序章
テイルズのベルセリアをやったとき、テイルズっぽい話を書こうと思い、書いた作品。基本的なストーリーラインはありますが、プロットを書いている段階で、期せずして長大になってしまいそうだったので、アウトラインだけを書いた作品になります。その分、展開は早いので、ちゃちゃっと読めるかと。
序章:01*内政
帝国と連合諸国の戦争が続く大陸間。もはや当初の目的が侵略だったのかも分からなくなっている。最近は資源の枯渇か、帝国内部の後継者問題が表面化した所為か、膠着状態が続いていた。何人かの後継者がいるものの、危険視、或いは期待されているのは三人。第一日子、第二日子、第九日子こと第三日女の三人だ。
後継者の順位で言えば一番の候補は第一日子。だが、優秀にして冷徹、且つ端麗な第二日子と比べられる事も多い不遇の王子でもあった。後継者の上位陣の中では割と友和派な為、連合諸国からの期待もあるものの、第二日子の傀儡との噂もある。対して女性で唯一の候補者である第三日女は、昨今の内政不安、難民の増加、教育や貧富の格差の是正に取り組む博愛主義者であり、早期に和平を望む反戦、融和派だ。
後継者争いが大きく表面化したのは十年ほど前。当時の皇帝が急死した事に起因している。国交を多く持たない大陸間の為、正確な情報は伝わってきていないが、跡目争いに巻き込まれ、暗殺されたとの話も聞こえてきている。確かにその頃を境に大陸間の戦争は休戦でも停戦でもない膠着状態が始まり、帝国の装いも変わってきたように思われた。
序章:02*寓話
戦争から逃れてきたのか、負傷した男がやって来た。迎えたのは村娘。戦争で家族を失ったひとりの戦災者だ。女は男を介抱した。同じように戦争の被害者だからだ。意味はない。ただの同情だ。戦争の被害者は助け合わなければならない。そういう慣わしに従っただけだ。
手当し、二晩ほど寝床を貸したが、翌日にはいなくなっていた。書置きには、ありがとう、の言葉と、言い訳じみた出立の理由だった。自分は戦争を終わらせなければいけない、誰が犠牲になるより早く、自分が矢面に立たなければいけないと言った善がった正義が綴られていた。
「薄情者」が、女の言える最大級の皮肉だった。手当と二日分の寝床の礼が一枚の手紙だけとは素気なさすぎる。何よりも、また戦争へ行こうとする男の気持ちが分からなかった。戦争は何時も男を兵士として駆り立て、時には命さえも浪費させる。だからこそ、女は男の行動が理解出来ず、また許せなくもあった。
薄情な男の存在も忘れた頃、再び男は村に訪れた。以前とは違い回復も不可能な傷を負っていた。片腕はなくなり、耳が削ぎ落されていた。名誉の負傷だと言う男に呆れながら、女はまた男を介抱してあげた。が、今度は四日後、同じように男は置手紙を一枚残し、女の下を勝手に去って行った。再び、女は「薄情者」と罵りながらも、以前とは違い心配する気持ちが強くなっていた。
戦争は激しさを増していた。女も戦火に巻き込まれ、左目を失い、顔や体に消えない火傷を負った。村は焼け落ち、別の場所へ移動した。少しばかり戦争の只中の国から遠退き、ひと時の落ち着きを取り戻そうかと言うとき、停戦条約の噂が聞えるようになった。疲弊と消耗が繰り返されるだけの戦争に人々は疲れたのか、いや、或いは戦う人が戦争するほどの数に足りなくなったのかも知れない。が、和平の急先鋒だった高官が暗殺されると、新たな火種を理由にまた戦争が勃発した。
もはや大陸の何処にも逃げ場所がないと思われた頃、女は男と再会した。男は傷を増やしていた。足は一本となり、目もひとつになっていた。体中には傷があり、見るも無残な格好ながら、その瞳の輝きだけはより一層と増していた。男と再会した女は何故か泣いた。そしてまるで運命だったかのように、その晩、互いの脆い身体を抱き合い、寝所を共にした。
