8話 神聖スメラギ王国
毎日何かしら更新中。
……いつまで続くかな?
王子視点です。
──国の為に聖女を、召喚した。
──他の世界で生きていた聖女を、無理矢理天涯孤独の身にした。
──罪悪感は、なかった。
全ては国の為、民の為なのだから。
──けれど、今は後悔している。
──あの女さえ来なければ、こんなことにはならなかったのに、と。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「桜、もうすぐでスタンガルトの領地に入るぞ」
「そう、ちょっと遠いのね。半日はかかっちゃったし」
「そうだな。アイツ等も、王都の屋敷に籠っていればいいものを、態々王都から出るなんて」
桜の言い分に、ジン頷いた。
桜のついでで召喚させたあの女は、数日王都の公爵家の屋敷に滞在した後、スタンガルトの領地へと移動していた。
桜の為とは言え、あの女の為に半日も潰れる事になるのは癪だった。
「あっ! ジン、着いたみたいよ。ここって関所でしょ?」
桜の声に、ジンを含む取り巻き達も窓の外に目を向けた。
「あぁ……前に来た時とは、随分様変わりしているな」
「……えぇ、こんな厳重なものではなかった筈です」
ジンを含む取り巻き達は、以前もスタンガルト領を訪れた事があった。
特にジンは、シュレーヴァの婚約者だ。
聖女召喚を行うまで、ジンはシュレーヴァのいる屋敷を訪ねることも多かった。
それが、こんなにも様変わりしているなんて。
──関所はまるで城塞のような、砦と化していた。
壁は領地と隔てるように高々と、途絶える事はなく続いている。
そして何より印象的なのは、壁は真っ赤だった。
ジン達の脳裏には、ふとあの女の真っ赤な髪が思い浮かんだ。
「公爵家は、一体これ程の財源を何処から……?」
「今の状況で、ここまでのものなど用意するのは不可能な筈です」
ジン達の疑問は最もだ。
王族や貴族は贅沢三昧をしているが、その分民の生活は熾烈をきしている。
王都の城壁だって、このような立派なものではない。
「そうなの?……もしかして、あの人がシュレインに我が儘を言ったんじゃ……?」
「……そうだな、桜の言う通りに違いない」
「……そ、そうですね。女神様も、何であのような者を……」
ジン達は、決して納得した訳ではなかった。
ただの我が儘、それも確かに理由の1つではあるのだろう────けれど、それだけが全ての理由ではない筈だ。
しかし、その真の理由を認める事は彼等には出来なかった。
それは自らの行動、そして自らの愛しい人を否定する事に繋がる。
だがら、彼等は思い浮かんだ真実に目を瞑った。
「──何だとっ!? 王族の命令であるのだぞっ!!?」
そんな彼等をよそに、馬車の外では怒号が響いた。
「……何だ?」
「騒がしいですね。少し様子を見に行って参ります」
様子を確かめる為に、取り巻きの内の1人が外へと出た。
「どうかしたのかな?」
「大丈夫だ。すぐに片がつくだろう」
心配そうな表情を浮かべる桜を、ジンは腰を抱き寄せて落ち着けさせた。
だが、戻って来た取り巻きから知らされたのは、予想外とも言える真実であった。
「殿下っ!! 大変ですっ!!」
バンっと、勢いよく扉が開かれたと思えば、顔を青くして叫んだ取り巻き。
「……貴様、桜もいると言うのに」
「それどころではありません!! スタンガルト領が、独立を宣言しています!」
ジンが眉をひそめて抗議をしようとしたが、取り巻きの1人はそれを遮って告げた。
「何だとっ!!?」
ジンは衝撃的な内容に、桜を放って立ち上がった。
「門番に追い払われました。この領は、一国として独立すると。新たな国の名は───」
「────神聖スメラギ王国」
それは、この先何千年と続くある1人の女王を戴く大国となる国の名だった。




