙間を、目を凝らしてみることで、少女の顔を確認することができます。女の子は雪紀よりも少し小さく、雪紀の髪は前も後ろも地面まで垂れ下がるほど長く伸びきっていました。雪紀はその時、白い着物を着ておりました。そして女の子の顔は傷だらけで、服も本来の状態からかけ離れるくらいビリビリに破れていました。
「・・あ」
雪紀は徐々(じょじょ)に当時の自分を思い出しました。この頃の雪紀は髪の毛が邪魔で、切るのも面倒だったので髪を伸ばしっぱなしにしていました。ゲーマーになる前は、山の周りを只管歩き続け、歩き疲れればいつも通り、山の麓の鎌倉に帰るのですが、今回は帰る途中で目の前の女の子に出会ったのです。女の子は雪紀の髪を終始不思議そうに見つめていると、漸く白い息と共に口が動きました。
「お姉ちゃん」
「・・?」
「髪ボーボーだよ?」
「・・・」
女の子はそう言うと、ポケットの中から紅色のゴムを二つ取り出して、雪紀の前に突き出しこう言いました。
「はい。これあげるから結んで?」
「ぇ・・・え?」
女の子は雪紀の手の平に、紅色のゴムを二つ置きました。ですが雪紀は一度も髪を結んだ経験がないので、ゴムを手にしてもどう使っていいか分かりません。雪紀はゴムの前でボーっとしていると、女の子は雪紀の手の平のゴムを取って言いました。
「そんじゃあ私が結んであげる」
「?・・?・・っと?」
「いいから♪いいから♪」
女の子は雪紀の同意を無視して、あたふたする雪紀を他所に勝手に髪を結んでしまいました。そして背中のリュックサックから手鏡を取り出すと、雪紀と一緒に見て言いました。
「どう?」
「あ・・ええ・・・と・・・!」
雪紀は何かもう面倒臭くなっていました。それでも鏡を見て途端に驚きました。
「これが・・・自分?」
雪紀は今正に、初めて見る自分の顔に向かって「可愛い」と思ったのです。そして雪紀の反応を見た女の子は、喜びに満ちた顔で言いました。
「うん。お姉ちゃんすっごい可愛いよ!ほら、私もツインテール」
そう言って、自分のツインテールの髪を見せる女の子を見て、雪紀の心は「キュン」と、楽し過ぎて圧し潰されそうになっていました。雪紀は今の感情を女の子にどう伝えたらいいか分からず、閉じた口をごにょごにょと動かしていると、女の子は笑って言いました。
「私は【朝倉柚子乃】って言うの。ゆずのんでいいよ」
「ゆず・・・のん・・・えっと・・・・あり・・がと・・」
「どういたしまして!」
何年振りだろうか。自分が誰かにお礼をしたこと。雪紀はお礼したはずなのに、つい自分が嬉しくなってしまいました。柚子乃との初めての出会いはツインテールから始まったのです。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「雪紀・・ちゃん?」
「!」
雪紀はいつの間にか、パソコンを見つめたまま泣いていました。漸く思い出した懐かしい記憶。そうだ。あれから自分は髪を結んだんだった。エロオタは雪紀の涙を見て、ハッとしました。
「まさか・・・!」
「うん・・・思い・・出した」
雪紀はエロオタに思い出した記憶の内容を教えました。エロオタは雪紀が言い終わると、嬉しそうに言いました。
「雪紀ちゃんにも友達がいたんだ・・・」
「うん・・・」
ニヤニヤと嬉しそうな顔をして自分を見てくるエロオタを他所に、雪紀は柚子乃との思い出を懐かしみながらゲームを続けるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。別に次が最終回という訳ではないのですが、ここまで話が続くと思わなかったので、やっぱり雪紀ちゃんとエロオタが好きなんだなあと改めて思いました。絵も後程載せるかもしれないので、時々前の話も読んで頂ければ、見たことない挿絵が見れると思います。私は作品を書いた後に、絵のイメージが湧いてくるので、先に絵を見たい方には本当に申し訳ありません。ではまた次回。