迎えた朝、兵士に包囲されてしまった男と女の寝所。逃げる術もない。争う術もない。女は凌辱され、男はそれを傍観させられた。男は叫んだ。女は咽び泣きながらも、抗えない苦痛と僅かばかりの快楽に狂いそうになった。漸く解放された女に生きるだけの力は残っていなかった。気持ちの面ではなく、凌辱の序に加えられた暴力が、文字通り女の命を削っていたのだ。瀕死の身体を引きずり、男の元まで辿り着いた女だったが、無慈悲にもその背中に剣が突き立てられる。続け男の身体も剣で貫かれ、二人は兵士らに殺された――――そのときだった。男の死体は立ち上がり、兵士らに襲い掛かった。
「そうか。僕には戦争を終わらせる事も、彼女ひとり救う事も出来ないのか。これが……神様なんて、とんだお笑い草じゃなか」
男は失った腕を伸ばし、壊れた身体を直すと、その背中に生えたあまりにも巨大な翼を羽撃かせた。自分が原因で始まった戦争の本当の理由をもはや誰も知らない。それでも人として世界に平和をもたらしかった男は、しかしながら自分の為に神となった。死に別れた女との再会を願い、呪詛をかかけるように女の薬指を喰いちぎり、祝詞を捧げるように空へと舞い上がった。
序章:03*神隠
辺境の地・オケアノスにある小さな町は、とある寓話の発祥地であり、モデルにもなったと言われている。観光地ではないが、昔から悲劇の双子を模したモニュメントも建っている。戦争に巻き込まれ、死に際に再会を約束した男女が、平和な時代、双子の兄弟とし生まれ変わる寓話だ。残酷な童話のひとつとして世間には名が知られているものの、男女のまま再会すると言ったアレンジ版の方が好意的に受け入れられている。
そんな町に双子でもないのにそっくりの少年がいた。ひとりは理知的なディーノ・フィオレンティーノ。一方は臆病ではないが慎重なクガ・フィオラヴァンティだ。二人の両親らが家族ぐるみで付き合っていた事もあり、小さい頃から、それこそ本当の兄弟のように仲が良かった。件の童話で茶化される事もあったが、二人は似ている事に運命を感じていた。ディーノの妹が生まれてからは何時も三人は一緒だった。
帝国の連合諸国の戦争は散発化していたものの、相変わらず起きていた。以前より沈静化したのは、先王が死んだことに起因している。戦争にしろ、政治にしろ、その先導者たるトップが死んだのだ。辛うじて一枚岩だった帝国を指揮する者がいなくなり、力が分散したからに他ならないのだろう。
とは言え、寓話でも女が最後に落ち着いた辺境の地とも言われる場所だ。幾ら連合諸国に属する小国でもその戦火は未だ遠かった。そもそも国力も小さい。戦争に貸し出せるほどの人的資源もないと言った方が正確だ。元より希少な鉱石の発掘などにより協力している国でもある。国際条約が求める最低限の義務は果たしているとも言えた。
ディーノらが生まれ育った町もそんな鉱石の産地だった。最近は妙に諸外国との交易も増え、単価も上がっている。大人たちはこれが戦争の兵器に使われている事を知っているようだったが、子供であるディーノらには関係なく、知り得ない事だった。たまに訪れる兵士や高官らしき風貌の人に興味を抱き、遠巻きに見るのが関の山だった。
その日も鉱石を買い付けに来た商人らがやって来た。けれど、少しだけ趣が違うような気がした。たまに見かける荷車もあった。大量に鉱石を買い付けるつもりのようだ。若しかしたらまた大きな戦争が起きるのかも知れない。と不安に思う大人がいる一方で、戦争特需も期待する人も多かった。勿論、子供には無関係の話だ。収入が増えれば小遣いが増える。食卓に上がる品が増えるくらいの意味しかなかった。
が、その日、ディーノが消えた。何時も通り遊んでいただけだったのに。かくれんぼの途中に消えた。探しても、呼んでもいない。クガとノノアは泣いた。泣くしか出来なかった。親に報告し、町の人にも相談した。総出で探したが、ディーノは見つからなかった。同じように捜索に協力してくれた商人らの話によれば、最近各地で発生している失踪事件かも知れないとの推測が立てられた。それはサクラメントの神隠しと呼ばれており、その行方不明者が相当数だと言われても、友人が消えた事に何かしらの言い訳の辯が立つ訳でもなかった。